旅譚Ⅰ―――下道その一
特に何か反論の起きることもなく、僕たちは次の日に出発することになった。
何で移動するのかと思ったが、驚くことにただでさえ禁忌魔術である転移の上位魔術、外天魔術と言う、世界で使用者がいないとされている魔術―――<時空間位相転移>をあろうことかセイタが使用し、しかも同時に<思考読了>と呼ばれる記憶再生術を用いて移動することになった。
ただ、それを使うのはあくまでも遠いところの移動と言うことで、基本は歩き―――勿論肉体強化術を用いて、だが―――、もしくは馬車―――僕の<物質創造>で作ったものをこれまた僕の<恒久的次元収納>に入っている―――で赴くことになる。
最初に近いところに行こう、ということになった僕たちはまずベルベッド共和国に赴くことになった。
ベルベッド共和国はなんだかんだで僕たちに関与深いものだ。もともと僕とシン、それにイアの出身地であり、またお父様の文体であるグレアもまたここから出てきたわけで...それにアリオス・ヴァルディアヌスも違う“軸”とはいえきっと同じ経緯を至っているのならきっと相当の縁があるのだろう。
そんなベルベッド共和国だが、此処に来たいと言ったのはグレアだった。
神族としての名前らしいその名を持つ彼は、姿形としては若い男―――というより、ともすれば少年にもとられかねない容姿だ。
そんな彼がここに来る理由など、どうせフィリップへの定期報告とかそう言うものだろう。
ただ、その理由である「自らの街を一平民としてのんびり動きたい」と言うものには僕も微笑ましいものを感じた。
ただ、その理由にエミリアも賛同するのは意外だった。
―――
ということで、一応はラィデォルからベルベッドに移動する為、国境線で関税を受けるのを回避するために<飛行>を使っていくのだが...いつの間にか国境を越えていた僕たちは怪しまれないためにも<飛行>を切って地面に着地する。
此処からは暫く陸路が続くために、馬車で赴くことにした。
通常、馬車で北のラィデォルから中央部のアリオスまで赴くには、時間がかかるものだ。しかも、大人数―――それも、二けたに及ぶ乗組員をのせている馬車なのだから本来なら数か月かかっても不思議ではない。
ただ、それを可能にするのがこの馬車なのだ。他国の叡智を結集させて、多額の資金を投入してようやく一台を創れると言ったほどの高スペックを誇る馬車には、数多くの仕掛けがあった。
正直なことを言うならば、この機体は馬車ではない。名称を付けるのならば、装甲車だ。
走行方法はキャタピラと呼ばれる薄いレールの様な物を脚部に接合し、それを回転させて動くのだ。
また、その動力は無尽蔵にも思えるイアとユキの魔力が込められた魔石が用いられている。
魔導車にも少し似ているものだが、内蔵式動力―――イアなどは『バッテリ』と呼称している―――の有無によってはっきりと区分化されている。
次に、室内の環境だが―――室内は、外見に比べて広々としている。
理由としてはエミリアが<空間拡張>を内蔵バッテリで使用しているからだ。規模としては、実に720㎡《平方メア》を誇る大きさを持っており、ソファやベッドにウォーターサーバー、すごいところで言えば<恒久的次元収納>を使用しなくてもずっと温度や状態が維持され続ける、【状態保管機】なる名称が与えられた細長い、白の外装をした箱が置いてある。しかも、それは単純に密閉しているのではなく<空間凍結>なる外天魔術を内蔵魔石に発動させているので変化がないというわけだ。
また、防御も非常に優れている。魔晶鋼という名称の超高密度魔力塊が魔術及び魔法を中和するほか、物理攻撃に非常に強い性質を持つ、魔力媒体のアサシネイテッド・ドラグーン装甲、通称AD装甲を用いることによって非常に優れた防御力を誇る。
要塞と言うべきな僕たちの装甲車は攻撃面も優れており、大気中の魔力を利用して魔術を使用したり、後はニホンから瞬間転移させた実弾兵器、それに隠されている超高速実弾放射兵器―――通称バルカンを用いたりして戦うことによって、戦術級魔術を使われなければ一国を墜とすことも可能だ。
...だが。
「イア、こっちの世界でもアレ作ろうよ!」
「...それで魔力で脳を焼き切ろうってのか?斉太よか優しいが、如何せん酷くないか?」
「由紀、趣味悪いわよ」
「えー!だってさ、それでみんなで世界を楽しく作り変えればいいじゃんか!」
流れを乱すユキに巻き込まれるヒバナ兄妹と、
「ほう、では私は回路の構築でもさせてもらおうか」と操縦を放り出してユキの方に向かうセイタ。
そして、もう何も言う気も無いのかセイタの放した操縦桿―――?を無言で操り始めるヴァル。
ソファで眠りこけているアリオスに、先程アリオスのとは別のソファで船をこき始め、遂に眠ってしまったエミリアに、ずっとぶどう酒を創っては飲み続けるグレア、後は姿の見えないもののどうせ甘言ばかり吐きながらキスなりなんなりしているだろうシンとレーヴァ。
つまり、本来の趣旨を覚えており、かつ正気なのは僕(と多分ヴァル)だけなのだ。
僕は、こうなった元凶であるセイタに、帰ってから不満を言う事に決めたのだった。




