12 Dec. 31「コーラルリーフ」
12 Dec. 31 -コーラルリーフ-
ボクはコロニー中央にある『コーラルリーフ』へとやってきた。ここはコロニーを管理する役所。その名のとおり、珊瑚が重なったような見た目の建物だ。
バイクを駐輪場に置いて、入口ゲートに向かう。
ゲート横に立つ受付のアンドロイドが声を掛けてきた。
「こんにちは。今日は進捗報告ですか?」
「ちがうよ。ジルゼさん、いますか?」
彼は警備員も兼ねており、ボクの倍は大きいから見上げる形になる。
「プロジェクトの局長ですね。少々お待ちください」
彼は役所のサーバにアクセスして、スケジュールを確認してくれる。
「局長はお昼ですね。食堂におられます」
「じゃあ、そのあとにしようかな」
「その方が良いですね」
彼は先代のメンテナーの頃から、ここで警備をやっている古株だ。
もちろん、ボクとも顔見知り。
ボクが毎日どんな仕事をしているかもよく知っている。
「お仕事の進み具合はどうです?」
「うーん、よくわかんないや」
「そういう時もあります。後で振り返った時に、自分のやってきたことが分かるんです」
「そんなものかな」
「ええ、そんなものですよ」
彼は常に落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと話す。
ボクもゆったりとした気持ちで喋れる。
「もうすぐ局長が来られます」
ゲートが開いて、ジルゼが出てきた。彼が連絡してくれたらしい。
「よく来てくれたね、少年」
「こんにちは」
「バイクのレディは?」
「そとに」
「じゃあ、お迎えに行こう」
ボクたちは受付にお礼を言って、外に出る。バイクと一緒に近くの公園にやってきた。
最近は、ここでジルゼがバイクに乗って楽しんでいる。コロニーの天井近くまで舞い上がり、素晴らしいスピードで駆け降りてきた。
彼の目は子供のように輝く。
「レディは素晴らしいね。まさかコーラルリーフを見下ろすことができるなんて思わなかった」
「このくらい何でもありません」
そうは言いながらも、バイクも楽しそうだ。
ボクは礼を言う。
「バイクの整備費、ありがとうございます」
「気にするな。移動手段はメンテナーの仕事には必要なものだろう。ただ、予算を捻出するのに一年かかってしまったがね」
バイクはボクの個人所有だったけど、ジルゼのおかげで正式なメンテナーの装備品の一つとして認められた。
プロジェクトの経費でバイクが整備できるようになり、彼女も良いパーツを付けられると喜んでいる。
「まあ、俺の趣味でもあるがな」
ジルゼはそう言って笑う。
バイクは修理されて反重力装置の出力が上がり、ジルゼが乗っても高く飛べるようになった。
彼は一頻りバイクでの飛行を堪能した。
「ありがとう、レディ。楽しかったよ」
「どういたしまして」
ボクたちはベンチに座って休憩する。
そこで、ジルゼが真剣な顔で黒い空を見上げた。
「来月、俺は月に戻る」
「ほんとですか?」
せっかくこんなに仲良くなれたのに。
本来なら、ボクなんかが会うこともない雲の上の上司だ。ボクたちみたいな関係を、古いことわざで「釣りバカの仲」と呼ぶってジルゼが教えてくれた。
「各コロニーの状況を月の統合政府に報告する。プロジェクトで更新しないコロニーを選定するんだ」
ジルゼが自分の仕事のことを話してくれたのは初めて。
本当にお別れなんだ。
「安心してくれ、このコロニーは残るさ。少年が頑張ってくれているおかげでもある」
ジルゼから認められると、ちゃんと仕事が出来ているんだなぁと実感できる。
ボクは淋しいけど、少し嬉しかった。
ジルゼと固い握手を交わす。
「ありがとうございます」
「また会おう。骨董品店の皆にも宜しく」
彼は振り返らずに、コーラルリーフへと戻って行った。
ボクとバイクはしばらく沈黙し、骨董品店へと向かうことにした。




