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夜の星のメンテナー  作者: M
3章 昔の話

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25 Jun. 14016「7th floor」

25 Jun. 16 -コーラルリーフ-


 ニライカナイコロニーの役所は何層もの珊瑚が重なったような形をしており、コーラルリーフと呼ばれる。

 ボクは、その入口ゲートの横に立つ受付のアンドロイドに挨拶する。


「おはよう」

「おはようございます。進捗報告ですか?」

「そう。七階まで」

「少々お待ちください」


 彼とは長い付き合いだ。

 エレベーターを待つ間に話しかけてきた。


「最近マイプラ警報が多くて、皆さん困ってますよ」

「外は嵐がすごいんだ」


 コロニー周囲のマイクロプラスチック濃度が高くなると警報が出る。

 外気を取り込めなくなり、コロニー内の換気が止まる。二酸化炭素濃度や湿度が上がってしまうと、産業を止める必要があるのだ。


「無理をされませんように」


 彼はボクの心配をしてくれる。

 ボクは「お互いにね」と答えて、エレベーターに乗り込む。

 セキュリティ上、エレベーターの行き先は彼が設定した所にしか行けない。コーラルリーフの七階は、プロジェクトメンバーのオフィスだ。


 七階に到着すると、廊下には監視用の小型ドローンが飛んでいる。

 ボクが一番手前にある会議室へ入ると、ちょうど上司であるヤギさんが部屋を出ようとしていた。


「座って待ってて」


 ボクはいつもの席に座る。

 コーラルリーフの七階からは海を見下ろせる。でも、それは人工的な大きな塩味の水たまり。箱舟水族館の一部だ。本当の海じゃない。


「お待たせ」


 すぐにヤギさんが戻ってきた。その後ろには、ぷっくりと太った男の人。彼は東京コロニーから来た課長。さらに上の上司だ。

 普段はオンラインでしか顔を見ないけど、今日はコーラルリーフへ出張で来てたみたい。


「このコロニーは、東京より蒸し暑いな」


 そう言って課長は上着を脱ぐ。

 ヤギさんが腕に付けた端末を見て答える。


「マイプラ警報が出てて、換気ができないんですよ」

「普段から暖かい気がする」 

「ニライカナイは南にある島に建てられたので、もともと気温が高く設定されているんです」

「なんでそんな所にコロニーを作ったんだ」


 課長は報告聞きたくないのかな。

 でも、ボクは誰かと話ができて楽しい。


「空港は赤道に近いほうが、月に行く燃料が少なくて済みます」


 ボクの答えに課長は驚いた顔の後、納得の表情をする。


「だから、ニライカナイの(そば)に空港があるのか。腑に落ちた」


 ヤギさんが「空調を調節しますか?」と聞くと、課長は首を振って席につく。


「では、始めましょう。報告お願いします」


 ヤギさんの合図で、ボクはいつもどおり進捗報告を始める。


 4×4砂漠における泉の中和状況、プラスチックの減り具合、ワームの頭数、死体量の合計。

 今回の数値を報告すると、すぐさまグラフ化されて、モニターに表示される。


 課長はふんふんと頷いて、順調だなと適当なことを言う。

 でも、こんな報告は家からオンラインでもできる。


「今回、群青の谷で作業中に発掘した物です」


 ボクは、鞄から金の指輪とアルミペダルを取り出した。

 発掘物を提出する時、ボクはコーラルリーフの七階に来るのだ。

 海を漂っていた大量のプラスチックは、海が凍って海面が下がると堆積して風化し、広大な砂漠となった。そのプラスチックに混ざって漂っていた小さな金属が見つかることがある。


 モニターには発掘した時のボクの見た光景が映像として流れる。

 ボクがプラスチックの塊を拾い上げ、崩すと中から指輪が顔を出した。

 どうやら、課長は指輪よりもペダルに興味があるようだ。


「また、何か出たら報告するように」


 課長は提出物を持って早々に部屋を出ていった。

 ヤギさんは忙しいのに、ボクを入口まで見送ってくれた。


「引き続きお願いします」

「もちろん。じゃあ、またね」


 もう少し話をしたかったな。


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