フェルグィス
レヴィオン王国から戻ってきて早半年。僕たちは何事もなく進級し、魔人の話も聞かないまま平和に過ごしていた。
「...レイ、おーいレイー?」
しかし、僕は清涼祭も文化祭も一人で過ごした。当然だ、僕と共にいる筈のエミリアは今、どこかにいるガイオと共にいるのだから。それが僕にとっては寂しく、また悔しくもあった。隙を見せたガイオに槍を刺した兵士を呪い殺してやろうかと毎晩思い、そしてその兵士はガイオの翼の一振りで消滅していたことを思い出して力なくベッドに横たわるのも毎晩の事だった。
だから、僕は―――
「...レイヴン・ヴェルドリア。その様子ではガイオ様には勝てないぞ」
横で聞こえた声に、反射的に体を起こす。
見るとやはりそこにはアリオスがいて、あきれたような顔をしていた。
「...なんですか?」
不機嫌さを隠さずにそう言うと、アリオスは再びあからさまなほどに大きなため息を吐く。
「今日は演劇祭だ。...その事、忘れたわけじゃないだろう?」
「...だったらなんなんですか?」
言葉の棘を隠さない僕にアリオスが向けたのは、同情のような表情だった。
実の所、僕は最近無性にイラついていることが多い。
それに、全くもって起きれなくもなった。目覚めはするものの、動けない。いや、現実から目をそらしたくて動きたくない。
だからこうやって毎日起こしに来るアリオスに対しても誰にしても、こうやって接してしまうのだ。
この状態が悪い、という事には僕も自覚している。でも、別に表にいる必要はなくガイオが攻め込みに地上に来た時にガイオの居城に忍び込んでエミリアを連れ去ればいいだけの事なのだ。だと言うのに、毎日毎日律儀に起こしに来て―――あほくさい。僕はそうも思いながら、これも定例で風呂に入り服を着、不機嫌さを隠さずに学園内を歩くのだ。
だが、そんなくだらない『日常』が脆く崩れ去ることを―――その先に、僕にとっては待ち望んでいた『破滅』が有る事は予測もつかない事だった。
―――
「...このレギュリアに、魔なる物を引き連れて魔神が現れる。剣を取って、自らを守れ。この地が魔なる物の手に落ちし時こそ、レギュリアの終焉。若者よ、今こそ剣をとれ‼」
僕もエミリアも登場せず、盛り上がらなかった特別生クラス。その次に待ち受けていたのは、妄言としか思えない言葉を吐く初老と思しき男だった。
「なんであんな変な爺がセイタのお墨付きなんですか?あんな言葉を言う奴なんて必要ないんじゃないんですか?」
今までの態度のせいで比較的対応を変えていないセイタにこれもあまり変わらないぶっきらぼうな口調で聞くと、セイタは僕を哀れなものを見るような目で見つめた。
「...なんですか?気持ち悪い」
「それは悪かったな。だが、自らの祖父を変な爺扱いは流石にいただけない、と思ってみたまでだ」
「...祖父?」
「...さて、戦神よ。自らの子が生み出した存在と、自らの孫を見てどう感じた?」
「―――フェルガの分体に関しては普通、だな。一部我等の力が使えるようだが、どちらかと言えば非優等種の彼らより多少優れたものでしかない。しかし、孫の方には驚かされたな。フェルガと非優等種―――『人間』の間に生まれたことはいえ、フェルガより...いや、もしかすれば我等の中で術に優れた者よりも術力が強く、またその身にある術源も多い。半神半人ながら、『龍』よりも優れている可能性すらあるな」
何かを話している様子のラヴィア学院長。しかし、その二人が話しているのは僕とグレアの事のように思えた。半神半人であり魔力量が異常に多いのは僕のことで確定だ。それに、横でグレアが驚いているのも確信の一つだ。でも、本当にあのみすぼらしい老人が僕の祖父なのか?それだけは疑わしく感じていた。
「―――そこにいる非優等種たち、そしてフェルガもそうは思わないか?」
その声に、驚く。しかしもっと驚いたのは別の事にあった。
剣がひとりでに鞘から抜け出し、扉を潜ったのだ。ただ、潜っていったのは僕の二本の魔剣―――黒魔剣ティエルと白魔剣アヴィリア―――にどこに隠していたかセイタの長剣―――本人曰く、<泰鱗剣>というらしい―――と、同じくユウのアサルトライフル―――彼女曰く<ジェリスギゥ>というらしい―――だけだったことから、僕の魔力に反応していることが明らかだった。
驚きはそれでは終わらない。僕とグレアの肉体がともに引き摺られるのだ。
「...えーと、初めまして?」
「ああ、初めまして。我が名はフェルグィス・クアンタム。君たちの様な非優等種―――人間には、戦神と呼ばれる存在だ」




