2年後
「...あだッ」
身体を床に叩き付けた衝撃で、背中がひりひりする。少し涙目になりながら、僕は瞼をこする。
ガイオが自殺して、エミリアを連れ帰ってきてから約二年半。相変わらず魔物は非常に強いけど、それでも膨大な魔力量を誇る僕が先週まで大量に魔石を作り続けてはそれを道路に配備し続けてきたので比較的安全に道の往来が可能となっていた。
今までならこの時間には「魔石を創りに行け」とユウかイアに急かされていたので、のんびり寝たせいで寝返りをして落ちたらしい。それを考えると、慣れと言うのは恐ろしく感じる。
「グフッ!?」
「...でッ」
と、上から降ってきた人の肘が僕の腹にクリーンヒットし、汚い悲鳴を上げてしまう。降ってきた人物も、それで起きたらしく、小さな悲鳴を上げる(...悲鳴?)。
「いててて...。あ、レイおはよっ!今日も可愛いねー」
「それは男に対していう言葉じゃないと思うんだけどなあ...?」
そして、僕に降ってきた少女―――エミリアは、いつもの明るい笑みで挨拶してくる。少し苦情を言ってしまう僕だけど、もう聞き慣れたしこの時期には同様の事を言われることも多いのですでに気にしてはいない。
ガイオが主導となって行われた魔物との戦争が終結して半年ほどで、エミリアを纏っていた非常に見えにくい青と黒が混じった様な色の禍々しい魔力は消えた。ただ、そこからは闇堕ち状態の時よりも更にエミリアのアタックが強くなっていた。その方向性が、僕を可愛がる方向に言ったのは残念でならないけど。
それと、エミリアは眠るときは別の部屋だけど起きるときには僕に抱きついているか僕を潰そうとするようになっているか寝ている間に僕に悪戯(キス、もしくは耳を噛んでいる)しているかというぐらい僕の部屋に吸引されている。
...春になろうかとしている今の時期は、神聖ライデオル帝国に唯一ある高等学院であるライデオル魔術学院の入学時期だ。
外にも結構人が残っていた様で、いまだに大量の学生が入学を果たしている。ライデオル帝国の国民は最低でも高等学院を修了する必要があるので、現状は成人したものが雪崩れ込む事態になっている。
それに伴って去年の夏季休暇中に大改修を行い、前からあったラィデォル魔術学院部に追加して男女の寮を二つずつ追加して、更に魔術学院本体も大改修して世界最大級の建造物となっていた。
どんな人が来るのかは楽しみだけど、まあ昨年同様に僕に求婚する馬鹿が現れるのは確定だろう。
そういう時にはかつての剣術学院との合同演習の時同様エミリアに守ってもらいたいところだけど、「心だけでもボクの所にずっとあるから、それだけでいいよ?」と平然と言いのけるようになってしまったのでそれには期待できない。
そして、きっと明日になればまたあの地獄の始業式が始まるのだ...。
...取り敢えず、今日はエミリアに甘えよう。そして、いっぱい撫でてもらおう。
その考えが闇堕ちエミリアに汚染されていて、なおかつそんな汚染された僕に元に戻ったエミリアが汚染されたと言う事は知り得なかった事だった。
―――
「...まあ分かっているとは思うが、レイに手を出そうとする新入生がいるのならそのものを徹底的に叩きのめし、上下関係を教えた上でレイがどういった人物かを伝える様に。これは命令だ」
僕は僕は二年間魔石を創り続けてきたのであまりここにはいなかったので実質学生3年目の春な訳だけど、一応は最終学年である5学年に所属しているらしい。
筆記・魔術試験の二つがあるのは当然だが、そこで一定以上を取ってもそれより上が居たら入学できない、ヒバナ一行曰く『受験』というスタンスだったラィデォルに対して、ライデオル魔術学院となってからは全ての生徒が入学できるようになっていた。
でも、低レベルの者と高レベルの者が同時にいると全体としての質にかかわってくるので、筆記試験の点数、魔術試験の点数双方でクラスが選ばれるようになった。
点数を0~100までの101分割して、それである程度の点を取ったらどこに行く、というのが決められていて、魔術だけできても筆記が悪ければ学習が多い学級へと飛ばされる。逆もまたしかりで、どちらも最高得点を取る事が出来ればAクラスと呼ばれる上位学級へと入る事が出来る。
...が、この学院にはもう一つ学級が存在する。一般的には落ちこぼれと評価されるクラスが。
「...えーと、失礼します?」
僕はもとより、セイタとアリオスを除いた皆がそちらを見た。
そこにいたのは気の弱そうな少年で、僕たちを見ると少し怯えたようにしていた。
「...学院長様の弟様が直接指導する最低学級だと聞いていたんですが、皆さんはそんな風には見えません」
なんて人当たりが良い子なんだ。こんなのがここに来たら、多分驚いて絶句するのは難くないと思っていたけど。
「当たり前だ。そもそも、ここにいるセイタは過去の亡霊と関係があるし、そもそもラヴィア自体セイタが生み出した存在だからな」
「わあぁあっ!?」
と、音もなく真横に移動していたアリオスの言葉に、こちらは腰を抜かしていた。それに苦笑しているレーヴァだけど、そう見せつける様にいちゃいちゃする癖は治らないらしい。
「...えーと、皆さんは落ちこぼれじゃなくて最高級の存在だから秘匿されている、という事ですか?」
「その通りだ。特に、そこにいるレイヴン・ヴェルドリアは単独で龍王を殺し、白竜の群れ程度なら余裕で蹴散らせる程度の力はある」
「...まあ、最近は戦わないんですけどね」
ここ2年近くで染みついたセイタへの敬語を用いながらも、さらっと僕は五日前にも<バハムートの湖>に赴いたことを伝える。幸い気付かれていなかったが。
「そんな人と一緒に学べるなんて...!僕、此処に来てよかったです!」
「いや、学ばないさ」
「えっ?」
感動している所に水を差されて、少年は驚いていた。そして、セイタは続ける。
「最低でも無詠唱魔術を使えなければ、何もできないのだから」




