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スライムと俺  作者: 木津彰臣(きづあきおみ)
3/3

旅の準備

気持ちの踏ん切りがついてからは早かった。

リュックをひっくり返して中身を草の上へと並べてみる。


【夜ごはん用の食材】

・顆粒だしお徳用ジャンボパック

・砂糖1㎏

・醤油1ℓ

・塩コショウ

・小麦粉一袋

・米3㎏

・もやし

・カット野菜

・鶏もも肉

・缶詰たくさん


【その他日用品】

・手帳

・筆箱

・水筒

・弁当

・会社の資料

・社員証

・ミント味の板ガム

・ミニ土鍋

・エコバック

・裁縫セット

・応急処置セット

・多機能ツールキーホルダー

・財布

・電池

・ゴミ袋

・着替えの服や下着数点ずつ


並べられたものを見ながらう~んと唸る。


(このラインナップ、中々いいんじゃないか?)


今現在の最たる重要事項は食糧問題だ。どう見ても人里ではない森の中、食糧の有無は死活問題。新しい生活のスタートを喜ぶ前に餓死必須である。

いぶし銀なミニ土鍋につられてまんまと食材を買い込んだのが功を奏した。これだけあれば取り敢えず一週間は持つだろう。

まぁ、その一週間の間にこの状況に進展がなければ再び餓死の恐怖と相まみえることになるのだが…。食糧の節約を胸に刻んでおこう。

水分についてはスーパーで五千円以上購入すると無料で汲ませてもらえる水を2Lの水筒にめいいっぱい詰めてきたので無駄使いせずに慎重に配分していきたいところだ。


その次のめぼしいものといえば多機能ツールになるかな。正直存在すら忘れていたのでこれはかなりの棚ぼただ。

冒険物の小説にはまって、キャンプに行った際にでも使おう!とかなり良いものを衝動買いしたものの社畜人生においてはついぞ日の目を見ることなかった代物である。

使わずとも付属のレザーのポーチに入れればストラップにもなるのだが、ストラップとしてつけて歩くのはなんだか照れくさい…という謎の羞恥心が働き使えずにいた。

もったいない精神でどうにか使えないかと模索したところ、ツールが入っていたレザーのポーチはエコバック入れとなり、中身はリュックの奥深くへと葬り去られたものがこれだ。今回の人生ではかなりお世話になる予感に思わず過去の自分へサムズアップ。なんでもとっておくものだ。

機能としては笛やルーペだったり、ちょっとしたハサミとナイフ、よくわからない先がとんがったものや缶切り、マグネシウムライターなど本当に色々なものがついている。

サバイバルにおいての命の火起こし問題はこの多機能ツールが存分に役立ってくれるだろう。

昼間はルーペ、夜はマグネシウムライターでどうにかできそうだ。


「他の物も使い道がありそうだから、できればぜんぶ持っていきたいな。」


捨てるものなし!と頷くものの、脳裏にちらりと過るものが一つ。


そう。問題はこれをもってどう移動するかだ。

ラインナップを見てもらえれば分かる通りこんな大荷物が入れられて、それが入る収納がたくさんあるこのリュックは巨大だ。

転生前はかなり大柄な男だったこともあり何ら問題はなかったのだが、今はただの子供である。

空になったリュックを試しに背負ってみた感想は“どちらが背負われているかわからない”というもので、空でこれかと思うと絶望しかない。

見えかけた希望の光に再び暗雲がたちこめる。


食糧が無くなる前に少しでも早く行動したい気持ちが思考を遮っていく。

焦りで飽和していく思考と手持無沙汰で落ち着かない体、考えていても仕方ないかと先に動いたのは体の方だった。


「どれも手ばなせないなら、どうにか持っていける方法をモサクするまでだ!」


兎にも角にもこんなに開けたところでは謎の森で今日の夜すら越せるか怪しいぞ、と自分の尻を叩きつつ地面に並べていたものを整理しながら仕舞っていく。

どう整理すれば収まりよく空間を効率的に使えるかなんて考えながら戻し入れているとふと気づく。


このリュック、全然重くならないのだ。


最初は地面に置いてるからかと気にも留めていなかったが、支えが必要なほど物を詰めても全然重みが伝わってこない。恐る恐る両手でリュックを持ち上げてみるが、やはり手に感じる重みは空のリュックを持ったような拍子抜けするほどのものしかなかったのだ。

そう言えば、逆さまにひっくり返す時も随分と軽かった気がする。上手く全部出てきたななどと暢気なことを考えていたが、これもまた『異世界へ転生した』という証拠なのだろうか。


「この世界はマホウとかあるのかな。このリュックなんかゲームとかエイガで見る〔マジックバッグ〕ってやつみたいだし。」


こうして中身が見れるということは四次元ポケットとか異空間やら亜空間に繋がっているような空間拡張型ではなく、重量操作系の魔法が付与されたものになるのか…などと考察しながら再び腰を上げる。目下の課題を突破したことも手伝って再び気分が上昇してきたようだ。

転生先の世界は魔法の世界かもしれないという可能性に少し浮足立つ心を静めて、奇麗に荷物たちを全部収めていった。



荷物の確認と整理が終わり現時点での一つ目の課題が片付いた。


さぁ、出発!…という前にもう一つやらねばならないことがある。


荷物の整理中にあまりにも邪魔で脱ぎ捨てたスーツの残骸と、ぶかぶかすぎるこの靴や衣服たちをどうするかだ。


今着用しているものと、残業で家に帰るのも怠い日用に持ち歩いている着替えなどを一度並べてみる。

【着用していたもの】

・デカ過ぎ革靴

・雨具兼用可、断熱モッズコート

・オーダーメイドスーツ上下

・Yシャツ

【着替え】

・予備Yシャツ1枚

・無地のTシャツ1枚

・ストレッチパンツ1枚

・裏起毛パジャマ

・肌着2枚

・トランクス2枚

・靴下2組


服のラインナップとしては、元居た世界が冬真っただ中だったこともあり全て冬仕様のものばかり。

広葉樹が小さな新芽をのぞかせているのを見るに、この世界は春先頃といったところか。少し風は冷たいが、有り難いことに日の光は温かく柔らかい。これなら心もとないこの冬装備でもまだ何とかなりそうだ。


「それにしても、夏仕様で真冬の森の中に転生しなくて良かったな…。」


想像するのも恐ろしい。


季節ガチャで失敗しなくて良かったと背筋を震わせつつ、先ずは並べていた衣類たちを簡単にポイポイと仕分けていく。

それにしても、こうして見ると大人のものって本当にでかい。いや、転生前の体がデカいのもあるのだろう。

下着類なんかは一番体に触れてる時間も長いうえに毎日使うものなのでもう少し欲しい所だが、今の体に合わせて手直しすれば二倍くらいにはなりそうだ。


この世界でも高価そうなスーツやYシャツなんかは換金できる場所や実用性も高そうなのでいったん保管。




《今は使わないもの》はスーツと裏起毛のスウェットにYシャツ。どれもここぞという時に使いたいものだ。スーツやYシャツは換金や実用面なども高いので追々決めていきたい所、裏起毛のスウェットは来たる冬のために温存しておきたい。




《加工が必要なもの》は肌着とチノパン。


今すぐは必要ないが実用面に優れているものなので、旅の途中で少しずつ手直ししていくつもりだ。


肌着は襟元が広めな上に無駄な布面積が多いせいか扱いにくいので、慎重に手直ししつつ応用力のある布を無駄なく大切に使いたい。


チノパンは数が少ない上に普段使いするズボンとして破損は避けられないだろうことを見越して、当分の間は一着だけを大胆に加工して上手い事それを使い古していくことにした。

上部はズボンとしてそのまま使用して、下部はあて布用に保存しておけばかなり長いお付き合いができるだろう。

もう一着はこの体の成長速度を見てゆっくり加工していこうと思う。



《加工が必要ないもの》はモッズコートに長袖Tシャツやパンツ、靴下などだ。


どれも輪ゴムや着方次第でどうにかなる実用的なものばかりだ。当面の普段着として活用していきたい。


長袖Tシャツは袖に輪ゴムをはめて、それを内側へ押し上げて落ちてこない所までぐぐぐーっと上げると簡単に長さ調節ができる。だぶつく横っ腹の布は前で合わせて着物のようにぴっちり引き締めたらベルトで固定して完成だ。

体をひねったり腕を振り回してみるがなかなか動きやすい。


モッズコートは中ほどから長めに入ったスリットの少し上を折り曲げて肩部分に見立て、スリットから腕を出してボタンを留めていく。折り曲げた所には社員証の紐を食い込ませて上に引き上げ、リュックのように背負いこむみ、ずるずるとズレ落ちるのを防止する。袖の部分は腰に巻いて即席子供用コートの完成だ。


大物が片付いたら早かった。

靴下は限界まで上に引き上げて輪ゴムで固定。トランクス型のパンツはウエストのゴムを引っ張ればズボンもどきに変身。


そんなこんなで衣類の問題はパパパッと片付いた。




残るはこのデカすぎる革靴をどうするかだ。


服のように調整がきかない上に代用できるものもない。しかしこの深い森の中、靴なしでの移動は命取りだということもまた見過ごせぬ事実。


見知らぬ毒草やキノコなんかが生えていたら一発アウト。怪我でもしようものならミニ救急ポーチでは間に合わない。ただの擦り傷も見知らぬ土地の人里離れた場所では大病だ。


「中じき…。そう言えば革靴のクッション性が心元なくて分厚やつを仕込んでた気がするな。」


ぐいぐいと靴の中から引っ張り出してみると1.5㎝はあろうかという、たいそう立派な中敷きが出てきた。

足先を折り曲げて横っ面を何重にも縫い合わせれば即席スリッポンの完成だ。足裏に手帳から拝借した紙を瞬間接着剤で何重かにペタペタと貼っていけば多少の突起物も怖くない。


「急ごしらえだけど一通り何とか形になったな。」


先ずは軽く動き回って当面の普段着として選んだものの機能性の最終チェックをしていく。


「うん。わるくない。」


そう自分に言い聞かせるように呟くとリュックを背負いこむ。

現在は太陽が天辺からやや右に沈み始めている頃、ようやく旅の準備が整った。

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