23 Aug. 14006「4×4」
23 Aug. 06 -4×4砂漠-
ニライカナイコロニーの西には、広大なプラスチックの砂漠が広がっている。
久しぶりに発掘調査隊が砂漠に潜る。
今回の調査員は五人。彼らは、人間がコロニーの外で活動するための防寒着を纏っていた。フルフェイスで気密性と防寒性がとても高い、宇宙服のような装備。
胸には青葉のマーク。プロジェクトのメンバーの証だ。
ボクはその調査隊と一緒にキャタピラ車に乗っていた。
メンテナーには発掘調査隊の案内役という仕事もある。防寒なんて無関係のボクは、ゴーグルに上着、ブーツといったいつもの格好。
「なぜ、ここが『4×4砂漠』と呼ばれているか知ってるか?」
隊長が隊員たちに聞く。が、すぐに答えは出ない。隊長は、勉強不足だなと呆れ顔で答えを言う。
「この砂漠は北緯24度から28度、東経124度から128度に渡って広がっている。緯度で四度、経度で四度だから『4×4』なんだ」
隊員から「勉強になります」「さすがです」という声が上がる。もっと勉強するようにと笑う隊長。
今回の調査隊は、そういう関係性なんだなと一発で分かった。
キャタピラ車が目的地に到着。
ここまでくれば、砂の深さは四十センチほどしかない。
ヘリで飛べばもっと早く着くんだけど、嵐に巻き込まれると危険なので半日掛けて地面を移動している。
ボクはブーツのスイッチを入れて一番に降りる。続いて調査隊の面々が降りてくる。
「マイプラ濃度は問題ないな、準備を始めよう」
隊長の指示で隊員たちが砂を掘ると、やがて氷の層が見えてきた。かつては海と呼ばれていた氷床だ。
夜が明けなくなって一万年。地球の気温はどんどん下がり、全ての海が凍ってしまった。
全球凍結
雪球地球
スノーボールアース
空気中の水蒸気もほとんどが凍ってしまい、雨も雪も降らず、雲すらなくなってしまった地球。
乾燥した冷気に、風化して細かくなったプラスチックが混ざった空気。コロニー外の環境は、生命活動がほぼ不可能な死の世界となった。
調査隊は簡易なシールドマシンを組み立てる。マシンは氷床を砕きながら斜め下に掘り進んでいく。
人が立って通れるギリギリの大きさの穴が出来て、ボクは調査隊についていく。
「やはり表層付近は、プラスチックばかりですね」
隊員は氷の壁にセンサーを当てながら、もともとは海だった場所を観察する。
人工の氷の洞窟を数メートルほど下っていくと、氷が青みを帯びてくる。純粋な氷の結晶は波長の短い光を吸収し、青い光を反射するからだ。
泉の青とは違った神秘的な青さ。
「これが見たかったんだ」
隊長が呟き、隊員たちが頷く。
アンドロイドに発掘を任せず、危険を冒してまで人間が調査に来ているのは、こんな光景を目の当たりにしたいからだろう。
歩いて数時間。数百メートルは降りてきただろうか。
「隊長、こちらを!」
隊員の一人が壁に当てたセンサーを見て叫ぶ。
その方向の氷の中に小さな黒い影。
「あれは何だ?」
「くちばし……鳥っぽいですね」
発掘の目的の一つに絶滅した種の捜索がある。氷床に閉じ込められた生物を発掘するのだ。
隊員が影の方向へ氷の壁を掘っていく。ボクは落ちた破片を片付けるのを手伝う。
影に到達すると、工具で周囲を丁寧に削る。
取り出されたのは、凍った小鳥。
「ひばりの仲間でしょうか」
「鳥とは珍しい」
化石と違って、遺伝子が冷凍保存されていれば、絶滅種を再生できる可能性がある。この発見は十分な成果だ。
今回の発掘の様子は、映像がまとめられてスペシャル番組として放送される。
帰還するキャタピラ車の中で、調査隊は盛り上がる。
でも、今回ボクはほとんど役に立てなかった。
ちょっとだけ悲しい気持ちで車に揺られていた。




