清涼祭後譚
...次の日は、片付けで一日が終わった。
やはりエミリアは来れず、セイタも「あまり顔を出すことは控えたいものでな」と言ってユウの逆鱗に触れたが、言葉を違えずに地下研究室にこもっているものと思われた。
ユウは酒に弱すぎるため潰れていて、エミリア同様来れなかった。
つまり、片付けは僕とイアとシンとレーヴァの4人で行う羽目になったのだった。
ただ、この店を壊すことはもったいない。
<恒久的次元収納>という上位互換の術式を使って空間ごとしまうことに。
周りの学級が普通に崩しているのを横目に帰路に就く僕たちは異質に思えたんだろうか、多くの人たちがこちらを見て恨めしそうにしていた。
―――
さらに次の日。
僕はエミリアと共にラィデォル学院の外をぶらついていた。
暇だったからエミリアの誘いについていったという建前だが、実際の所は全く違う。
一昨日のエミリアの話をするためだった。
「いやー、こうやってレイと二人と言うのも何か新鮮だね」
「いや、たまにこうしていた気がするけど...。」
「それは依頼でしょ?ボクは君といるのが楽しいよ。(...それに、きっとボクを置いて居なくならないから)」
此処は聞こえていないふりをするのが上策なのか。普通なら聞こえないほどの声だったけど、僕にはその声は聞こえてしまっていた。
ただ、彼女が一昨日言っていた話は本人にも自覚のあるものだとわかり、ちょっとだけ悲しくなった。
「...そうだ。ボクさ、一昨日夢を見たんだ」
珍しい事を言い出すものだから、「どういった夢ですか?」と聞いてしまう。
「お母さんが戻ってきて、見捨てたってお母さんが言っていたお父さんがほんとは買い出しに行ってただけで、お兄ちゃんと一緒に来て...それで、お兄ちゃんが抱き締めてくれたって言う夢だよ」
僕は思わずドキッとする。確かに、酔った後泣きながら眠るエミリアを部屋まで返した時に話をしながら僕は歩いていた。その時に言っていた内容は、こんな世界があればいいな、と言うものだけど、その内容はエミリアが言ったものとほとんど同じだった。
「それでさ、夢の中のお母さんが言ったんだ。ボクの名前はお父さんと二人で、女の子が生まれた時につけようって言っていたって。それでさ―――」
僕はやはり聞いたことのあるような話がしていた。
「男の子だったら、レイヴンってつける予定だったってさ」
「...僕の名前とおなじなんて、きっとエミリアのお父さんも考えていることがお父様と同じなんですね」
「そうだね。でもさ、意外だよ。だって、夢の中のお兄ちゃんがこういうんだもん。『レイヴン・ヴェルドリアは近いうちに死んでしまうだろう』って。怖くない?」
絶対僕の話したことではない。僕は、あの時一緒に居続けれれば、どれだけ平和なのだろうと言ったはずだ。
夕日が彼女を照らし、笑顔に象られている彼女の顔には一昨日の恐慌状態のエミリアが見て取れた。
きっと―――エミリアが死ぬことがあれば、僕は泣き咽ぶだろう。だが、何故?分からない。
「...ボクさ、それで思ったんだよ。早めに思いを伝えとかなきゃなって。だから、その...」
「...いなくならないでよね?」
その答えがいつものエミリアらしくなくて、そして彼女の本来の姿を現しているように思えて、僕はつい笑ってしまう。
「笑わないでよ!」
そう言ってむくれるエミリアは、けれどもそのむくれた顔を一瞬だけ柔らかくし、
「...でも、きっと一緒に居れるよね」とつぶやいた。
「なんですか?」
「五月蠅い!」
僕の問いには受け答えせず、いつもの様に僕たちは帰路に着いた。
...思えば、その時から僕はちょっとだけエミリアと距離が縮まったのかもしれない。
嬉しい誤算だったけど―――。
「...遅いではないか。外で二人して歯に衣着せぬ睦言ばかり吐いてきのではないのかね?」
セイタにそう言われて、エミリアが僕を叩くのは理不尽だと思った。
ただ―――真っ赤になって僕を叩くエミリアは、可愛く思えた。そんな事を言えばまた叩かれてしまうだろうけど。
―――
「さて、それでは2か月後に控えた文化祭だが、君たちは何か案があるのかね?」
「「なんであなた(お前)がいるんだ(だよ)!?」」
「...私の仇」
「私を殺そうとするな。寧ろ、私は優、お前に研究成果を横取りされて義憤に満ちているのだ!」
「...お前ら、静かにしろよ」
次の日、ようやく特別生学級も始動したと思えば、そこには新たに3人の人が増えていた。
そのうち一人はエミリアと面識があったが―――残りの二人は、イアとユウが良く知る人で、片方は僕もよく知る人だった。
だが、その日一日論争は続き、一日丸つぶれしたために3人の紹介はまた明日、となってしまったのだった。




