12 Dec. 14031「想い事」
「あ、お兄ちゃん……いらっしゃい」
もうすぐ夕方になる。私とパパはお店の片付けを始めようとしていた。
お兄ちゃんが、こんな時間に来るなんて珍しい。
「こんにちは、サティ」
いつもの笑顔で挨拶してくれる。でも、どこか寂しそうな顔。
「パパさんは?」
「あ、あの。奥で片付けてる……から呼んでくるね」
私はそそくさとお店の奥へと走っていく。
「ありがとう」
お兄ちゃんのお礼を背中に受け、私は顔を真っ赤にする。
私は洗面台の鏡を見て、前髪を直しながら「お兄ちゃんが来てるよ」とパパを呼ぶ。
「もう今日は来ないのかと思ったよ」
パパは棚に箱を押し込むと、嬉しそうにお店へ出ていった。
私は鏡の前でもう少し粘る。
可愛く見えるかな?
完璧ではないけれど、ある程度は髪型がキマったので、襟を正してお店に出た。
「そう、ジルゼさんが……」
お兄ちゃんと話していたパパがうなだれている。
「パパ、どうしたの?」
「もうすぐジルゼさんが月に帰ってしまうらしい」
月は簡単に行き来できる所ではない。月に帰ると言うことは、二度と会えないに等しい。
せっかく常連さんになってくれたジルゼさんだから……いいえ、仲良くなった友達だからこそ、パパは悲しんでるんだと思う。
なんか、声掛けづらい。
「えーっと、お店の周りの掃除してくるね」
私は外に出ると、すんとすました様子でバイクさんが停まっていた。
「バイクさん、こんにちは」
「こんにちは。サティは元気そうね」
「ええ、とっても。でもお兄ちゃんは元気なさそう」
バイクさんは、お兄ちゃんのことを一番知っている相棒だ。
たまに、こうしてお店の前でお話する。
「サティって、本当に『お兄ちゃん』のことばっかりね」
バイクさんが笑うので、私はまた顔が真っ赤になる。
「今日もほとんどお話できなかった」
好きという気持ちに気付いてから、お兄ちゃんとまともに喋れなくなってしまった。
今までは何でもなかった他愛もない雑談ですら、緊張してしまう。
恥ずかしい…とは少し違う、何と言って良いか分からない気持ち。
バイクさんは、そんな私を見て、慰めてくれる。
「今日は仕方ないわ。誰かと別れるのは、いつも淋しいから」
「うん」
「また、次に来た時にお話したら良いわよ」
「うん」
私は、生返事をしながら考える。
告白してくれた男の子みたいに、いつか私も「好き」の気持ちを伝えられるだろうか。
面と向かうとやっぱり恥ずかしい。ちゃんと喋る自信がない。
あの子は、男だから告白する勇気があったのかな。
それとも勇気とは別の気持ち?
お兄ちゃんの顔が思い浮かぶ。左の眉が下がった顔。
困らせちゃうかな。
小首を傾げて固まる私を見て、バイクさんが「青春ねぇ……」と呟く。
ちょうどお店からお兄ちゃんが出てきた。
「あ……お兄ちゃん。もう帰るの?」
「うん。そうだサティ、これを」
お兄ちゃんは鞄から、髪留めを取り出した。
蝶が可愛く羽を広げている素敵な髪留め。私は両手で受け取る。
「おととい砂漠で拾った髪留めですね」
バイクさんがライトをパチクリと瞬かせて、教えてくれる。
お兄ちゃんは、かなり前に「コロニーの外で良いもの見つけたら、私にちょうだい」って言ってたの覚えてくれてたんだ。
「良いの?」
お兄ちゃんは優しく頷いた。
私は嬉し過ぎて、変な声が出そうになる。のを我慢した。
髪留めをよく見ると、サビていた所を丁寧に磨いた跡が薄っすらと付いている。
おかげで蝶は銀色に輝いている。
「ありがとう。付けてもいい?」
私は答えを待たずに、右の耳の上辺りに蝶を留める。
「にあってるよ」
お兄ちゃんが褒めてくれた。
「くひっ」
変な声が出た。今度は我慢できなかった。
恥ずかしくて爆発してしまうかと思った。




