停止時間で
「ああ...えっと、誰ですか?」
ガクッという効果音が聞こえた。中々に面白そうな人だ。
『...余の話を聞いていなかったのか?まあ最近の若者で余の姿を見て悶絶しない珍しく強きもののようだから、良い。だが、この余こそが偉大にして唯一である神聖ベルベッド帝国を創立した<魔導王>、デレルベン・ディル・ベルべディオであることは確かであるし、今の技術が余の治世のそれよりも下等であることも知っておるぞ?』
それでもまともに返してくれる辺り、悪い人じゃない。...とても話しやすい人でもあるようだ。
『大体、余が顕現することになったのもこの地を天空へと動かして悪しき者―――そして、余に全てを救う様に余が生きていた時に神託を下さった神であるガルィオ様の魔の手へこの城を―――そしてこの城に搭載された<崩天大裂空爆発>を渡さぬためなのだから、この程度の術式一つ守り抜けぬ今の王の貧弱さが分かるであろう?』
「いや、普通城は動かないものだと思うんですが...?」
当然だろう、という様にこちらを見られても困る。大体、僕は城らしい城はほとんど見た事がない。
そこで、もう一つだけこの世界にあるオーバーテクノロジーを思い出した。
「一つお聞きしたいことがあるのですが」
『なんだ?余にこたえられる事であればどのような事でも答えるぞ?』
嬉しい、そんなオーラを漂って浮いている半透明の幽霊にそんなこと言われても怖いだけですが。
『余は腐人形や骸骨兵、骸魔術師と言った幽霊ではないぞ?自らの意識で動くのだから、英霊と呼ぶがよい』
一気に不満げになる幽霊。ふんと言われても困るのは生きている僕だけど、考えに出すのですらも読まれてしまうのだから無心でいるしかない。
『それで、聞きたい事と言うのは何なのだ?』
ようやく機嫌の治ったらしい魔導王様は真顔になって問いてくる。
そこで僕は、かつて一度だけ見た魔封煉瓦の壁と浮遊する未完成の船について聞いた。
「ラィデォル要塞の件なんですが―――」
そこで言葉を切ったのは、下を向いていた顔を上げた時に英霊の顔があったからだ。
『今、ライデオルと言ったか?』
「え?あ、はい...。それがどうかしたんですか?」
一気に難しそうな顔になった魔導王の英霊。
聞いても無駄そうだったので、僕は剣の手入れをしながらのんびりと話し出すのを待つことにした。
―――
『...まさか、ライデオル要塞すらも残っていたとは...。光当たる地を余が離れて8000年、魔晶鋼が朽ちずに残っているとは...。』
難しそうな顔になってからようやく大昔より魔術兵器を用いていた帝国の故王が語り始めたのは、僕が剣の手入れを予備も含めて全て終え、<空間収納>内にあるユウに作らされたアサルトライフル(ユウ命名)やスナイパーライフル(左に同じ)を分解して整備し収納し、<恒久的次元収納>内に収納してある【戦車】の異常個所がないかを点検し終わって収納した直後ぐらいだった。
「そこには未完成らしい船もあったのですが...そちらに覚えは?」
『もちろんある。あれは余がこの覇宙城ガルヴィンデガイオが悪しきものに乗っ取られたときに完成したあの戦艦―――余はあれを、<空隙戦艦ヴェリオルドニスゼロ>と呼んでいたが―――によって撃墜されることを望んで作り始めたが、初めの管制室が完成した段階で病になり魔晶鋼が作り出せなくなって、そのまま放置していたものだ。多少出来上がっていると言う事は、余に近しい魔力を持つ者...それも、魔晶鋼の創り方を知る者がこの世にまだ居ると言うことになるな』
遠い目をするデレルベン王。
恐らくそんな事をやっているイアの顔を思い出して、僕も彼に倣って遠い目をしてみた。すぐやめた。
『...まあ、お前らは地上へと返そう。お前以外の思考時間は停止しているから、同じ時間で別の世界から来た、余にも理解できない存在以外なら記憶を封印して問題ないだろう。お前と理解できない男は記憶を消さぬが、それでよいか?―――そこで盗み聞きをしている、神の力を宿した者もだ』
その言葉で僕は振り返る。
「...チッ。いつから気付いていた?」
『気配の消し方は余にも分からないところだったな。しかし、其の身からあふれ出る神なる力がガルィオ様と同じものだったからこそ気付けたと言ったところか』
「...あの邪神の大本め、やはり『地上に行ったことがない』とかいうのはデマだったか」
相変わらず、口が悪い。そう思いながら、僕はそこにいた人物―――苦々しい顔をしたアリオスを見ていた。
「...アリオス、なんでここに?」
「あ?どうだっていいだろう、そんな事」
非常に機嫌が悪そうだ。というか、非常に機嫌が悪いんだろう。こんな汚い言葉、基本的に使わないからなあ。
『アリオス...だと?』
しかし、その名を聞いた王の反応は迅速だった。
『アリオス・ヴァルディアヌスか?まさかその名を受け継いだものがいたとは!2800年前に死んだと思っていたが、この時代にもいたとは!』
すっかり興奮している王をチョップして何とか正気に戻すと、僕は聞く。
「なんでその名前にそんなに興奮しているんですか?」
『それはそうだろう!我が親友にして魔術界では神童と呼ばれ、世界の中心で心中の思いを伝えたとまで言わしめる超人だぞ!』
興奮の理由はそれだったか...。僕はそう思いながらも、アリオスを睨んだ。
それに帰ってきたのは、なんでこうなったか自分でも分からないと言ったようにアリオスが肩をすくめる仕草をしたことだった。




