魔人
時折破裂音が響く中、僕たちは魔物を斬っていく。
殆どの魔物がゴブリンやオークなどと言った、見覚えのある魔物たちが鎧を着たもので、剣もまた兵士たちが使うような上質なものだった。
それでも、流石に僕たちの使うような特殊な剣には勝てないようだけど。
と、横から少し大きな影が現れた。
驚いて回避すると、寸前まで僕がいたところを反りのある片刃の剣―――カタナが通り過ぎた。
次いで、少し頬が切れたのか血がかかる。。
...どうやら、僕の腕も鈍ったみたいだ。ちょっと悔しい。
しかし、その影が何かの詠唱を始めたのを見てその判断は早計だったのではないかと思い直す。
見ると、その影だと思っていたものは人だった。
しかし、どう見ても人ではないところが複数個あった。
まず、目。本来であれば黒目だったと思うのに、その目は気味の悪い黄色と緑と黒がごちゃ混ぜにされ、何かの不純物が入った様な濁った眼をしていた。
次に、その目の数。二つの他に、口の左右に無理やりできたかのように時折血を出しながら開閉する目があった。さっきの血の原因はこれらしい。
そして、最もおかしいのがその顔。
眼の数や色はおかしいが、それ以上に全体の場所がおかしかった。
口は元の眼の間にあり、目はその分口があったところにあった。鼻は消え、耳は口の方の眼の真下にあった。
一言で表すのなら『異形』、だった。
「ガリアン候もご乱心か...。」
そう誰かが呟き、瞬間その兵が肉片と化した。
次いで氷弾が僕に迫ったので、斬り伏せてから炎で対消滅させる。
しかし、氷弾は炎を呑み込み、そしていまだ健在だった。
兵はもうほとんどが消滅して、僕たちぐらいしか残っていない状況だった。
「...さようなら」
遠くから聞こえたその声が僕の耳に届く前に、ガリアンと呼ばれた異形がのけぞった。
次いで破裂音。
出来たすきは見逃さずに、僕は小さく「<封印>」と呟いた。
流石に、これを消滅させずとも魔力を奪いながらの封印魔術であれば自然消滅するだろう。
そう思った攻撃だったのだが、異形は小さく、そしてはっきりと分かるほど確かに口角を上げた。
マズイ、と思った時には、「<永久呪怨怒悲死狂>」と、異形がつぶやいた。
―――
「...アレ?」
...だが、何もない。
少々拍子抜けしながら振り返ろうとすると、身体が倒れた。
おかしい。何かが確実におかしい。
「大丈夫ですか?」
目の前に手を出した、兵士。しかし、僕の眼には地獄に引き摺ろうとする男の手に移った。
恐怖で呻く。逃げるために。
でも、身体は動かない。
「...レイ?」
エミリアの声が聞こえた。
さっきと違って、兵士の手がぐずぐずに崩れた異形の手になった様な事は無く、いつものエミリアだった。
手を伸ばそうとして、それでも伸びなかった。
これが、異形の掛けた自分の命を犠牲にした魔術だとすれば、僕はもう何もできない。
「...<封印>」
不満そうなエミリアのその言葉で、手が伸びた。
その反動で、自分の体重がかかっていた手が滑って僕の身体がこける。
「痛っ‼」
確かに痛かったけど、さっきよりはましだった。
少なくとも、ただエミリア以外が恐ろしい、行動不能な世界よりは。
「...大丈夫?」
「大丈夫...とは言えないかな。多分エミリア以外だったら今でもさっきの男が僕を追ってくるから」
「...頭でも打った?」
「いや、違くて、多分さっきの男のせいだと...ってレーヴァは普通なのか」
「私がおかしいとでもいうの?」
「いや、ちょっと安心した」
レーヴァも普通だった、という事は男を見ると拒否反応を起こすのだろうか?
それだと、僕は大変なことになるのだけど。
「...いや、恐らくは一定以上のかかわりを持つ者であれば問題ないと思われるぞ」
「うわっ!?」
「そんなに驚かなくともよいだろう?まあ、いつものレイヴン君の方が面白いのだが」
腹黒なのか素直なのかよく分からないセイタ。彼はいつも通りの姿だったので、恐らくは彼の推論が当たっているのだろう。
暫くして、ヴァルがようやくやってきた。
色々せっつこうとしたけど、ヴァルが焦ったような様子だったので、言葉を聞くことにした。
「これはまずいぞ!アイツ、こんなまねしてホントにいいのかよ‼」
「...えーと、どういうことですか?」
いつも通りのヴァルは安心できるが、彼の言葉には安心できる要素は残念ながらひとかけらもない。
「...俺の姉、ゼロって言うんだが、ソイツと同じものが暴れてる」
意味が分からない。レーヴァ、君の考えはヴァルの方に当てはまるみたいだよ。
「この世界にも確かに神はいたな。実際目の前に半神半人は二人いるが、ヴァルと同じ―――いや、ゼロ殿と言う事であればヴァイオの一族か。...前アリオスが言っていた、ガイオ=ヴァイオ、と言うものか?」
「名前は知らねえが、確実にそうだ。...最近堕天したとか言ってたが、マジだったのか...。」
その話を聞きながら、僕は夢で見た事を思い出していた。
暗い闇の中で、少年が嗤っていた事。その少年が持っていた、禍々しい塊の事。動いたそれを、少年が暗い闇と同化させたことを。
しかし、今の僕にはそんな事を言える時間も無くて...そうして、僕はいつしかその夢を忘れた。




