アリオス・ヴァルディアヌス
僕たちは絶句した。思わずシンを見てしまうものの、そのシンすらも何が起きているのか分からないという顔付きをしていた。
「俺の言葉が信じられないか?まあ無理もない。この“軸”でも俺がいたのは1400年ほど前のはずだからな...。それにしても、なぜこの“軸”の俺は通常転生していないんだ?この様子じゃ記憶転生したんだろ」
口調がイアのそれに似ている気もするアリオスの言葉は、シンに向けられている。
シンが何かを答えると、アリオスは非常に失望したような顔をしていた。
「俺の“軸”じゃ俺はレーグスに殺されたんだが...それが違う所なのか。だから、お前は記憶転生したんだな。俺の様に完全で転生したんじゃなく。だが、それじゃダメなんだ」
アリオスは、そうまくしたてる。しかし、それだけでは彼の様に未来が分かっていそうな人間でなければ理解することは出来ない。
僕たちは一切そう言った能力がないので、それには頭に疑問を浮かべるしかないのだが。
そこで気付いたか、アリオスは頭を搔き毟る。
そして頭をブンブン振ると、苦々しく呟く。
「この後じゃこの中で何人か死ぬ。だから俺は此処で出なきゃならなかったんだ」
―――
驚愕に包まれた教室内で、アリオスを除く全員が互いの顔を見る。まるでそうしなければ消えてしまうと言うふうに。
「そんな事をしても意味はない。大体、この世界には俺の“軸”にはいなかった【特異点】がいて、この世界の“軸”から大きく離れている。本来は、今の段階でこの世界は闇に包まれているような状況なのに、【特異点】の影響でこの“軸”ではまだ平和だ。だが、後7ヶ月と言ったところか。そこいらでこの中に...二人は死者が出るぞ」
互いを見合っていた僕たちに、アリオスは絶望の権化たる“死”を口にする。
本来であれば、僕たちは死ぬことがない。僕たちの力であれば、並みの敵では死ぬことなどないのだ。
しかし...本当に未来を知っているらしいアリオスが死ぬと言うなら、きっと死するのだろう。
だと言うのに。
「...死ぬわけないでしょ。そんなんで死ぬんなら、私たちはもう何十回も死んでるよ」
レーヴァが、そう言う。しかし、声は震えていることから内心では死の恐怖を振り切れていないのが分かった。
「それが確定するのは約4ヶ月後だ。その時に死ぬのは...現段階では特定できない。しかし、この中にいる者が2人は確実に死ぬだろう。要因は戦死、その時には俺とシンが必ずいる。しかし...この世界線には【特異点】がいるからどうなるのかは分からない。最低でも一つの“軸”でその事象が発生する事は確実だが」
...馬鹿馬鹿しい。それが僕が聞いて思った感想だ。
それが本当の事だと知るのは、それこそ7ヶ月後だった。
―――
「...“軸”というのは、要はパラレルワールドの世界の事か?」
もう話しかける気も無いのか、黙りこくってしまったアリオスにイアはそう問いかける。
その言葉に少しだけ興味を抱いたか、少しだけ顔を上げると答える。
「そうだ。平行世界と呼んでも遜色ないものだが、“軸”はぶれる物だ。この世界で言えば、そもそも【特異点】がいる時点で“軸”はぶれにぶれ、無限にも思えるほどの“軸”の世界を生み出している。その8割は【特異点】がこの世界に降り立って5年以内に消滅し、残り2割弱も17年以内...それこそこの中の二人が死した時に【特異点】がその“軸”を消滅させた。残りの一掴みが俺のいた“軸”やこの世界だ。そして、【特異点】はこの中にいる」
長い話が終わると同時に、僕たちは再び周りを見渡す。
この世界のものではないイア、ユキ、セイタ、ユウ、ヴァルの5人は除き、次にシンとグレアも消去する。
というと、死ぬのは僕あたりだろうか。あと7ヶ月の命ならお父様に最期の挨拶をしておきたいものだが。
アリオスの左手が上がると、その人差し指がまっすぐ僕の胸辺りを指した。
「...レイヴン・ヴェルドリア、お前が【特異点】だ。恐らくは誰も死する事の無い“軸”を、シン―――過去の“軸”の【特異点】、イア―――別の『世界』の【特異点】を引き合わせて歪ませ、その二つの【特異点】が生み出した渦に呑み込まれながら更に狂った渦を作り、更に“軸”を歪ませる。これがあるからこそ、此処に別の『世界』の者がいて、グレス王国からやってきた姫がいて、その護衛がいて、神族の血が流れた者の分身がいる」
そんな自覚は決してなかった。
僕が【特異点】などと言う自覚があれば、きっと世界は変わったのだろう。
だが―――。
「僕はこれでいいですよ」
「なに?」
アリオスが驚いたような顔をして聞き返す。恐らく、彼がいた世界の“軸”ではここで僕が狼狽えたのだろう。その違いは、きっとあるものの強さの違いだろうか。
「エミリアがいてくれますから」
僕のその発言にアリオスは驚き、次いで懐かしむ様な優しい表情になった。その顔はシンのそれとほとんど同じだったが...。
「...レイ」
僕にだけ聞こえる様に小さく、ただ耳に響くような声音でエミリアが僕の名を呼ぶ。
そちらを振り向くと頬を紅くして、たまにこちらを見てはまた紅くなって視線を外すエミリアがいた。
「...馬鹿」
その一言は僕の心に刺さった。
アリオスの登場をもっと遅らせればこんな事には...!




