魔物との戦争―――1
「...えーと?」
「分からなかったのかな?まあいい。我が使命は魔なる者の到来と、それを打ち破らんとする人のあがきを伝えるためなのだから」
挨拶をしてみるが、自称戦神ほど怪しいものはない。それを言うならお父様もそれに当てはまるが、実際僕の分体のような形でイアが居たり異常な魔力量を持ってたり、そんな僕の父親だからと気にはしていなかった。でも、流石に会って戦神を自称するのはイタイ人にしか思えない。
「疑っているのかな?まあ問題はないから良いが。ただ、フェルガの子―――レイヴン、と言ったか?君には残ってもらう必要がある」
「...はあ」
強引に物事を推し進めていくタイプらしいフェルグィスは、そんな気の抜けた返事をした僕の言葉を了承と受け取ったか僕以外を部屋から閉め出してしまった。
「...さて、君にはやってもらいたいことがあるんだよ」
「...なんですか?」
少し真剣な表情を作っていった僕に、フェルグィスは少し笑って答える。
「そう構える必要はない。ただ、我等の中でも上位種である『転生』の一族たるヴェルノが嘗て我等が王であった者から負の感情を生み出し、この地を闇に包まんとしている事、そしてその許にいる少女がヴェルノも意図せず、知らずに闇へと沈む前にヴェルノを倒してほしい、という事を伝えたかったまでだ」
―――
「...闇へ沈む、かあ...。」
フェルグィスの言葉は、あまりピンとこなかった。ヴェルノ―――恐らくガイオの事だろう―――がレギュリアを闇に包むことも、歓待を受けているだろうエミリアが闇に沈むと言うのも。
...いや、本当のことを言えば両方ともなんとなく想像はつく。ガイオの方は、人間は信じてみてもいいかもしれない―――人の業の深さに堕ちた彼がそう思ったのに、そう思わせた相手と同じ種族の人間が痛みはなくとも攻撃を加えてきたのだから、そうもなるだろう。あの負の感情に侵された視線を思い出し、まっとうな仕事をした名も知らぬ槍兵に対していつものことながら少し怨んでしまう。これから出る死者たちは全てお前の責任だ、と叫びたくもなってしまう。
エミリアが闇に沈む、それは恐らくガイオが歓待をすると言うよりかは、『人ならざるもの』が自らに対して優しくしてくるからだろう。
酔った時などに見せる、弱いエミリアの核心部。そこがガイオの忌み嫌っているはずの人に対しての優しさに侵されていき、いつの間にかエミリアもまたガイオのようになる―――と。
でも、『人ならざるもの』の優しさに侵されても問題ない気はする。実際、僕が人かと問われれば人ではないだろうから。
...まさか、本当に闇に包まれたりはしないよね?それで、敵対なんてしないよね?
闇の奥底にいるだろうエミリアに対して念じてみるも、答えはもちろん虚無だった。
「...レイ、自らの片割れを心配するのは別にいいが、恐らくガイオ様の侵攻が始まるのは冬になるころ、つまりはこれより3月後だ。侵攻開始から5か月ですべての大陸が魔の手に堕ち、其の半月後にはあの覇宙城すら落ちるだろう」
アリオスの割と絶望的な言葉に黙りこくる特別クラスの面々。あとアリオスには「自らの片割れ」発言に対して色々聞きたい事はあったものの、今は特にそういう事はせずにまとめ役を買って出るだろうセイタの発言を待つのみだった。
「...仕方がない。5日後を持ってラィデォル魔術学院は地下に格納、格納次第レイ君とイア、そしてユキの手によって神竜ノ鋼を作成し、この地に要塞を作成する」
果たしてセイタの下した決断は、魔物や人による物理攻撃及び魔術による攻撃をほぼ無効化するほどに堅く、魔術に対して非常に強い耐性のある魔晶鋼に似通ったと思われる物質で要塞をつくることだった。
「...神竜ノ鋼って何ですか?」
僕の当然ともいえる質問に、セイタは答える。
「ああ、これは聖霊力と魔力を約1:18の比率で混合して作れる物質だ」
その言葉を聞いた瞬間逃げようとしたイアを神速ともいえる肘打ちで気絶させたユウを僕は見逃せなかった。
未だ主力が物理攻撃だった時代、いち早く魔術の重要性に気付いた、当時一小国だった神聖ベルベッド帝国の皇帝となる男であり当時は魔術剣士と言う特異な存在だったデレルベン・ディル・ベルべディオは、自らが率いる300余人の兵を連れて敵国の本拠地近くまでにじり寄った。
そして彼が使った魔術は―――幻覚。それを使われた敵国主力部隊は煙幕と幻覚、そして時折仲間が殺される事実に統率システムが瓦解し、300余人の中から殆ど死傷者を出さなかったデレルベンは王になった―――。
ということで、僕たちはまず少しづつ地面を沈降させていった。
その際に使った魔術がそもそもとしての土地を下げていく<地盤沈降>と、長ったらしい説明をした、幻覚を見せる魔術の<幻視>だった。
意外と魔力を喰うらしく、一番魔力量が少ない(と言っても常人から見れば何百倍、何千倍とあるのだが)ユキがたまに荒い息を吐くのが見て取れた。
それも、3人の交代制による魔術行使なので消耗は少ないものの、本当に終わるのかという心理的負担が非常に大きいせいだろう。何とかなると信じたいが―――。
そんなこんなで地盤を鎮めまくり―――そして唐突に浮いてきたセイタが、【ラィデォル魔術学院の諸君、君たちには生き永らえるための業務を行ってもらおう】といつものだるそうなよれた白衣の恰好で、しかしいつもより威勢のある声でそう伝えた。




