22 Apr. 14002「嵐ヶ丘」
22 Apr. 02 -嵐ヶ丘-
「おはようございますー」
今日もガーネットを運ぶトラックがやってきた。
ボクが玄関から出ると、青い三輪トラックはいつものように家の裏手に回る。
電灯を点けて、壁のシャッターを開くと、トラックは流れるように向きを変えて荷台をピッタリと付けた。
「いきますよー」
荷台を傾け、ジャラジャラとガーネットを流し込んだ。
いつもより短時間で作業が終わったので、ボクは驚いてトラックに聞く。
「これだけ……少なくない?」
「そうなんですー。先月はずっと風が強かったでしょー。その影響で材料の入荷が少なくてー」
「ああ、そうか」
この家も丘の上の吹きっさらしにあるから、嵐がくると砂と氷の粒で半分埋まってしまうことがある。先月は何度か砂掻きをする羽目になった。
ここが嵐ヶ丘って地名なのも納得できる気がする。
「プラントの稼働率も下がって、皆も暇そうにしてましたー」
そんな話を聞きながら、ボクは笑う。
普段ボクと話をしてくれる人なんていないから、彼との会話の時間は貴重で、とても楽しい。
「しかし、今日は寒いですね。氷点下五十度ですよ」
「そうだね」
ボクには気温が分からないから、彼に話を合わせて笑っておく。
「受取票の確認をお願いしますー」
トラックの窓ガラスに表示された受取票に手のひらをかざし、受領確認する。
「次は、二週間後ですー」
「それまで、これだけでやるの?」
この量だと今週分くらいしかない。つまり、来週は泉を中和する仕事はほとんどできない。
「休んじゃえば良いんですよー。トラックだって、アンドロイドだって、ちゃんと休まないとー」
「そうだね。じゃあ、休みがとれたらプラントでも行ってみようかな」
「良いですよー、見学大歓迎です。許可おりたら、連絡しますねー」
トラックは、頭を下げる代わりにヘッドライトを上下させる。
そして、プラントへと帰って行った。
「よし」
ボクは淋しい気分を変えるために気合を入れ、熊手を持ってくる。
零れたガーネットをたぐり寄せ、シャッターの前に集める。そのまま、熊手に引っ掛けて、家の中へと放り込んでいく。
ガーネットの強い酸性のせいで、この熊手もかなりボロボロになってきた。そろそろ買い替え時かな。
仕事が休みになるなら、コロニーに行って新しいのを買ってきても良い。でも良いのがなかったら、手袋を付けて作業するしかない。
……まあ、それでも良いか。
さっき入れたばかりの気合が抜けていく。
熊手の頭でシャッターのスイッチを押して、元の場所へ片付ける。
家の中に戻ったけれど、作業スペースに散らかっているガーネットをスルーして、二階のボクの部屋へと上がる。
ラジオのスイッチを入れ、椅子に座る。
コロニーでもラジオを放送しているけれど、コロニーの壁に施された電磁シールドの外に電波が漏れることはない。ボクの家に届くのは、月面からやってくる放送だけ。
約一秒遅れてラジオの時報が鳴る。
聞こえてきたのは、女性の歌声。
知らない歌、知らない声。
でも、その透き通った声は、なんだか心の奥底に響く不思議な音色。
いつの時代の歌だろう。とても古いリズムやメロディだ。
ボクはその歌に聞き入っていた。
淋しくて哀しくて辛い気持ちに寄り添う曲。でも孤独を慰める詞じゃない。
時にその声は力強く、一人ぼっちなんかじゃないと前を向く勇気を与える歌。
余韻を残した最後の音が消える。
力をもらったような気がして、ボクは立ち上がる。
パーソナリティの楽曲解説を聞きながら、一階の作業スペースへと降りていく。
「やることをやらなきゃね」
この歌が生まれた時代のラジオで、もう一度この歌を聞いてみたい。
ボクの日課に小さな目標ができた。




