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夜の星のメンテナー  作者: M
2章 サティの初恋

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12 Dec. 14031「想い事」

「あ、お兄ちゃん……いらっしゃい」


 もうすぐ夕方になる。私とパパはお店の片付けを始めようとしていた。

 お兄ちゃんが、こんな時間に来るなんて珍しい。


「こんにちは、サティ」


 いつもの笑顔で挨拶してくれる。でも、どこか寂しそうな顔。


「パパさんは?」

「あ、あの。奥で片付けてる……から呼んでくるね」


 私はそそくさとお店の奥へと走っていく。


「ありがとう」


 お兄ちゃんのお礼を背中に受け、私は顔を真っ赤にする。

 私は洗面台の鏡を見て、前髪を直しながら「お兄ちゃんが来てるよ」とパパを呼ぶ。


「もう今日は来ないのかと思ったよ」


 パパは棚に箱を押し込むと、嬉しそうにお店へ出ていった。


 私は鏡の前でもう少し粘る。

 可愛く見えるかな?

 完璧ではないけれど、ある程度は髪型がキマったので、襟を正してお店に出た。


「そう、ジルゼさんが……」


 お兄ちゃんと話していたパパがうなだれている。


「パパ、どうしたの?」

「もうすぐジルゼさんが月に帰ってしまうらしい」


 月は簡単に行き来できる所ではない。月に帰ると言うことは、二度と会えないに等しい。

 せっかく常連さんになってくれたジルゼさんだから……いいえ、仲良くなった友達だからこそ、パパは悲しんでるんだと思う。


 なんか、声掛けづらい。


「えーっと、お店の周りの掃除してくるね」


 私は外に出ると、すんとすました様子でバイクさんが停まっていた。


「バイクさん、こんにちは」

「こんにちは。サティは元気そうね」

「ええ、とっても。でもお兄ちゃんは元気なさそう」


 バイクさんは、お兄ちゃんのことを一番知っている相棒だ。

 たまに、こうしてお店の前でお話する。


「サティって、本当に『お兄ちゃん』のことばっかりね」


 バイクさんが笑うので、私はまた顔が真っ赤になる。


「今日もほとんどお話できなかった」


 好きという気持ちに気付いてから、お兄ちゃんとまともに喋れなくなってしまった。

 今までは何でもなかった他愛もない雑談ですら、緊張してしまう。

 恥ずかしい…とは少し違う、何と言って良いか分からない気持ち。


 バイクさんは、そんな私を見て、慰めてくれる。


「今日は仕方ないわ。誰かと別れるのは、いつも淋しいから」

「うん」

「また、次に来た時にお話したら良いわよ」

「うん」


 私は、生返事をしながら考える。


 告白してくれた男の子みたいに、いつか私も「好き」の気持ちを伝えられるだろうか。

 面と向かうとやっぱり恥ずかしい。ちゃんと喋る自信がない。

 あの子は、男だから告白する勇気があったのかな。

 それとも勇気とは別の気持ち?


 お兄ちゃんの顔が思い浮かぶ。左の眉が下がった顔。

 困らせちゃうかな。


 小首を傾げて固まる私を見て、バイクさんが「青春ねぇ……」と呟く。


 ちょうどお店からお兄ちゃんが出てきた。


「あ……お兄ちゃん。もう帰るの?」

「うん。そうだサティ、これを」


 お兄ちゃんは鞄から、髪留めを取り出した。

 蝶が可愛く羽を広げている素敵な髪留め。私は両手で受け取る。


「おととい砂漠で拾った髪留めですね」


 バイクさんがライトをパチクリと瞬かせて、教えてくれる。 

 お兄ちゃんは、かなり前に「コロニーの外で良いもの見つけたら、私にちょうだい」って言ってたの覚えてくれてたんだ。


「良いの?」


 お兄ちゃんは優しく頷いた。

 私は嬉し過ぎて、変な声が出そうになる。のを我慢した。

 髪留めをよく見ると、サビていた所を丁寧に磨いた跡が薄っすらと付いている。

 おかげで蝶は銀色に輝いている。


「ありがとう。付けてもいい?」


 私は答えを待たずに、右の耳の上辺りに蝶を留める。


「にあってるよ」


 お兄ちゃんが褒めてくれた。


「くひっ」


 変な声が出た。今度は我慢できなかった。

 恥ずかしくて爆発してしまうかと思った。


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