SWEET MEMORY
「...ハイ?」
何を言っているのだろうか、エミリアは。
何故か、言っている内容が頭の中に入ってこない。
「だから―――」
「いや、それは聞いた」
だと言うのに、自分の中ではそれを自然なこととして受け入れているのだ。
「...大丈夫?」
挙句、僕の口から出てきた言葉がこれなら、エミリアに怒られるようなことがあってもおかしくなかったはずだ。
だと言うのに、彼女は。
「ボクだって、まだ時期尚早かもしれないって言うのは分かるよ。でもさ」
どうして、
「...やっぱり、今しかないって思ったんだ」
此処まで僕の事を好きで居られるのか。
もう、僕には目の前にいるのがエミリアの姿をしたナニカに思えてならない。
いつものエミリアであれば、こんな時には「...そう、だよね」とか言って悲しげな顔をするはずなのに。
...もしかしたら、あの剣術学院生がエミリアの背を蹴飛ばしてやったのかもしれない。
ならば、彼女の言う事は純粋に自分の気持ちなのだろう。
そこに、いつものような反応をしていればどうなるか。
答えは明白、きっと失望する。
そうなれば、確実にすべてが芋づる式に瓦解する。
それもこれも、僕たちが信頼し合っているから起こることだ。
だとすれば、こちらも純粋に自分の気持ちを伝える必要がある。
「...ああ、答えはいらないよ。ボクが勝手に言っていることだしさ、もしかしたらレイにとっては迷惑だもんね」
ただ、僕が言葉を発しようとした時にエミリアはそう喋った。
きっと、自らと同年齢の者に後押しされた勇気は先程に使い切ってしまったのだろう。
其の、少し諦めたような口ぶりが僕の口を更に堅くさせる。
しかし―――本当に、伝えるならば今しかない。僕にしても、エミリアにしても。
「エミリア―――」
そう言おうとしたところで、ガサっと物音がした。
その物音のせいで、僕たちはその場に硬直する。
僕たちを追ってきた者がいるのか。ただ、僕がここでエミリアに想いを伝えなければ、その後に伝えることは絶対にできない。
だと言うのに、神は残酷だ。
言葉を発しようとしたのに、僕の言葉は掠れて言葉にならない。
エミリアは、僕の言葉ともいえないその音に込められた意味に気付くこともなく、僕を不思議そうに見つめた。
そこで諦めれば、その後の未来はないと信じて僕は身体を動かす。
口はまともに働かなくても、身体は素直に従ってくれるからだ。
無理やりにでも体を動かすと、僕は5歩分先にいるエミリアに向かう。
それでも不思議そうな顔をしていたが、エミリアの言葉で入り乱れた心だったために強張った笑顔を向けると、いつもの様に僕に笑みを返す。
...あんな事を言っておいて、半ばあきらめて。
そんな笑顔を見せるのなら、本当に狡い娘だ。
そう思い、ようやく自分が言おうとしていた言葉を吐く。たとえ、それが他の人に聞かれていたとしても。
「―――僕なんかでいいの?」
しかし心の中で温め続けていた言葉は膨らみ続け、結局は潰れてこんな言葉しか出なかった。
僕のその発言に驚いたのか、一瞬目を見開くエミリア。だが、不意に笑い、その笑い声は大きくなっていった。
「うん!一緒に居れるなら、やっぱりレイが一番だよね!」
だが、続いたエミリアの言葉には、多少失望を感じ得なかった。
僕に対しての思い入れは、やはり親友までだったのか。
ただ、そこまで思ってふと思い直す。
今、周りには剣術学院生と思しき人影がある。
そこで思いを打ち明けるのは、流石に気が引けると言う事なのだろうか。
そこまでを考えた僕はしかし、道化を演じることにした。
「...僕に対しての想いなんて、そんなものなんだ...?」
声に失望を込めたその言葉。しかし、僕の顔には本当に楽しい時にしか浮かばない類の笑みが有る事だろう。それは、エミリアも同じだった。
人の睦言を聞くのが楽しくて仕方ないのなら、逆にそれをぶち壊しにするように動けばいい。
それを思いついてくれたのは、実に嬉しかった。
「い、いや、ボクはそんなつもりじゃ...。」
焦ったように言うために、息継ぎを小さくするエミリア。
やはり顔には、聞かれているのを逆手に取るのが楽しいと書いてある笑みがあった。
ただ、そんな会話が後にもあるかもしれないと思うと、笑えない話でもあったのだけど。
「...じゃあさ、なんであんな言葉になるの?」
ちょっと嫉妬深い風に見せることになったけど、まあこれぐらいが丁度いいのかもしれない。
ようやくこの茶番も佳境になってきた頃になって、僕は言い放つ。
「エミリア、僕はもういいよ。此処に呼んだのが裏目に出たね!」
そろそろ笑みを消すころか。そう思って、多少真剣に顔を作る。
流石にあちら側から出も顔が見えるだろうと思っての事だが、存外に上手く行っている。
焦って、何かの対策を相談するのが聞こえる。
「な、何を―――」
そのタイミングで、僕は<魔力霧消>を掛ける。
人の眼と言うのは魔力を通して見えている様な物で、裸眼で見える者はいない。
それに加えて魔力で身体を透過させていったので、きっと見えた人たちはいないだろう。
それに加えてドサッと言う音をごく小さく立てた為に、きっと彼女等は自分たちのせいで僕が死んだと思ったことだろう。
思った通り、遠いところから魔力源が遠ざかり、元の場所に戻ったと思われるところで僕は<魔力霧消>を消す。
「いやあ、簡単に騙せたね」
屈託なく笑うエミリア。しかし、それは子供っぽい笑みだったという事を忘れてはならないだろう。
まあ、それは僕にも言える事なのだが。
「じゃあ、ほんとのこと言うね」
今までの事が全て前座であったかのような口ぶりに、僕は背筋が伸びる。
「...本当は、レイがいない事なんて信じられないよ。まあ、居ないならいないでボクは此処にはいないからね。だからさ、せめて恩返しがしたいなって」
「恩返し?」
「そう、恩返し。それに、レイもボクの事好きでしょ?」
何故わかるのか。ただ、誰もいないので大胆なことをしようと思ったさ。
「え?レイ...?」
そう言いながらも、エミリアは嬉しそうだ。
そして、人目も憚らず僕たちはキスした。
「...大胆なことするねぇ」
と、何処からともなく聞こえたその声に身を固くする。
そこから出てきたのは、ユキだった。
「ま、良いんじゃない?」
そう言いつつも、冷やかされるのを待つ身としては、こう...赤面するような思い出だ。
おひさ♪葵だよっ‼
...申し訳ありません、葵です。
ということで、私のこの『境界の物語』もついに50部になりましたし、文字数も10万字と言う大台を突破しました。
ということで、シン・レーヴァ寸劇をご覧あれ。
―――
シン「...レーヴァ」
レーヴァ「ん?どうしたの?」
シン「ちょっと剣術学院生が弱すぎるから鍛え直そうかなって思うんだけど」
レーヴァ「うん?良いんじゃないかな。早速鍛え直そっか!」
シン「その前に、レーヴァ」
レーヴァ「何?...んッ」
シン「どうかな?」
レーヴァ「...キスには慣れてきたけど、流石に突然だと驚くなあ」
―――
なんで私はこんなものを書いてしまったのでしょうか。
ダメなようなら、コメントでお叩きください。




