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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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11/16

11 Oct. 21「つめたい手」

11 Oct. 21 -コロニー-


 コーラルリーフへと続くメインストリートを一人歩く。

 最近は、ボクの顔を知っている街の人も少なくなってきた。


「エンテナさん、こんにちは」


 背後から舌っ足らずな声。

 振り返ると、ボクを見上げる小さな女の子が立っていた。

 ボクはしゃがんで挨拶を返す。


「こんにちは、ウナイちゃん」

 

 彼女は、母親とお出かけ中にボクを見つけたようだ。

 四歳になったばかりで、いろいろとお話ができるようになった。


「どこ行くの?」

「コーラルリーフだよ」


 ボクはコロニー中央にある大きな建物を指さす。

 今日は役所へ進捗報告をする日だ。ワームの数が順調に増えているから、コンポストを追加するよう指示が出るに違いない。それはそれで少し面倒な作業なのだけど。


「お仕事?」

「そうだよ」


 面倒でも、仕事は頑張らなきゃね。


「大変だね」

「ありがとう。ウナイちゃんはどこいくの?」

「ひいおばあちゃんち。お花屋さんなの!」


 ウナイはそう言って、くるっと回った。

 なんで回ったのかは分からないけど、ウナイは嬉しそうに笑った。

 その笑顔はひいおばあちゃんの小さい頃にそっくりだ。


「メンテナーさんも忙しいのよ。もうお(しま)いにしましょう」


 母親がウナイをたしなめる。

 それでも彼女は「いっしょに行こう」と言って、ボクと手を繋ぐ。

 彼女は小さいながら頑固だ。こうなったら逃れられない。


 幸いなことに、花屋はコーラルリーフと方向がほぼ同じ。少しだけ寄り道することにはなるけれど、時間には十分な余裕がある。


「いいよ。いこうか」


 ボクがそう言って立ち上がると、母親は申し訳なさそうに頭を下げる。

 ウナイはご機嫌な様子で、ボクの手を引いて歩く。


「エンテナさん、お手てが冷たいわ」


 ウナイに言われるまで気にしたことが無かった。ボクの手は冷たいのか。

 それっぽいことを言ってごまかす。


「コロニーのそとは、さむいからね」

「そっか。ぬくぬくしてあげる」


 ウナイはボクの手を温めるように両手で握ってくる。

 ボクがお礼を言うと、ウナイは誇らしげに笑う。その様子を母親が微笑ましく見つめる。


 道すがら、ウナイは沢山のお話をしてくれた。ハンバーグが美味しかったこと、絵本が面白かったこと、一人で着替えができたこと。

 そして、こども園で習ったお歌を元気いっぱいに歌う。


 落ち着いた雰囲気の裏通りに入ると、すぐに花屋が見えてきた。看板にはRosheenの文字と大きな花に留まる蝶が描かれている。


「あそこだよっ!」


 ウナイはボクの手を引いて、タッタッタと走り始めた。

 母親はお腹が大きく、走ることが出来ない。

 後ろから母親の叱る声が聞こえるが、ウナイは気にせずに駆けていく。


 店先には色々な花が並んでおり、甘い香りが辺りを包んでいた。

 窓から店の中を覗くと、安楽椅子に腰掛けた老婦人が、ウトウトとしている。


「しーっ」


 人差し指を唇に当て、ウナイに静かにするように伝える。

 ウナイは両手で口を抑え、なぜか息まで止めた。


 ボクは小声で「そこまでしなくても、だいじょうぶだよ」と教えてあげた。

 ウナイはプファーっと息を吐く。少し頬が紅くなり、大きく息を吸う。

 その様子が面白くて、ボクは少し笑顔になった。


「じゃあ、ボクはここまで。またね、ウナイちゃん」


 ボクはしゃがみこんで、お別れを言う。

 彼女はまたボクの手を取って「またね」と小さな声で耳打ちする。

 ボクの手、冷たくないかな?


 やっと母親が追いついた。母親にお礼を言われると、ボクは立ち上がって頭を下げる。


「バイバーイ」


 ウナイは小さな声でボクを見送ってくれる。 

 ボクが角を曲がって見えなくなるまで、ウナイはずっと手を振ってくれていた。

 ボクは自然と鼻歌を口ずさんでいた。


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