2 Nov. 25「take me home」
2 Nov. 25 -嵐ヶ丘-
月が西の地平に沈んだ頃、ボクたちは家へと戻ってきた。
時計はもう夜中の十二時を回っている。
玄関前でバイクを停め、自分とバイクについた砂を払い落とす。
「カウルの裏もお願いします」
バイクのお願いどおり、車体を覆うパーツの裏まで丁寧に砂を拭ってあげる。
武骨な見た目に反して、彼女はとてもキレイ好きなのだ。
玄関を開けて電灯をつけると、バイクを家の中にゆっくりと引き入れる。
丘の上にポツンと建つ二階建ての小さな一軒家。
四角四面の豆腐を二つ重ねたような、のっぺりとした外観。
飾りっ気はないけれど、ボクは気に入ってる。
一階は作業スペース。二階がボクの部屋だ。
バイクを作業スペースの隅に寄せると、床の充電マークが点灯する。
「お疲れさまでした」
「おつかれ」
バイクに挨拶を返すと、彼女は満足したようにスリープモードの準備を始める。
ボクはブーツを脱ぎ、ゴーグルと鞄と上着をハンガーポールに掛けた。鞄から灰色にくすんだ水筒を取り出し、食洗機に入れてから二階に上がる。
「ふう」
着替えを済ませて一息ついてから、ラジオのスイッチを入れた。
アンティークラジオのスピーカーから流れてきたのは、とても古い時代の曲。大勢の人が様々な楽器を使って演奏していた頃の音楽だ。
音質は悪いけれど、これはこれで味があって捨てがたい。
月からのラジオ放送は、月が地平線に沈んでもしばらくの間は受信できる。
ベッドに横になって、電波が入らなくなるまでこの音を楽しむ。
このまま寝ていくのがボクの夜のルーティン。
音楽が終わり、ニュースを挟む。
「各地のマイプラ警報です。オセアニア北西部から南へかけてマイクロプラスチック濃度が上昇して……」
プツン
音が途切れてしまった。
部屋は静寂に包まれ、窓の外からの星明かりが差し込む。
電波が弱くなったのなら、こんな唐突に止まることはない。
ベッドを降りてラジオを見てみる。緑に光っているはずの電源ランプが消えていた。
ラジオに繋いでいる夜光発電機かも。窓際に置いた発電機を手に取る。
窓の外を見る。月は沈んでしまったけれど、晴れ渡る夜空からは十分な星の光が注いでいる。
ボクは逡巡して、一階に降りる。すると、まだバイクが起きていた。
「何かお探しですか?」
ボクは工具箱を手にする。
「ラジオがおかしいんだ」
「古い物を買うからですよ」
「すきなんだもん」
バイクは呆れたようにライトを瞬かせる。
ボクはその瞬間、思い付いた。
「ねぇ、きみのバッテリーをかして……」
「とんでもない!」
「じょーだんだよ」
「もちろんです。おやすみなさい」
即、却下。彼女を少し怒らせてしまったようだ。カウルにほっぺたがあったら、ぷっくりと膨れていただろう。
ボクは静かに二階へ戻って工具箱を開く。
テスターを当ててみると、ラジオにはちゃんと電流が流れている。
となると、原因は夜光発電機。
やっぱりテスターは反応しない。
一年前に買ったときは、結構高かったのに。
ボクは諦めきれずに箱からマニュアルを引っ張りだす。
マニュアル片手に悪戦苦闘すること二十分。
埒が明かない。ボクは夜光発電機を分解してみることにした。
「このネジが……」
増幅管を外した時、ドライバーから落ちたネジが基板の上を転がる。
ポン!
部屋の中で焦げた臭いが広がる。
「あちゃあ」
窓を開けて換気する。
外の冷たい空気が部屋の中に入ってくる。
ボクは、バラバラの夜光発電機をそのままにして、ベッドに戻った。
今週末はコロニーへ買い物に行こう。
ついでにバイクのご機嫌も直ると良いな。
横になって目を閉じた。
ボクの今日が終わる。




