ガルゴン王国越境
「美味しい―――‼な、何故豚に此処までの味が出せるのです!?」
肉を食べてはいけないらしい日(聖職者モードのヴァルは<生誕祭>と言っていた)である昨日は過ぎ、まだ日も差してきていない時間にユウが作った(一部手伝いはイアが行っていた)。
いつも見ている家畜である豚から感じる嫌悪感が奏して非常に懐疑的になっていたシスター・アンバーも唸るほどの美味しさとはどの程度のものなのだろうか...。
「...レイ、ヨダレたれてる!」
「はっ!?」
想像でヨダレを垂らしていたらしい僕をエミリアが嗜める。
少しだけ恥ずかしい気もするが、「そんなところがあるからレイなんだよなぁ...。」と意味深に呟くエミリアを見ているとそれもご愛嬌、と思えた。
「大丈夫ですよ。本日は生誕祭後なので、朝食を頂くことが可能です。それに、定例として生誕祭後の朝食は肉を頂くことが行われていますから」
僕の様子に気付いたか、ヴァル司祭がそう言ってくれた。
これ以上嬉しい事はないと思い、僕たちはそれに飛びついた。
「...それでは、本日も神に感謝を」
『......』
シスター・アンバーの言葉で手を組み、目を瞑る子供たち。
それが『教会』の食事に対する感謝だと思い出すのは数秒とかからなかった。
そして食べ始める直前にイア、ユウ、セイタ、ヴァルは手を合わせ、「いただきます」と唱和していた。
4人のいたところにも独特の感謝の方法があるのかと思いながら、特に何もなく食べ始める。
食事を見て思ったことは、僕たちに比べて子供たちの食事方法がきれいだと言う事だ。
僕たちが急いでご飯を詰める様に食べるのに対して、子供たちはゆっくり、綺麗に食べていた。
平民もここまでの綺麗な食べ方は出来ないな、と思いながら僕たちは食事を終えた。
だが、問題はシスター・アンバーだった。
「あれほど臭いはずの豚の臭いを抑えたのはどうやったのですか?並大抵の技術ではまずできないと思うのですが...。」
「ああ、それは酢を入れたり塩で臭みを抜いたり...」
「ス、とは?」
「ああ、それは酸っぱい奴の事よ。遠くでレモンとかなってるでしょ?ああいうやつの中身を使って、豚を漬けるの。それか塩をかけて放置して、臭みが抜けるのを待つとかね」
「...それは冬には向いていますが、夏や物資があまりない初春ではあまり持ちえない技術ですね」
「そのために牛やら鳥やらがあるのだけどね...。」
最近料理を始めたらしいユウと、長い長い会話を始めたのだ。
こうなるとシスター・アンバーの『神の信徒』感は消え失せ、すっかり子供たちに苦心する母親に見えるから不思議だ。
「...シスター・アンバー。間もなく昼のご飯のお時間ですよ?」
「ああ。分かりました、ヴァル司教様」
しかしそれを良い感じにヴァルが嗜めたのでセイタのゆらゆらする謎の透気(恐らくは長話のせいで自分を空気にして何も感じない様にしようとしていたのだろう)は消え失せ、代わりに「...はあぁぁぁ」という非常に長い溜息が覆面からこぼれた。
「...では、そろそろ昼食の時間とするか。私は一度外に赴くことにするから、約15分後に昼食を頂くように調整してくれたまえ」
稀に出る『~~~たまえ』口調をうっとうしく思いながらも、誰も口に出すことなく昼食を迎えた。
―――
「...では、行ってらっしゃいませ。神のご加護を」
「再び見えるときは、互いに成長できたときであればなおのこと良いですね」
そんな会話を交わしながら、シスター・アンバーは教会内に戻っていく。
「...ん?もう着いたのか。じゃあ、早速入るか。いやあ、久しぶりに見るのが楽しみだな」
それと同時に、ヴァルの声音と口調がいつものものに戻る。
それを疑わしい目で見ていた僕らは、ヴァルに「...なんでそんな目してんだ?」と言われてしまい、慌てて目をそらした。
「それでは、暇つぶしとして近隣国であるガルゴン王国に寄らせてもらおう。...アリオス、恐らくは此処が分水嶺なのではないか?」
セイタは教会内で終始無言だったアリオスに問う。
しかしアリオスは、「まだ分水嶺ではない。レイヴンの行動によって変わるだろうが」と分からない事を口にし、そしてまだ無言の状態―――要は動かない状態に戻った。
「...まあ、良いだろう。それでは、【戦車】にてガルゴン王国付近まで接近、次いで超高高度飛行を敢行し、国境を超える。レイ君、【戦車】を用意したまえ」
逆らう気など毛頭ない僕は<次元収納>から【戦車】を取り出し、そして皆が乗り込む。
前のスピードよりも【戦車】がとろとろしているのは、きっとヴァルが心の中で(子供たちに会いたかったんだけどなあ...。)などと考えているからだろうか。
ともかくとして国境付近に到着すると、気付かれる事もなく国境を越えたのだった。
―――
闇の中で、何者かが胎動した。
しかし、「今はまだその時ではない」と一人口にした少年がそれを抑え込み、少年はまた暗い闇を虚無へと変換させた。




