ラィデォル魔術学院
季節的には初夏と言った時。僕たちは、今ラィデォル魔術学院の目の前にいた。
僕たちは、シンの言った『最終手段』を連呼しまくり、エミリアの言う様にサクッとここまで来た。
月が2回半満ち欠けしたところだった。
距離的には此処まで来るために歩いた8400㎞の中の600㎞な筈なのに、二月半という何もない割には長い時間を使ってここまで来ていた。
だが、その分ゆっくりと過ごしていた。
本当はレギュロスで冬を越さなければもっと早く―――恐らく、春ぐらいには―――ここに着くことは出来た。しかし、冰龍王が健在だった時の冬を思い出すと...背筋どころかこの身まで凍ってしまいそうだ。
その恐怖が身に染みて残っている時期だったので、僕たちは冬を暖かいゲルググで過ごした。
そんな事があって、もう春を越して初夏となっていた。
『ついたなら門前にいる兵に【黒白の二振り】と言え』というシン宛のイアの手紙を見ているこちらからすれば、入ることもたやすいだろう。
「...君たち、入学は少し前に終わったぞ。それとも、秋季入学の審査を受けに来たのかな?」
物腰の柔らかそうな声。しかし、その腕はがっつりと剣帯に収められた剣の柄を振れている。
何度か道中普通の人に見えた追いはぎを見た僕たちにとってはまだまだ甘いな、と思いながら僕は言う。
「黒白の二振り...だけのはずでしたが、氷焰も追加されてしまいました」
「...そうか。では私に付いてきてください」
突然持ち場を離れたその兵にもう片方は驚いていたようだが、「...分かったよ」と分かってなさそうな声を上げると、仕事に戻った。
そして、そのまま連れていかれる。
―――
「...教頭殿、連れて参った」
その無粋な一言だけで扉を開けるその兵は、少しだけ驚いた様子の教頭を尻目に何処へと行ってしまう。
「...全く、あの校長ときたらまたああやって兵をしていたのですか。道理で見つからないわけだ」
気苦労の絶えなさそうな皺の多い老人―――とまではいかなくても全盛は昔に終えたような肉体の、東の方から来たと思われる黒髪を持つ男がいた。
「ああ、すいません。私がラィデォル魔術学院教頭にして、校長が行事以外の事に関して何も手を付けない為に実質校長職になっているレヴィン・ユーステスです。こちらまでご足労戴き、ありがたく思います。して、要件はいかに?」
白皙の顔に柔和な笑みを浮かべている初老の男は、今も衰えぬ果てなき欲望を具現化したような蜥蜴のような光を宿していた。
恐らく、下手なことを言えば呑まれるだろう。
でも、僕は素直に言うことにした。
「ここに入学したいんですけど」
―――
「...分かりました。Aランクと聞きましたが、実力の程は?」
一応、力は見せなければならないらしい。
だが、そんな面倒ごとを嫌うレーヴァが自らの持つ大剣、冰角大剣を抜こうとしてシンが止め、シンの焰尾大剣パーシヴァルと同時に抜くことになった。
ものすごい熱気と冷波が身を包み、相殺し合う。
「焰龍王の尾と冰龍王の角をもとにした剣...。
...どうやら、噂は実際のようだ」
言いたい事だけ言い、レヴィン教頭は入学の手続きを進める。
「...力を示すんじゃなかったんですか?」という僕の問いには、「あれほどの剣士がいるのなら問題ないですよ。きっと、御二方も似たような力を持つんでしょう?」という答えとも問いともとれる言葉をくれた。
それで3人が「レイが一番強い」と言い出すものだから困り者だ。
「...そろそろ、私も入らせてもらおうか」
そんな焦れたような声が聞こえたので、何とか追及を避ける。
そうして現れたのは、やはり先程の兵。
だがその服装は、白衣にどこかで用いるのだろうどこかの着物らしいものを内に着た姿に覆面と言うアンバランスな見た目をしていた。
「...ラィデォル魔術学院長、ラヴィア・G・ロンリネスだ。覆面は理由があって取り外せない為、表に出ることはめったにないと思ってくれ」
なんて人だ。でも、何故かこの人なら面白い未来に連れて行ってくれる気がした。
...この人が直接関与していなければ、なおさらよかったのかもしれない。
「...ということで、明日からこのラィデォル魔術学院に在学していただくことになりますが...お部屋は男子寮二つと女子寮に一つでよろしいでしょうか?」
「「「「はい」」」」
「...では、此処から制服を選んでくれたまえ。尚、服装は...エミリア君、だったか?君は立場上男子用の制服を選ぶといいだろう。それにレイヴン君、君にいたって言えばあるかどうかは分からないが、サイズ調整が出来る物がいいだろう」
ラヴィア学院長は意外に僕たちの事を知っているようだ。
「では、また明日」
そう言いながら扉を閉めるレヴィン教頭。
その後に、レヴィン教頭の声でこう言った言葉が聞こえた。
「...何やらかしてくれてんだ、セイタ」と。




