ヴェルノ
正直、見た事の無い顔だった。口ぶりからはガイオに説得を試みて失敗した時の事を見ているようだけど...というか、ガイオ本人の様な気もしなくもないけど、たしかあの時は髪色は紫色だった筈だ。
こんな、眩しい金髪じゃなかった。
「...ああ、そう言えば前はこの姿じゃなかったか。でもまあ、前に本体として使っていた依代が何かに汚染されていたから仕方ないよね?」
「いや、そう聞かれても...。」
「?そうかな?後レイヴン・ヴェルドリア、後ろ」
「え?」
振り向こうとすると、エミリアの手で何かが振られた。それは...僕の左腕と、左腕で装備していた剣...に見せかけていた、魔力の込める量で形状が変化する手甲だった。
「むう...首を狙ったのに」
...怖い。僕を愛でるためなら僕の抵抗すらも切り捨てると言う事なのか。
知らず恐慌に陥っていると(パージヴァルと戦っていた時すらそうならなかったのだから、エミリアはモンスターの基準に当てはめられるならSSを越えて―――禁忌の『Ⅹ』なのではないのだろうか)、後ろにいたガイオ...の、真の姿を持っているものは忍び笑いをした。聞こえてるけど。
「ククク。いやあ、基準は違えど愛する者同士が互いを欲して命をかけて戦うと言うのはあまりにも...滑稽だなって。アハハ」
堪え切れなくなったのか、口をあけて笑い始めたガイオだが、その言葉を否定する気にはなれなかった。というかそう言うなら、僕とエミリアをどこへなりとも連れて行ってくれるのなら話は早いんだけどなあ。
「ま、お邪魔なようだし僕はいったん空中で観戦させてもらうよ」
「いや...流石に、降参です」
僕がエミリアから取り返した左手を魔力に変換して(何故か、最近本物の左腕は動きが悪くなってきた)魔力で再び腕を再生させると、両腕を上げる。
その仕草に周りからはどよめきが上がり、僕に勝った本人は―――早速抱きついてきていた。
「ふふん、じゃあこれからはボクの子飼いみたいなものだからね?」
(僕の意見が入らないという観点で)いやだけど、「分かったね?」と詰め寄られるとうな座かざるを得なかった。というか、気付いたらそうしていた。...惚れたが故の弱み、という事だろうか。
でも...なんだか、嬉しいような気もする。
そんな相反するはずの感情に、思わず僕は首をひねり...そして、「ボクの方を見ない悪い首は、こうだー!」と極められかけたのだった。
―――
「~~~♪」
『...。』
「...悪いとは思っているが、他の場所に入れては混乱どころか処刑が始まりそうなのでな」
結局、あの後清涼祭は中止され来週に延期された。
そして、次の日。
僕たちは、教卓の後ろにいるセイタの横に鼻歌を歌っているガイオ(本名が分からないので、依然名乗っていた名前をそのまま使っているし、本人もそれで十分に反応する)を見て無言の地蔵と化していた。
「...まあ、そうなる気持ちも分かるが。対外的には、レギュリアの外から転移してあの場に偶然現れた少年ということでここに来ているのだ。理解しろ...とまではいわないが、少なくとも拒否のみはやめて欲しい」
セイタにそんな事を言わせるほど、ガイオに対する皆の恨みはあるものらしい。まあ、それでも今ここにいる連中はそろそろあの戦争で子を為さなかった世代も交じり始めている。だから、親を殺された怨みで...ということも考慮してと言う事なのだろう。
「じゃ、自己紹介を頼むぞ」
そう言って、少し微笑んだセイタはガイオの頭を撫でた。レグにする仕草と全く同じだが、それを見たユウがいつも複雑そうな表情をするのはなぜなのだろうか。
ともかく、それでガイオはやる気になったらしく子供っぽい姿にチューンナップしたガイオは嬉しそうに眼を閉じていたが、その後はすっきりしたような顔で言った。
「...ヴェルノ=ヴァイオ。宜しくねー」
名乗った後、ガイオ―――ヴェルノは笑顔で手を振っていた。とっても可愛い。撫でたい。
そう考えて、はっと気づく。
僕の、『撫でたい』と言う思考はエミリアが僕に抱いている感情そのものなのではないのだろうか。
気付いてしまうと、意外と単純だ。そして...悔しい。
こっそりと泣いていると、ヴェルノが歩み寄ってきて...僕の頭に手を置く。
「...え?」
疑問を抱いている間にも、笑顔になっているヴェルノに撫でられていた。
「エミリアにこの行動をさせていたのは僕だからね。なにもおかしい事は無いと思うけど?」
...正直、心の中でほっと一息つきたかった。
あれはエミリアじゃなくてヴェルノのものだったようだ。...じゃあ、実際のエミリアは?
と、頭を撫でているヴェルノの手がなくなったので顔を上げると、ヴェルノはすでにエミリアに捕獲されていた。「わっ、ちょっ、やめ―――」などとヴェルノも抵抗はしているものの、エミリアのボクも一回も見た事の無いような無感情―――いや、寧ろ嫌悪を圧縮して何も感じさせない様な視線に射すくめられて動けなくなっていた。
それを見た僕も動けなくなり―――「...勿論、レイはボクの物だよね?」そんな問いの時にも同じ視線を向けられ...僕は、エミリアを理解できていなかったと無理やり理解できてしまっていた。




