11 Oct. 21「つめたい手」
11 Oct. 21 -コロニー-
コーラルリーフへと続くメインストリートを一人歩く。
最近は、ボクの顔を知っている街の人も少なくなってきた。
「エンテナさん、こんにちは」
背後から舌っ足らずな声。
振り返ると、ボクを見上げる小さな女の子が立っていた。
ボクはしゃがんで挨拶を返す。
「こんにちは、ウナイちゃん」
彼女は、母親とお出かけ中にボクを見つけたようだ。
四歳になったばかりで、いろいろとお話ができるようになった。
「どこ行くの?」
「コーラルリーフだよ」
ボクはコロニー中央にある大きな建物を指さす。
今日は役所へ進捗報告をする日だ。ワームの数が順調に増えているから、コンポストを追加するよう指示が出るに違いない。それはそれで少し面倒な作業なのだけど。
「お仕事?」
「そうだよ」
面倒でも、仕事は頑張らなきゃね。
「大変だね」
「ありがとう。ウナイちゃんはどこいくの?」
「ひいおばあちゃんち。お花屋さんなの!」
ウナイはそう言って、くるっと回った。
なんで回ったのかは分からないけど、ウナイは嬉しそうに笑った。
その笑顔はひいおばあちゃんの小さい頃にそっくりだ。
「メンテナーさんも忙しいのよ。もうお終いにしましょう」
母親がウナイをたしなめる。
それでも彼女は「いっしょに行こう」と言って、ボクと手を繋ぐ。
彼女は小さいながら頑固だ。こうなったら逃れられない。
幸いなことに、花屋はコーラルリーフと方向がほぼ同じ。少しだけ寄り道することにはなるけれど、時間には十分な余裕がある。
「いいよ。いこうか」
ボクがそう言って立ち上がると、母親は申し訳なさそうに頭を下げる。
ウナイはご機嫌な様子で、ボクの手を引いて歩く。
「エンテナさん、お手てが冷たいわ」
ウナイに言われるまで気にしたことが無かった。ボクの手は冷たいのか。
それっぽいことを言ってごまかす。
「コロニーのそとは、さむいからね」
「そっか。ぬくぬくしてあげる」
ウナイはボクの手を温めるように両手で握ってくる。
ボクがお礼を言うと、ウナイは誇らしげに笑う。その様子を母親が微笑ましく見つめる。
道すがら、ウナイは沢山のお話をしてくれた。ハンバーグが美味しかったこと、絵本が面白かったこと、一人で着替えができたこと。
そして、こども園で習ったお歌を元気いっぱいに歌う。
落ち着いた雰囲気の裏通りに入ると、すぐに花屋が見えてきた。看板にはRosheenの文字と大きな花に留まる蝶が描かれている。
「あそこだよっ!」
ウナイはボクの手を引いて、タッタッタと走り始めた。
母親はお腹が大きく、走ることが出来ない。
後ろから母親の叱る声が聞こえるが、ウナイは気にせずに駆けていく。
店先には色々な花が並んでおり、甘い香りが辺りを包んでいた。
窓から店の中を覗くと、安楽椅子に腰掛けた老婦人が、ウトウトとしている。
「しーっ」
人差し指を唇に当て、ウナイに静かにするように伝える。
ウナイは両手で口を抑え、なぜか息まで止めた。
ボクは小声で「そこまでしなくても、だいじょうぶだよ」と教えてあげた。
ウナイはプファーっと息を吐く。少し頬が紅くなり、大きく息を吸う。
その様子が面白くて、ボクは少し笑顔になった。
「じゃあ、ボクはここまで。またね、ウナイちゃん」
ボクはしゃがみこんで、お別れを言う。
彼女はまたボクの手を取って「またね」と小さな声で耳打ちする。
ボクの手、冷たくないかな?
やっと母親が追いついた。母親にお礼を言われると、ボクは立ち上がって頭を下げる。
「バイバーイ」
ウナイは小さな声でボクを見送ってくれる。
ボクが角を曲がって見えなくなるまで、ウナイはずっと手を振ってくれていた。
ボクは自然と鼻歌を口ずさんでいた。




