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夜の星のメンテナー  作者: M
2章 サティの初恋

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19/30

19 Dec. 14031「花柄」

 私は、買ってもらったばかりの新しい服に袖を通す。

 深い赤色の布地に沢山の小さな花がプリントされた可愛い服。

 花柄のワンピってあまり冬っぽくはないけど、この服はそんなにおかしくない。


 壁のモニターに自分の姿を写して、姿見の鏡のように使う。

 くるりと一回りしてみると、スカートが膨らんで、お花畑が風に揺れているみたい。

 頭につけた髪留めが、お花の周りを舞っている蝶のようだ。


「ふふっ」


 モニターの中の自分を見て、花畑と一つになったみたいに感じる。

 ポーズをとって、ニヤける私。

 蝶の髪留めがよく見えるように首の角度を何度も調整する。


 なんだか居ても立っても居られなくて、私はお出掛けすることにした。


「お散歩行ってきまーす」

「遅くならないようにな」


 パパの声が、お店の方から響いてくる。


「はーい!」


 私は家を出ると、街を歩いていく。

 見て、この髪留め。

 見て、この服。可愛いでしょ。


 コロニー内の気温や湿度は調整されているから、冬と言ってもそこまで寒くはない。

 一万年前の四季に合わせて、気温が少し低く設定されているだけだから、ちょっと厚着にすれば十分だ。


 少し歩いて、美術館の前で立ち止まる。

 美術館の看板モニターには、花を描いた絵の展覧会の宣伝。

 一万年よりもっと前に描かれたひまわりや睡蓮といった名画も初公開されるらしい。


「太陽の光で育った花かぁ」


 一万年前にはコロニーなんて無かった。太陽も地球を照らしていた。

 花たちは広い大地の上で、太陽を浴びて育つ。そんな御伽話みたいな時代の絵。

 今の花とはどう違うんだろう。

 絵を描いた人たちは、何を遺したくて花を絵にしたのだろう。


「見てみたいな」


 でも、美術館なんて子供一人で入るにはハードルが高い。


「今日はやめとこ」


 パパや友達と一緒なら行けるかな。

 お兄ちゃんを誘ったら来てくれるかな?


「お兄ちゃん……」


 ついつい想いが口から溢れてしまう。

 私は考えながら、また歩き出す。


 この髪留めをもらった時も、好きって言えなかった。

 今から思えば、絶好のチャンスだったのに。

 私はいつになったら、お兄ちゃんに好きって伝えられるんだろう?


「……」


 待って……。お兄ちゃんは、私のことどう思っているんだろう。

 私のお願いを聞いてくれたんだし、嫌いじゃないはず。


 私は髪留めに手を伸ばす。


 告白しても、私みたいに「好きな人がいるから」って断られるかもしれない。

 お兄ちゃんを困らせてしまったらどうしよう。

 バイクさんなら知ってるかな。


「うーん」


 気が付くと、私は公園まで来ていた。

 公園の真ん中には、大きながじゅまるの樹があって、シンボルになっている。


 私は近くのベンチに腰掛け、がじゅまるを見上げる。

 これだけ大きいと、私の悩みが小さく思える……なんてことはない。私の悩みは切実なんだ。大木にだって負けてない!


「どうしたら良いのかなぁ」


 そこへフルーツを沢山載せたワゴンがやってきた。

 ワゴンは小型のキッチンカーで、公園に来ている人たちにカットフルーツやフレッシュジュース、パフェなんかを売っている。


 なんだか考えすぎて疲れた。脳が甘い物を欲しがってる。

 私は立ち上がって、ワゴンに駆け寄る。


「いらっしゃい」

「オススメはなんですか?」

「今日は甘い西瓜(スイカ)が入ったんだ。真冬の西瓜は美味しいよ」


 私はちょっと悩ん……もう悩むのに疲れていたから、即決した。


「じゃ、それで」


 赤い西瓜は、あっという間に四角にカットされる。

 種が取り除かれて、カップに入れられピックが刺さる。


「どうぞ」


 手渡された西瓜を頬張る。

 思ったよりも甘くておいしい。水分と糖分が体を巡る。


 えーと、何を考えてたんだっけ。

 まあ良いか。甘いもの食べてたら幸わせだわ。


 私はルンルン気分でお散歩を満喫した。


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