プロローグⅡ フィリップ
本編に相当近い物語です。
「...フィリィィップウゥゥ‼まあた食堂に忍んだかアァ‼」
その轟音を避けながら、僕は食堂から出る。
と、ちょうどお父様に見つかり、拳骨を落とされる。
「こんの、バカ息子があぁぁ‼きちんと礼儀を覚えぬかあぁぁ‼」
最近のお父様ときたら、常にこれだ。
僕は、それに萎えてしまう。
ベルベッド共和国の中央部から少し離れた場所にある要塞砦市アリオス。
そこを直轄で治め、周りの領地すらも治めている、ヴェルドリア侯爵の子として、僕は育てられている。
だけど、それは違うという事は分かっていた。
―――僕の生まれは、此処ではない場所。
此処の人たちとは違って、格式などない公平な世界で僕は生まれた。
だけど、父と母は僕を人の許に渡した。
そして、此処の子―――アルフォン・ヴェルドリア侯爵の子として僕はフィリップと言う名と共に礼儀を叩きこまれている。
この名は好きだけど、礼儀は覚えられない。
しかし、それを棄てようとするとこのように怒られてしまう。
仕方なく、僕はそれを少しづつと習得する羽目に陥っていた。
―――
10歳の誕生日。
僕は、ここぞとばかりに礼儀を叩きこまれた。
それに従って、僕は今まで覚えきれなかった礼儀も覚えた。
前まではそんな礼儀いらないと抵抗していたけど、今となっては必要になることが分かって、案外お父様も口下手だな、とおもう。
踊りやら貴族風の挨拶やら。
周りの人たちがくることを考えるとそれは覚えなければならない事だったが、正直覚えたくなかった。
それでも、若き王・グラン陛下が来ることを思えば、必死で覚えると言うものだった。
―――当日。
僕は、必死に頑張った。
「そんなに気負わなくてもいいのよ」
横でかけられたその声にそちらを見ると、僕と同じぐらいに見える少女がいた。
「レヴァス・ヴァルディアヌス。おぼえておいて」
ヴァルディアヌスというのは、ここ等辺ではよく聞く大昔の勇者の家名だ。
でも、それは平民の家名だったような―――。
「私の家はもともと平民だったからね。まあ、今日は貴方が主役なのだから堅くならないで」
僕は、その少女と共にいたいと思った。
でも、その後に王女様が話しかけてきたので、いつもの挨拶よりも5段階ぐらいには丁寧にあいさつした。
それは、王族に対する最大限の礼儀と呼ばれているものだったけど、お父様がそのような感じの人だったために、僕はそれで覚えていた。
ただ、それは貴族と王族の間でも滅多に使われるものではなく、物好きな人位しか使わないものだったけど、それに感激した様子のグラン王はその場でお父様の位を侯爵から上位侯爵にして、少しだけ公爵に近づけていた。
お父様は、その間何も言わなかったが、パーティが終わると家の宝ともいえる朽ちかけた1マリア銀貨という異国の銀貨をくれた。
それだけに、これには価値があったという事だった。
それを有り難くいただいておきながら、僕はこっそりと<時間遡行>をそれにかける。
今までずっとしたかったことだけど、この魔術は大昔から生きている転生を司る最近堕天した神・ガイオが伝えたものだったから人に見せられるものではなかったために、こういう形にした。
すると、銀貨は薄長い板のような物1枚半になった。
何処のかは分からないけど、これでも銀としての貨幣価値があるのが面白かった。
ともかく、僕はそれを銀貨の状態に戻すと、胸の部分にあるロケットに入れる。
いつか、また見ることがあれば、と思いながら。
―――
15歳になった日、僕はある少女の許にいた。
レヴァス・ヴァルディアヌスの元に。
僕は、レヴァスに求婚していた。
貴族がこうするのは少ない例だけど、お父様はそこらへんは頭の柔らかい人だから許してくれた。
レヴァスは、これを待っていたかのように抱きしめてくれた。
後は、レヴァスが僕より2日分年上だということが分かった。
その時に、僕は結婚した。
お父様は、その時に僕に侯爵の座を渡して隠居した。
子供は、17の時にレヴァスが妊娠し、18の時に生まれた。
相当早く子供が出来た部類に入ると思う。
僕は、其の子―――男の子だった―――にレイヴンと名付けて、レイと呼びながら育てていた。
ただ、レヴァスが抱き締めてくるのを嫌がるそぶりをレイが見せるのはよくない兆候だと思った。
其の予想は当たってしまった。いや、当たってほしくなかったし、今でもそれを嘘だと思っている。
どうやらまだ子がいたらしく、大変そうにしていた。
そんなレヴァスの助けになろうとして買い出しに行き、かえってくると―――そこには、レイのみを残してレヴァスが居なくなっていた。
この家からレヴァスに関する全ての者が消え去っていた。
僕とレヴァスの写った写真も、レヴァスにあげた無骨な鉄の長剣も、何もかも。
僕は失意のうちに思った。きっと、レヴァスは僕の事を裏切ったのだと。
それと似たようなことが後にも発生することを僕は知らなかった。
それもこれも神の試練なのだ、と神父は語った。
何もかもが信じられないのなら、子供と自分の身を信じればいいと酒をおごってくれた人は言った。
何も信じれないなら、貴族として嘘におぼれればいいと誰かが言った。
僕は、貴族として生きることにした。何もかもが運命を司っている、この世界でいう所の『神』の所業なのだと思って。
レイが成長すれば、僕は覚えていることを教えてあげよう。
そして、剣を握って憎しみを断ち切ってもらうために。




