神族の内情
魔石バッテリ内蔵型魔導装甲車―――ヴァルに至っては戦術兵器を意味する【戦車】と呼称し始めた―――はその重量と不気味な外見に似合わず高速なようで、ラィデォルから密入国―――つまりは【戦車】に乗車―――して三日と言う驚きの速さでアリオスに到着する。本来の馬車であれば数か月、<飛行>を使うと全力で使用して半日と言ったところだが、快適に移動してたった3日で約240㎞を移動するのは並大抵の事ではない。
アリオスに入ろうとするも、勿論止められてしまう。
それも当然だ、馬車に一切見えない重装甲の謎車両が突入しようとしているのだから。
しかし、アリオスが一睨みすると何故か素直に門を開ける衛兵。
それを不思議に思いながらも、僕たちは前回同様異端審問官の服装である紺色の外套のみを身に纏い、覆面はしないことにした。
僕以外は皆各々の服装をしていることから、アリオスにある大商会・アリオス商会のふりをしていこうという算段だろう。
その作戦を上手い、と感じながらも僕たちはさも当然と言う様にアリオスへと侵入していく。
同名の者が同学級にいるせいで分かりにくいこと夥しいが、案外それでもうまく生きそうなものだ。
ということで、一切迷うことなくまっすぐヴェルドリア公爵邸に向かう。
町の人たちは一瞬だけ僕たちを見るが、都合よく背中を丸めて見せたので僕の下使いだと思ってくれたようで、興味を無くした様に元の仕事に戻る。
流石にイアとユウは目立ちすぎると言うわけで僕同様に紺色の外套をご丁寧にフードまでかぶって目立たなくしている。
或る程度領主邸まで近づいたところで警護のものに見つかってしまった為に、僕たちは一度立ち止まらざるを得なくなる。
「貴殿ら、この先はヴェルドリア公のおわすアリオス領主邸だが、融資の取り付けか?」
「ええ、そのような所です」
「そうか。...まあ、行方知らずだった公の嫡子等がラィデォル魔術学院にてこの街の名産である酒を広めたようでな、彼の学院の教員らや上流階級に位置する生徒らからは麦酒やぶどう酒を販価の倍以上の値で仕入れてくれるようで、すっかり麦や酒を商う者達から波及した高値は継続中なのだ。仕入れるときに意外と安い...そんな事があれば、公の嫡子等の恩恵だろう。おっと、私は警護に戻らせてもらおう。よければ、後に〔酒漸の鎧〕という店で酒でも飲み合おうじゃないか」
意外と口の軽い警護だったが、正直冷や汗をかいたことは話そう。
此処の酒を買い、かつ僕たちの懐が温まる様にと大幅に値を釣り上げて販売したのは忘れないが、まさかそこまでの影響があったとは正直考えていなかったのだ。
それだけラィデォルに影響力があると思うと中々に辛いものがある。
―――
「...して、いかがな御用で?レイヴン・ヴェルドリア様」
約10分後、僕たちはいつもの執務室ではない場所に通された。恐らくは商人様なのだろう、一人掛けの椅子が片方にそれぞれ2個置いてあった。
「皮肉はやめてください、お父様。単純にグレアがここに来たいって言ったので来たまでですよ」
「それは構わないけど、なんでここに来たかったのかな?」
「ま、特に理由はないかな。しいて言えば顔ももう覚えていない親へのちょっとした反抗ってとこだったんだけど、まあ...此処に来るに値する奴が来ちゃったからね」
グレアがそう言うと、アリオスが一歩踏み出す。
「...これは驚いた。まるで、転生神子飼いのアリオス・ヴァルディアヌスみたいじゃないか」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、お父様が宙に浮かび上がる。
今にも殺さんと、その整った顔立ちを物理的に歪ませようとするアリオスの腕が、お父様を宙に浮かせていたのだった。
しかし、今回ばかりはお父様に同情はしない。南無三、桑原桑原。
メキメキと音を立てて歪んでいくお父様の顔骨だったが、唐突にアリオスはお父様の顔から手を離す。
それと同時にお父様から光が漏れ、そこにいたのはグレアと同じ姿をした男だった。
「全く、酷い事をするね。1400年も子飼いだった君には分からないだろうけど...さ!」
背に生えている茶色の羽から5本程度が抜け、それがアリオスに襲い掛かる。
それを剣にて叩き落し、アリオスはお父様を睨みつける。
「よく言う。お前こそ、親の寵愛を受けることなく神族としての力を持ちつつ人の世に身をやつした戦神の子だろうに」
怒りに任せて降り注ぐ、神の力の結晶体を手に持つ紫雷八光剣にて打ち砕くアリオスは涼し気にそう口にする。
更に神剣の降り注ぐ量が増え―――むしろ倍増まであり得る―――、勢いも上がるもののそれを意に介さないアリオスはさらに言葉を紡いでいく。
「確かに、俺はあの“軸”でも転生神ガイオの子飼いとして、神なる大地の異端を裁いていったさ。
だが、俺はそれでもいい。こうやって他の“軸”を見ることが出来るのは転生神ガイオと境界神パンデミア・エルストラヴィオが俺に力の一部を分け与えているから、だからな」
神格化されている神が本当に存在する事実を受け止めつつも、案外神族の内情は教会のそれに近いことが発覚し、お父様も通常今の状況で怒る場所ではない、神族の内情を暴露されたことによってどこからか飛び回っているものと同じ神剣を持って攻撃している。
...転生神ガイオと境界神パンデミア・エルストラヴィオ。その二柱が僕たちにかかわる事はいつなのだろうか。
そんな事を思いつつも、僕たちは二人を叱り、本題に入るのだった。




