表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の星のメンテナー  作者: M
2章 サティの初恋

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

16 Sep. 14031「クジラのステージ」

「ありがとう。でも、ごめんね。付き合えない」


 私は、言葉を選びながらゆっくりと答える。

 彼は私を見つめ、聞いてきた。


「なんで?」


 なんで?

 そう。なんでなんだろう。

 彼と話してて楽しいし、一緒にいても嫌だと思ったことはなかった。


 じゃあ、どうして私は「付き合えない」って言ってしまったんだろう。


「あなたのことは嫌いじゃないんだけど……」


 私は考えながら言い淀む。


 クジラのステージに、さっきと別のクジラが上がってきた。

 今度は二頭。少し小さいクジラが、大きなクジラにピッタリと寄り添っている。

 夫婦だろうか。恋人だろうか。


「………私、好きな人がいるの」


 私は自分で答えながら、不思議な気持ちだった。

 そうか、私には好きな人がいるんだ。


「そ、そうなんだ」


 私の答えに彼は俯く。そして、下を向いたまま聞いてきた。


「スクールの人?」

「違うよ」

「そっか」


 また暫くの沈黙。

 クジラは水面近くをぐるりと回り始めた。二頭でダンスをしているみたいだ。

 彼もその様子を見ている。


「オレの知ってる人?」

「多分、知らない」

「そっか」


 また、沈黙。

 彼なりにいろいろと考えているんだろう。とても静かな時間の後、やっと彼は言葉を絞り出した。


「ごめん」

「なんで謝るの?」

「いや、なんていうか、その、好きな人がいるのに、好きになっちゃって……」


 最後の方はもう聞き取れないほど、彼の声は掠れていた。


 水槽のガラスに沿って、小魚たちが回ってきた。うろこが光を反射して、キラキラと銀色に輝く。

 クジラのダンスを盛り上げるようにステージを煌めかせる。


 どんどん落ち込んでいく彼には悪いけど、私はとても晴れやかな気分だった。


 私はお兄ちゃんが好き。

 自分で言葉にして初めて気付いたこの気持ち。

 この気持ちが「好き」ってことなんだ。

 心の中に沢山の花が咲いたような気分。


「ありがとう」


 思わず彼にお礼を言う。

 私の気持ちに気付かせてくれて、ありがとう。

 彼はちょっと混乱して、なんて言って良いか分からないまま。私はさらに言葉を繋ぐ。

 

「ねぇ。今までどおり、友達でいてくれる?」

「うん、もちろん」


 彼は、さっきよりもぎこちなく笑う。


「じゃあ、オレ。ジンベイザメとか見に行くけど……」

「私は、もう少しここで見てるよ」

「そっか」


 彼は何度か振り返りながら、エスカレーターの方へ歩いていった。

 二頭のクジラは一通り水面を楽しむと、再び水槽の底へと潜っていく。

 平和を取り戻したかのように、小魚たちが水槽の中央に集まる。


 私はなんだかドキドキしながら、水槽を見つめていた。でも、クジラのことなんか、これっぽっちも考えてなかった。

 ただ、不思議な気分と幸わせな気分で、頭がフワフワとしている。


「どうだったのよ!」


 友達が後ろから声を掛けてきて、私はやっと我に返った。


「告白されたんでしょ!」

「なんて答えたの?」

「どうするの? どうなるの?」


 三人は矢継ぎ早に自分の知りたいことを聞いてくる。


「あ、あの、ちょっと待って」


 他のお客さんが来たので、私たちは場所を替え、水族館の外が見える廊下へとやってきた。そこはベンチが並んでいる休憩スペースで、展示の水槽がないから人がほとんどいない。

 

「ねぇ、なんて言われたの?」


 早速、私は三人に詰め寄られる。


「付き合ってって言われた」


 そう答えると、彼女たちはキャーキャー言って喜ぶ。


「で、で、なんて答えたの!?」


 さらに詰め寄られる。圧が凄い。


「断っちゃった」


 私の答えに、彼女たちの顔色がさあっと変わる。


「えー! なんでよぉ!」

「返事待ってとかじゃなくて、本当に断ったの?」

「何が嫌なの? 彼ってかっこいいじゃない!」


 私は、自信を持って答えた。


「だって、私には好きな人がいるって分かったんだもん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ