異界の猫好き
その日のエミリアは何処か様子がおかしかった。
何か聞こうとしても恥ずかしそうにするだけで反応はなく、しゅんとしたエミリアは一緒にいると何故か心が痛くなった。
ただ、レーヴァもシンも何もしなかったから特に何もいう事は無かった。
次の日になると、エミリアは少し戻っていた。
しかし、ユウに対しての敵対心を覚えたようで特別生教室に入るなり常に僕の横、後ろ、前のいずれかにいた。
誘惑に負けて抱きつくと、恥ずかしそうに頬を赤く染めた後、軽く小突いてくる。
そのたびに「...馬鹿」と言われるのは少しだけ傷付いた。
僕は魔物の牙には耐えられるけど、親友の言う暴言には幾分弱いのだ。
其のことをシンに相談した。
「...本当鈍感だね、レイは」
シンが言っている言葉の意味は分からなかったけど、エミリアに対して僕が見逃していることでもあるのか...?
分からないので本人に聞いた方がいいか、と聞くと「それだけは絶対にしてはいけないタブーだよ」と言われた。何故禁忌なのか。
まあ、僕もエミリアの言う馬鹿の意味が照れ隠しなのはなんとなく気付いていた。
しかし、なぜ照れ隠しをしなければならないかが分からなかった。
...だから鈍感だと言われるのだけど、そんなこと僕は知らなかった。
―――
突然だが、ラィデォルの発展した理由がユウにあるのをご存知だっただろうか。
尋常学院に僕たちが入った時ぐらいにイアが居なくなったけど、その時辺りから急激にラィデォルが発展し始めた。
ちょうどそのころユウはこちらの世界に来た。
コメと言う、小麦の粒をそのまま用意したような白い粒を大量に入れたものやそれに絶妙にあう、香辛料やジャガイモなどを入れたカレェなる茶色の液体、鶏肉を揚げたカラアゲ(通称ヒバナ焼き)、ジャガイモを入れて周りに衣をつけて揚げたコロッケ、同じように衣をつけて海老やイカ、薄切りのイモなどを揚げたテンプラに特別なコメを使って磨り潰し練ったモチなどの食べ物、この制服、新たに追加された『文化祭』なる各学級の出し物をするものなどが彼女の行った変革だった。
「何かしたいのなら、猫を頂戴」
その一言で猫を献上してしたい事を言うも、猫が気に入らないとにべもなく断られていくのが見られたそうだ。
「...猫が好きなのよ。耳を撫でたいし、腹をわしゃわしゃしたいし、それに―――」
「そこらへんでやめとけ。ユウ、お前はレイまで猫麻薬に染める気か」
「良いじゃない、それで」
「...まあ、お前がパーカーを作った事と、和食を再現しようとしてある程度うまくいっていることは認める」
猫麻薬とは何ぞや。
―――
特に何もすることなく、時間が過ぎていく。
ただ、此処は魔術学院と言っても色々なものが揃っていた。
呪術、神聖術、奉神術式に魔封陣と言った特殊なものまで。
取り敢えず、奉神術式と魔封陣だけは覚えておこうと思いながら、僕はこれからの方針を決めた。
「...そんな事を覚えなくても、魔術の方が体内循環がいいのに」
「...そんな冷たいこと言わないで。奉神術式と神聖術を組み合わせたものでは心臓まで復活させられるんですよ?」
「貴方は首を落とされても生きてるって聞いたんだけど」
「...すげえな、レイ」
今は、7日に一日と言うラィデォル独特の一週間の数え方の中で二日連続の休みの二日目。
僕はいつも通り、ユウの作る魔方陣を起動させていた。
たった一枚の薄い紙でも、その魔方陣に描かれたもので召喚魔術を使うと途轍もなく魔力を消耗する。
それでも無尽蔵のような物だけど、これは何をしているのだろうか。
「...ま、元にいた場所とつなげるためのゲートの元...のずぅっと前の段階のものっておもって」
よく分からないけど、とにかくこれからの道のりも長いのが分かった。
...ただ、もしかしたら此処に来ると言う事は何かしらつながっているんじゃないんだろうか。
それこそ、天界と呼ばれる外天の何処かにある星と異界をつなぐとされる紡錘型構造物、<空の境界>あたりと。
ただ、それはどうかは分からない。
それを知っていたとしても、天界から外天を通してこの星に戻ってくるためには途轍もない努力が必要となるだろうから。
だから、ゲートの方がいいのかもしれなかった。
「...お前の家がまた謎の力で満ち溢れるかと思うと末恐ろしい」
「謎の力って言っても、私の家にあるのは<Destiny Plan>を維持するためのスパコンと、家を常に清潔にし続けるナノマシンと、それにアリスの張り紙くらいだけど」
「...そういえば、お前ってアリスファンだったな...。しかも会員番号一番の」
何の話をしているのか。そう思いながら魔力を注ぐと、謎の材質の容器が現れた。




