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夜の星のメンテナー  作者: M
2章 サティの初恋

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20/30

13 Jan. 14032「ジュゴンの見える丘」

 ジルゼさんの出発の日。

 私とパパは、薄暗い丘の上に立っていた。

 二人で、コロニーの天井の向こうに広がる真っ暗な空を見上げている。


「ジルゼさんが一昨日の晩に連絡をくれたんだ。顔を合わせてお別れを言いたかったけれど、忙しくてお店に来れなかったって、謝ってくれた」


 パパが呟く。

 私は応えずに星空を見上げる。北極星のベガがキラキラと瞬いていた。


「この丘は昔、ジュゴンが見える丘って呼ばれてたんだ。サティはジュゴンを知ってるかい?」

「お花? 樹の名前?」

「いや……海に棲んでいた哺乳類だよ。クジラほど大きくはないけどね。もう絶滅してしまったんだ」


 パパは話を続ける。


「一万年も昔。太陽が輝いて、青い空と青い海が広がっていた頃のこと。ここに住んでいた人たちは、ジュゴンが泳いでいるのが見えたこの丘を、大事に大事に残してきた」


 まだコロニーなんて無い時代、教科書でしか知らない風景。

 パパだって見たことないはず。でも、おじいちゃん、ひいおじいちゃん、そのまたおじいちゃんからずっと伝えられてきたお話。


「人間は思い出を残すことが出来る。そして後世に伝えていく。どんな別れがあっても、その思いは……」

「あ! パパ、あれ!」


 私はパパの話を遮って叫ぶ。

 地平線から伸び上がる一筋の光。月への連絡シャトルだ。

 あのシャトルには、ジルゼさんが乗っている。

 ジルゼさんは、ちょっとお茶目なおじさんだけど、実は月の統合政府で働くプロジェクトのとっても偉い人だった。


 私たちは、光が見えなくなるまで見送った。

 パパがちょっとだけしゅんとしている。別れが悲しいのかな。もしかしたら、話の腰を折られたのも悲しいのかもしれない。


「パパ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」


 パパは鼻をすすりながら歩きはじめる。そのまま振り向かず、私に話しかけてきた。


「サティ。……メンテナーさんのこと好きなのか?」

「な、なんで、そんなこと!?」


 私の身体中の血の気が引いていく。まさかパパにバレてるなんて。


「見てたら分かるよ」

「どうでも良いじゃない!」

「メンテナーさんはアンドロイドだ。好きになってもダメだよ」

「パパには関係ないでしょっ!」


 なんでパパ、そんなことを言うの。

 分かってるよ。でも、お兄ちゃんのことが好きなんだもん。

 自然と涙が溢れてくる。


「パパなんて嫌い!」


 私は走り出していた。

 パパから隠れるように走って、丘の麓のトイレに籠る。

 好きになるのがダメだなんて、パパにそんなことを言われる筋合いはない。

 怒りと悲しみと悔しさがごちゃごちゃになって、心がぐちゃぐちゃになっている。

 私は思いっきり泣いた。


 どのくらいの時間そうしていたのだろう。なんだか外が騒がしい。

 トイレを出てみると、警官が集まっていた。その真ん中で囲まれているのはパパだ。


「泣きながら逃げていく女性が写っていたんだ」


 警官が監視カメラを指差す。


「だから、違いますって」

「こんな暗い場所に女性を連れ込んで」

「いや、あれは娘で」

「虐待?」

「いや、そうじゃなくて」


 遠くからでも、パパの困っているのがよく分かる。

 捕まっちゃえば良いんだ。


 その様子を見ながら息を整え、心を落ち着かせると、……少し笑えてきた。

 さすがにパパが捕まると私も困る。

 軽く頬を叩くと、パパを助けてあげることにした。


「すみません」


 謝りながら、パパの隣へ行く。

 ちょっとした親子喧嘩とだけ説明したら、警官は呆れて帰って行った。


「ありがとう、助かったよ」


 パパはホッとした表情になっていた。

 そして、パパは「ごめんな」と申し訳なさそうな顔をする。


「甘い物……。西瓜食べたい」

「わかったわかった」


 パパは私の頭をポンポンと叩いた。


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