こっそりと行くアリオス旅
3歳の或る日。僕は街に繰り出していた。
要塞砦市アリオス。そんな不思議な名を持っているこの町は、大昔に魔物しかいなかったこの土地の魔力を消してこの地を平和にした、そんな老人の名前からいただいたらしい。
そんなこの地に、僕はこっそりと来ていた。
4歳になるまでに外に出てはいけない、と言われていたから今までは何もしてこなかったけど、今日は此処に来たい理由があった。
そう、今日は父さんの22歳の誕生日で、僕はサプライズに父さんの好きな珈琲をプレゼントしようと思っていた。
本当なら約束を破ったことでとんでもなく叱られるだろう。でも、サプライズならなんとなく許してくれるような気がした。
「ほう、珈琲、ねえ。
...大体一式で銀貨3枚、って言ったところかな」
「それを銀貨2枚と大銅貨一枚で」
「...坊ちゃん、良いとこの子だろう?なら、俺の言葉も分かるだろ?」
「...分かりました。じゃあ、ついでに横の胡椒をください」
「ほう、珍しいね。どのくらいだい?」
「金貨2枚分」
「ヘイヘイ...そんなに買ってもらえるのかい!?」
「うちの料理人さんたちが欲しいと言ってまして。あの人たちのみんなの1ヶ月分の給料でちょうどぴったりぐらいみたいなんですよね、この値段」
「...なら、俺も奮発してやろう。銀貨15枚分はおまけだ」
「ありがとうございます」
よろず屋のおじさんはいい人のように見えた。
胡椒という北の方にしかない香辛料と呼ばれる類のものを買って目をくらませることで僕のものをちょろまかす作戦だった。
思った通りおじさんは金貨2枚でまけてくれ、残りの銀貨5枚は自由に使えることになった。
それを色々な方法を使うことで安く済ませ、大量のお菓子(父さんへのお土産)と珈琲ミルと袋に包まれた胡椒が入った背負い袋を背負いながら家に帰った。
街に繰り出した時にはまだまだ太陽が真上にあったと思ったのに、今はもうその太陽が川に沈みかけていた。
―――
「...どこに行ってたんだい?」
僕を迎えてくれたのは、歓迎の言葉よりも先に詰問を行ってくれている父さんだった。
敵意を表に向けている父さんは、いつもの脅すような笑顔ではないシンプルな敵意を見せていて、とても怖くなった。
ただ、その分助かりそうな気もした。
「僕は―――」
と、そう口を開いた刹那「...成程ね」と父さんの声が後ろからした。
目の前にいたはずなのに、気付けば僕の背負ってきた袋をあさっていた。
「もしかして、僕のために珈琲を買ってきてくれたのかい?それに、胡椒なんて超高価なもの買って...きっと料理人たちだね。僕の誕生日をこんなにも祝ってくれるなんて、なんて言い使用人なんだろう」
そう感激したかのように言う父さんは僕の方を見ると、「だけど」といつもの脅すときの笑顔を浮かべた。
嫌な予感其のままに、「僕の言いつけを守らないのはよくない事だと思うんだよねえ?」とその言葉をくれ―――そして、その笑顔の質を見た事もないような柔らかいものにしたと思えば、「...だから、お忍びとして僕と一緒に行くのならいいよ」と妥協案を言ってくれた。
「僕が4歳になるまでは外に出てはだめなのではないのですか?」
その質問には、「今日外に行ったからね。それに無事だったし、僕と一緒なら悪い事をしようとも思わないでしょ?」と意地悪に返してきた。
そんなこんなで、その日からは辛い肉と辛い日課が続いた。
父さんからは、「約束を守らなかった分の罰だよ。罪には罰を、だよね?」と言われてしまい、どうしようもなかったのが事実だ。
それが僕の身長の伸び悩みにつながるのだけど...今はまだ、そのようなこと誰も覚えていない。
「...誰か。誰か、助けてくれませんか?」
そういうのは、後半年後ぐらいだった。




