エミリアとの闘い―――Peace field―――
エミリアと戦うことになった剣術大会決勝戦。
剣術大会と言うのは名ばかりで大抵が初心者だったため、僕たちは上位に食い込んでいたのだけど...まさか、あのイアがエミリアに負けるなんて。
そう思って、僕はイアに話を聞きに行くことにした。
「...ああ、レイか。入っていいぞ」
何故か警戒されていたけど、僕と分かるなりいつもの声音になったイアは笑っていた。
「なんでエミリアに負けたんですか?」
僕の質問は予想されていたらしい。「...やっぱりそう来るか」と呟くと、彼は言った。
「俺の知っている奴の剣筋と全く同じだったからな。それで、レイだったらどうするのかって思って負けたんだ」
...若干イアの負け惜しみにも聞こえなくもないけど、もしかすると本当にイアの知り合いなのかもしれない。今までにユウ、セイタ、ヴァルと言う実例が無ければ、負け惜しみだと流しただろうけど。
そんな感じでイアの言葉を聞いているうちに、時間になった。
一言礼をすると、イアは最後に少しだけ僕に語った。
「アイツと戦うなら、何も考えないでやった方がいい。それに―――きっと、エミリアもレイと同じ様な奴だ」
その言葉を考える暇は僕には無かった。
間もなくエミリアとの決戦が始まるのだから。
―――
エミリアは、剣を振るっている時と笑顔の時がほとんどだ。
剣を振るう彼女を横に感じると、途轍もなく安心感が湧く。
だが、其の剣が振るわれる相手が自分であるならば?答えは簡単、僕は震える。
と言っても震え上がる理由は恐怖ではなく、エミリアが浮かべている表情が年相応の少女が浮かべるに値する単純な歓喜だったからだ。
ただ単純に僕と戦えるのがうれしくて仕方ない様子の彼女は、其の心理状態に比例して剣筋も鋭くなっていた。
いつもなら単純に負かせる相手なのに、今の状態だと寧ろ僕が押されている。
少し僕より彼女のほうが背があるからという問題ではなく、単純に彼女の心に負けているのだ。
本当なら、此処で受け流せば隙は生まれる筈だ。しかし、そのようなことをすればもう片方の剣が僕を袈裟斬りにするだろうことは容易に浮かぶ。
そして、そうしてしまった時のエミリアの、驚愕と自分への怒りをまぜこぜにした表情の顔も。
こう言ったところからイアは負けたのかもしれない。
イアは何かを欲していた気がするが、エミリアの場合その対象は僕のようだから。
「...ボクね、こうするのが夢だったんだ」
と、突然独り言のようにつぶやくエミリア。しかし、僕には喋るような余裕はなかった。
「大好きな人と、二人で一緒に居ることがさ」
其の剣筋が、更に鋭くなった。
「でも、ボクはここにいても君の迷惑にならないのかな?」
一瞬剣筋がぶれたが、それをとらえようとした僕の左腕が切断される。しかし、彼女は気付いていない。僕がそれを無視してまで動き、かつ彼女は僕とこうやっていることに溺れているのだから。
「...いいや、迷惑なんて関係ないよね。ボクは今こうして一緒に居るんだから」
右腕もついに切断される。僕は小さく「…<時間遡行>」と呟き、切断された腕と剣を戻す。しかし、戻している最中に僕の腕はさらに切り刻まれ、剣はどこかへ飛んでいった。
「じゃ、そろそろ終わりにしよっか?」
僕に慈悲を与える様に、一旦武器を仕舞い、丸腰でエミリアが近づく。ただ、それが唯一の僕の勝機だと言う事には気付いてなかったようだ。
彼女の思いを利用する様で、僕の心は非常に辛い。しかし、それこそが勝負と言うものだろう。
「...これで、ボクが一番だ。きっとボクはこうしなきゃいけなかったんだよね」
謎の言葉を呟きながら、エミリアはさらに近づく。
もう一歩、剣を抜かずに近づいてくるようなら勝機はある。寧ろ、勝てることは間違いなくなる。
想いは天に通じたか、もう一歩僕に近づいてくるエミリア。それに心の中でどこかの神に感謝し、ボクは行動を起こした。
「...ひゃっ!?」
近づいてくるエミリアを抱きしめ、彼女が驚きに硬直している間にもう一度<時間遡行>を発動させる。
少なくとも彼女は、僕の事を戦友以上に置いてくれている。ただ、唐突に抱き締められれば彼女は硬直し、僕の行動理由に一瞬頭を捻るだろうと思ったが、想像以上に効果を発揮したようだ。
エミリアがようやく正気に戻った時には、僕の腕はすっかり元通り、黒白の二振りの剣も両腕にあった。
「...ボクを馬鹿にしたね?今まで楽しく一緒に居れると思っていたのに...ッ‼」
その様子を見たエミリアが言うと、その背からは愉しそうな雰囲気は消え、顔には怒りと―――何故か少しだけ虚しいような、自虐するような、そんな感情が浮かんできた。
少しだけ泣いているように見えたのは僕だけかもしれない。
ともかく、先よりもその剣は早く強くなったが、如何せん彼女の剣は読みやすくなった。
しかも、彼女の剣は自分の意志のみによって構成されていたのか今までの鋭くまた優しい剣から、僕への殺意のせいで飛び道具である針のようなものまで剣から出る様になっていた。
しかしそれは僕には何故か当たらず、疲弊してきたのかその剣は今までの剣同様鋭く優しい剣に戻りつつあった。本人にも、僕には殺意の剣を向けれないと思っているのかもしれない。
...これは僕の抱擁のせいだろう。そう思い投降の意を口にしようとすると―――。
「...ほんとに馬鹿だよ、君は」
諦念から来ているのかそれとも他の理由からなのか、少しだけイラついた様子のエミリアが口を開く。
そのまま溜息を吐くと笑顔に戻り、「...じゃ、最初っから始めよっか?今度は、負けた方に罰として相手の言う事をひとつ何でも聞く、でどうかな?」といつもの様子でそう口にする。
いつもの様子に戻ってくれて良かったが、僕が負けたら何を言われるのだろうか。
もしかすれば、「死ね」などと言われかねない。
流石にそれはないと思いつつも、再び僕たちは剣を交えた―――。




