故郷、再び
珍しく相当長いですが、今回はエミリア視点もありますのでご了承ください。
(_ _)
「...懐かしいなあ」
シンがそういうのも無理はない。僕も、いまそう言いたい気持ちに包まれているのだから。
僕たちは―――ベルベッド共和国の中でも屈指の性能を誇り、また貿易の中継地としても大きく栄えている都市、要塞砦市アリオスにいた。
「...こんないいところに住んでたんですね...。」
「...此処だったら色々ありそうだね。私ものびのびいれそう」
「「そんな事をしたら迷子になりますよ!」」
「...そんなに否定しなくたっていいのに」
エミリアはその栄えように驚き、レーヴァは自らの身を貶めるような言葉を発する。
しかし、二人がそう思うのも仕方ない理由があった。
「...今の時期は夏の大市ですからね、色々な場所のものがここであふれているんですよ」
「「へえ...。」」
夏の大市は、アリオスに入ってくるものの総決算のような感じだ。
これを目指してくる人が多く、それを狙って商人も集まる。
更に、それを狙ってお父様が此処に入る人から関税を多く巻き上げ、更にその関税を宿が安いという形で還元しているからさらに人が集まり―――という、とんでもないスパイラルを作ったのが大市だった。
ちなみに冬にも同様の物が有るが、そちらは完璧にお父様の手元に入っている。
まあ、それは仕方ないのだが。
とまあ、そんな感じでいるのだけど僕たちは完璧に怯えられていた。
イアは前いたので見慣れている人もいたようだ。しかし、ユウは顔が見えないからか少し怖がられていた。しかしイアが「実験に失敗して酷い顔になった妹ぉぉッ!?」と説明している途中でわき腹を肘打ちされて笑いを呼んで馴染んでいた。
だが―――。
『なんでこんなところに異端審問会が...?』
『まさか、領主様が背教行為を行っていたのか...?』
僕たちの姿は、顔をバレない様にかつてグレス王国でしていたような姿―――言われるように、異端審問会と呼ばれる姿の、紺色の外套と覆面を着けた姿をしていた。
教会と言うのはベルベッドでもアリオスのような北西部には効果を持っている(しかしベルベッドの権力には関係しないほどの強さでしかない)。
その為、信仰が大きなこの地域では下手な領主よりも異端審問会の方が力が強い。
僕たちは、すっかり怯えられていた。
が...それが一番侵入しやすい方法でもあると、僕たちは知っていた。
そのために、堂々と僕たちは自らの家に、形上は招かれざる客として入り込んだのだった。
―――
「...何をしているんだい、君たちは。僕はそもそも教会に入信していないからね、異教徒として裁きに来たのかな?それとも...」
久しぶりに会うお父様は、全くもって変わっていなかった。
それでもって、
「...顔を見られない様に、さも当然な風に入れるようにこうやって異端審問会の服装をして入りに来たのかな?ねえ、レイ、シン?」
案外僕たちの来る理由を知っているのだから驚きものだ。
「...仕方ない、か。まあ、そうだよ」
シンの意外な軽口に驚いたけど、仕方なく僕たちは来ていた外套を脱ぐ。
その最中、エミリアを見た時に少しだけお父様が驚いていたのが意外だった。
「...ボクの顔に何かついてますか?」
ふてぶてしくもそう言うエミリアは、なんだか少しだけ意外に思えた。
「...レヴァスみたいだね、君」
エミリアに僕の知らない人名を言うから少しだけ驚くものの、それにエミリアもまた「なんでボクの母さんの名前を知ってるんですか?」と言い出すものだから困り者だ。
ついていけなかったが、「...まあ、昔の知り合いさ」とお父様が言い出すから僕にそれ以上の追及が出来なかった。
「...もしかして...。」
エミリアとお父様の共通認識とはどういうことなのだろうか。
それが分からなかったものの、突然お父様は僕をつつく。
「何するんですか。僕も一応大人なんですよ」
そう不服を言うと、お父様は意外なことを言う。
「いや、昔の僕を見てるようでね」
むかしのお父様、とはどういう事だろう。前、神界からこの世界によこされたというのは聞いているが...。
「...レイ、若いねえ」
「な、なんですか」
と、突然面白がるような顔になって僕をもう一度つつく。
危害を加えようとする意図は感じられない事から、きっとおちょくりの一環だろう。
...でも、何故?
そう思いながらいると、不意にエミリアが立ち上がる。
「は、早く始めましょう!」
少し焦っているような感じに聞こえたのは僕だけではないのだろう。
「へえ...。」とお父様が言っていたことから、恐らくその理由は碌な事ではないのだろう。
そう思いながら、僕たちは珍しく商談をする羽目に。
―――
結果から言うと、相当安く済んだ。
アリオスは酒の隠し名産地であり、ブドウにしても大麦にしても需要はそこそこある。
そんな中、わざわざ酒の方を原価で融通してくれたのだ。
しかも、限定120瓶しかない『レヴィリア・オルディアン』という言わずと知れた酒界随一のうまさを誇るレヴィオン王国の至極の酒を3本もくれた。
1本はふるまう様に、一本は皆で飲むように。そして残りの一本は、エミリアにお父様が私的に渡していた。
「...良い娘じゃないか。いやあ、君たちがどんな動きをするのか楽しみだよ」
特に何も思わずに行っているようにも思えたが、その目には未来が移っているようにも見えた。
かくして僕たちの材料はそろったのだが―――「あ!酒以外のものがない!」というユウの思い出しによって、僕たちはバタバタと動き回り、ようやく終わったと思えば、中一日開けて次の日が納涼祭と言う所まで来ていたのは驚きだった。
―――<エミリア視点>
「...エミリアさん、ちょっと来てもらえるかな?」
「え?はい...。」
そう言って部屋をフィリップさんと離れると、レイのいつもの呆けた顔が見えた。
やっぱり、あの顔を見るとこっちまで顔がふやけてきそうだ。
そして行き着いた先は、地下室だった。
少し怖くなって「...何があるんですか?」と聞いてしまう。
でも、フィリップさんは何も言わずに扉を触り―――そして、消えていく。
怖くなって、「ふぃ、フィリップさん!?」と聞くと―――。
「ああ、問題ないよ。君もこっちに来なよ」とシンさんのような声が。
少しだけ安心してその場所を触ると、ボクの中の方から無理やり引っ張られるような力が働いてその先の空間に入り込んでしまう。
「いてて...。」
そう言ってしりもちをついてしまったところから立ち直ると、ボクはその先へ進む。
少し埃っぽい場所で、ボクはちょっと苦手な場所だと感じた。
更に先に進むと、ようやく目的地にたどり着いたようでフィリップさんが止まった。
「ここは...?」
そう尋ねると、突然目の前にいるフィリップさんが二つに分かれた。
片方は小さい姿になり、もう片方はそのままだった。
小さい方のフィリップさんが「...まあ、此処には何もない。ただ、この姿になることが重要だった」と言って、手元から何かを取り出した。
「これは...?」
その質問には、「常に手元に持っているといい。何かあっても君の身は守られるはずだよ」と返し、小フィリップさんは言う。
「...まあ、あんなんだけどレイは少しぐらいのストレスとか無茶ぶりには耐えられるからさ」
何を言っているのだろう、そう思って続きを急かす。
「君はそれでいいのかい?自分の思いは分かっているはずさ」
...もしかして、ボクに対してこの話をするために此処に連れてきたんだろうか?
「そうだよ。君の心の内は分かる。でも、それの後を選ぶのは君だろう、エミリア・ヴァルディアヌス」
「ッ!?」
何故ボクの家名を知っているんだろう。
特に誰かが言ったとかもなかったはずなのに、どうして...?
「...僕はね、君の出自を不思議に思ったんだ。何故、ヴァルディアヌスと言う家名を持つ少女がグレスにいるのか、ってね。でも、ようやくわかったよ」
「もしかしてだけどさ、君は母親しか親が居なかったんじゃないのかな?」
何故だろう。何故、此処までボクの事を知っているんだろう。
「...そんな顔は悲しいね。曲りなりにも、僕と君には深いかかわりがあると言うのに」
この人が怖い。
「...まあ、いいや」
そこで雰囲気を変えると、少し面白そうな笑みを浮かべて一言言った。
「レイの事、好きなんでしょ?」
「な...!?」
「ふふふ、分かりやすいね」
その言葉は途轍もなく大きな地雷だった。
慌てて否定するものの、「恥ずかしがってると、レーヴァに二人ともとられるよ?」と言う小フィリップさんの言葉で硬直してしまう。
「素直になりなよ。そうした方が、最初は変に思われたとしても後々君の望む方に行くと思うよ?」
ため息交じりに、それでも真剣そうに言う小フィリップさんはボクの心を抉る。
「で、どうなんだい?レイと一緒に居たいんだろ?その時、君は戦友でいて苦しくないのかい?」
それでも、ボクは分からなかった。
好き、という感情は知っている。ボクがレイに抱いている者もそれだと自覚はしている。
でも―――そうしたら、ボクのせいでレイが大変になるんじゃないか?
そう思うと、ボクの口は堅く閉ざされたままになった。
「...情けないね。まあいいさ。少なくとも、後4,5年以内には答えが分かるから良いけどさ」
と、ようやく言葉を切ると言った。
「...グレア・ヴァルディアヌス。その内、その名で僕はそこに特別生として入るからね。
...君たちが結婚しないのなら、永久に君の事をからかってやるよ。『奥手』ってね」
「―――っ‼」
ボクの心は、見透かされていた。
その事実を気付かされ、ボクはのぼせてしまった。
―――ボクは、心を偽らないようにした。
それで、ボクは今度こそ―――。
レイに、想いを伝えるんだ。たとえそれが、レイに拒絶されたとしても。




