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夜の星のメンテナー  作者: M
2章 サティの初恋

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16/26

16 Sep. 14031「箱舟」

 今日はスクールの社会見学。

 コロニーの北部にある水族館へやってきた。


 午前中は、一般客の入れないバックヤードを見せてもらう。

 魚たちの餌付けやクラゲの繁殖、イルカのショーの練習。見たことのない光景に、みんな大喜び。


「昼食後は自由行動だ。三時にはここに集合すること」


 イベントルームでお弁当を食べ終わるころ、先生が注意事項を読み上げる。


「サティ、一緒に回ろうよ」


 女友達三人に誘われて、私たちはウミガメの水槽へとやってきた。

 カメたちは大きくて青い水槽の中を優雅に泳いでいる。


「ねぇ、あっちも見てみようよ」


 私はもう少し見ていたかったけど、友達はすぐに飽きて移動してしまう。

 できるだけ沢山の生き物を見ようと必死みたい。


 チンアナゴやタツノオトシゴ、ウミウシみたいな小さくて大人しい生き物は、小さな水槽が何個も並んでいる場所に展示されていた。と言っても、うちの店には置けないくらい大きな水槽だけど。


「サティ、早くぅ」


 今度はマグロの水槽。

 すごい勢いでぐるぐると回っている。


「止まると死んじゃうんだって」

「こんなに大きな水槽でも、ぶつかっちゃいそうだよね」

「昔は、こんなのがいっぱいコロニーの外で泳いでたなんて信じられない」


 コロニーの外にあった全ての「海」は凍ってしまったと、教科書で習った。

 その海の生き物を保管、維持しておく箱舟が、この水族館らしい。

 分厚い氷の下には凍っていない海が残っていて、それが泉のように湧き上がってくる……なんて、先生は夢物語のように話してくれた。

 コロニーの外で働いているお兄ちゃんなら、海を見たことがあるかもしれない。


(今度、お店に来てくれた時に聞いてみよう)


 私は泳ぎ続けるマグロを見て、お仕事しっぱなしのお兄ちゃんの姿を重ねる。

 メンテナーの休みは月に一回だけ。お兄ちゃんは、その休みにうちのお店へ来てくれる。


「なぁ」


 突然声を掛けてきたのは、同じクラスの背の高い男の子。


「ん?」

「オレと一緒にクジラ見に行かない?」

「え、でも私、みんなと……」


 振り返ると、みんなは私から距離を取っていた。

 それぞれが小声で囁いてくる。


「サティ、行ってらっしゃいよ」

「あたし達は、あたし達で回ってくるから、気にしないで」

「さ、行こ行こ」


 みんなはニヤニヤしながらどっかへ行ってしまった。

 まさか置いて行かれるなんて。薄情な友達め……。


 振り返ると、彼と目が合う。

 彼はぎこちなく笑う。


「まあ、いいよ」


 私はちょっと悩んでから答えた。

 よく話をする男子だし、くりっとした彼の目は、お兄ちゃんに似ている気がする。


 クジラのステージと名付けられた大きな水槽の前へとやってきた。私たちの他に見学者はいない。

 一緒の水槽にいる小魚の群れが、クラインの壺を描くように動いていく。


「サティはクジラ好き?」

「んー……分かんない」

「オレは好き。めちゃでかいし」


 その時、下の方からクジラが上がってきた。


「大きい……」


 私は思わず呟いた。本当に大きい。

 男の子は満足そうに、そしてなぜか自慢げに私を見る。


「昔はもっともっとでかい、シロナガスっていうクジラもいたんだよ」

「良く知ってるね」


 クジラは体をくねらせながら、ゆったりと水面を目指す。小魚たちが散り散りに逃げる。

 私たちはその様子を静かに見守っていた。

 息継ぎを終えたクジラは、また深い底に潜っていく。

 その口から洩れた泡がぷくぷくと舞い上がる。

 しばらくの沈黙のあと、彼は私を見た。


「サティが好きだ。付き合ってくれないか」


 やっぱり……そうかもしれないとは思っていた。

 こういう時、どう答えたらいいんだろう。お兄ちゃん。私はなんて答えるべき?


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