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夜の星のメンテナー  作者: M
1章 ボクの日課

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1 Nov. 24「美しき日々」

1 Nov. 24 -4×4砂漠-


 静かで暗い星空の下、ボクはバイクを飛ばす。

 タイヤが無いこのバイクは、文字どおり「飛んで」いる。


 まん丸な月の下、古い型のバイクは「るるるる」と小さく唸りながら、素晴らしいスピードで駆けていく。

 一面の砂地を眼下に見渡しながら、ボクは目的地を探す。

 バイクで小一時間ほど飛んで、灰色の大きな砂山を三つほど越えていく。


 砂山の影に深い青色がちらりと見えた。


「みつけた」


 ボクはゴーグルをおでこに上げて、小さく呟く。

 それは、キレイな円の形をした泉。月明かりを反射して、強アルカリの青い水がキラキラと揺らめく。


 バイクが優しく応える。


「降りられる場所を探します」


 この辺りはプラスチックの砂地が続いているので、バイクで降りられる場所が少ない。

 近くにコンクリートの岩場を見つけ、徐々にスピードと高度を落としていく。

 バイクのサスペンションがきゅうっと鳴いて、コンクリートの上に着陸した。


 ここからは歩きだ。

 ボクはブーツのスイッチを入れて、砂地に踏み入れた。

 プラスチックの砂粒が足を呑み込もうとするが、ブーツの靴底が反発してくれるので、しっかりと立つことができる。

 ボクは鞄からコンパスを取り出し、バイクに向ける。ボタンを押すとコンパスが固定され、赤い磁針はバイクの方向を指したままになる。


「お気を付けて」


 バイクがそう言って、ライトをチカチカとさせる。彼女はとても心配性だ。でもそれは、ボクの安全を心配しているわけではない。

 ボクに何かあれば、この寂しい所に一台で置いて行かれることになるから、それを心配しているのだ。

 でも、こういう声かけは嬉しい。無事に帰ってこようと思える。


「いってくるね」


 ボクはバイクに返事をすると、灰色の砂漠を歩き始める。

 細かく砕かれたプラスチックは本当は様々な色をしているのだけれど、混ざり合ってしまって薄い灰色にしか見えない。

 ブーツのおかげでこれ以上沈むことはないが、それでも歩きにくいことには変わらない。

 周囲は無音。ブーツの発する音だけが響く。

 砂についたボクの足跡は、サラサラと崩れてすぐに消えてしまう。


 この砂漠の下には、大きな都市が埋まっている。

 さっきの岩場も、何かの建物の屋上なのかもしれない。


 砂山を一つ越えると、青い泉のほとりに出た。


 今日も月からの光が強くて、あまり星が見えない。

 しかし、その強い光こそが泉を際立たせている。

 泉の淵から見ると、月光の加減で青の中に淡い緑が見える。


 ボクはこの色が好きだ。

 その場に立ち尽くして、泉を見つめていた。


 微かに風が揺れ、砂山が崩れる。

 泉を縁取る砂が深い底へと落ちていく。


 この青を眺めていれば、時間を忘れてしまう。

 ずっと泉を眺めていたいと思う。多分、飽きることは無い。


 気付くとボクは鼻歌を口ずさんでいた。

 だんだん月の高さが低くなってきている。


「やることはやらなきゃね」


 ボクは鞄から銀色の水筒を取り出した。水筒は泉の色を反射して青く輝く。蓋を開けると、プシュッと音がする。

 水筒をひっくり返し、中の赤い液体を泉の中へ全て注ぎ込む。泉に落ちた液体は泡立ち、一瞬黄色く染まると、やがて緑に変わって、泉の青に同化していく。


 ボクはその様子を見て満足し、泉を後にした。

 コンパスを頼りに岩場へと戻る。

 月明かりの下、バイクが静かに待っていた。


「ただいま」


 ボクがそう言うと、バイクはライトを瞬かせる。


「おかえりなさい。遅かったですね」

「ちょっと、ゆっくりしちゃった」

「風が強くなる予報です。急ぎましょう」


 バイクに乗って、再び空へと舞い上がる。

 小気味良く「るるるる」と音を立てて、バイクは夜空を駆けていく。


 これがボクの素敵な日課の一つだ。


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