<朋友>、消滅
「...私のお願いを聞いてくれませんか...?」
其の女の人はそう言った。
僕にはそれを拒否する理由は無かったので、快く引き受けることにした。
その反応がうれしかったのか、
「えへへ、じゃあ内容をお教えしますね!」
そこからの言葉は、もう忘れられなかった。
「...王のもとに一緒に向かう事です!」
そのまま腕を掴まれて、気付いたら空を浮いていた。
「わっ、あ、え...!?」
僕が慌てている様子も無視して、その人は僕をぐいぐいと引っ張っていく。
そのまま引っ張られて行って―――そのまま、どことも分からない厳めしい城門が見えたところで止まった。
そこで、その少女は姿を変えた。
その姿は、アリオスが生きているときに取っていた姿と同じだった。
―――
「...成程。この姿が、貴方の一番なじみのある姿なんですね?」
さっきの人の声のまま、アリオスはそういう。
「あ、安心してください。私は私ですよ?」
姿を戻す少女。
それが安心できないものでもあるんだけど、なあ...。
「...ほう。
この童がレイヴァの連れてきた裏切り者を始末する人族か?」
「うん。ま、緊張しなくてもいいよ。父さん、こんななりで珈琲とかぶどう酒を飲むぐらいしかしないし、こっちに来たのも脱走した奴を捕まえるためだから」
「...で、でも...。」
その後、僕はそのまま連れていかれた。
そして、連れてかれたのは朋友、と呼ばれるよう見た目では決してない恐ろしい見た目の、しかし優しそうな人だった。
溜息を吐くように言うその人は、そこで笑顔になった。
「...しかし、脱走した奴を君は倒してくれた。人が被害に会う前に君が斃してくれてありがたいな」
「じゃ、じゃあ、本音でしゃべって貰っても...。」
そう言うと、その人は目を見開いた後にく、はははと笑い、言った。
「面白い奴だな、お前は。いいだろう、余としても普通にしゃべらせてもらおうか」
面白い人だなあ、と思った。
―――
「...そうだな、アリオス。お前は、僕よりも俺と言った方がいいと思うぞ。
貴様は強い。それが僕と言っていては、勝てる話も勝てなくなってしまう」
「...勝てる話?」
何を言っているか分からないでいると、
「ああ、そういえばお前は農村の出だったな。だが、此処まで強いのは珍しい事だ。人族が神と呼ぶ我々にも、此処まで強いのは少ない。そう言った話を知らなければ、金を持ってかれたり、ともすれば死に兼ねんぞ」
末恐ろしい。
まあ、世界にはいろんな話があるんだな、と思った。
その後、僕―――いや、俺はレイヴァとよく過ごした。
たまにこの城に寄る魔物を倒しに行っていたが、レイヴァは俺以上に強かった。
...少しだけ悔しかったが、共にいるとうれしく思えた。
「アリオスはまだ若い。レイヴァも若いのだから、いっそのこと婚約してしまえばいいのではないのか?」
真顔でそういう<朋友>の王―――名前は、レイグと言うらしい―――。
レイヴァがそれに恥ずかしそうに反応していたけど、俺にとってはそれでもいいのかも、と思っていた。
結局、俺達は1年半後、17になった時に結婚した。
理由としては、人族軍が近づいていて死ぬかもしれないからだ。
子を為してレイヴァを戦闘に出させない様にすれば、俺はレイヴァを守るために死ねるだろう。
その理由で、俺達は結ばれた。
その夜。
「...なんか、こうしてみると恥ずかしいね...。」
モジモジとしているレイヴァは、それこそそのまま置いておきたく思えた。
でも、死なせないために、そして後のために、その日は共にいた。
レイヴァは、いつもの様子からは想像できないぐらいに従順だった。
―――
そんな事があってから、5か月。
先月レイヴァは妊娠した。大体8か月程度で子が生まれるそうだった。
でも、俺にはやらなければならないことがあった。
人族軍はもう目の前まで近づいていた。
こちらは攻撃をしていないどころか、攻撃した奴を血祭りにあげていた。
でも、それが先方としては仲間すらも皆殺しにする残虐非道の者達に思えたらしい。
こちらが少しばかりの小麦をもらえば帰ると言っているのに対して、あちら側は持ってもいない宝物の品々を要求し、交渉は毎度毎度決裂。
最後の事に至っては、使節が刺殺されたほどだった。
だが、レイグ王は「手を出してはならない、手を出せばいくらこちらが無実を訴えても皆殺しにされるだろう」という方針で、この城に皆を集めていた。
結局今は軽く籠城戦のような感じになっていた。
投石器の岩が時々城壁を砕いては、悲鳴が上がる。
破壊されていくこちら側の城の中には、手を出そうとする急進派が多くなっていた。
だが、俺達のような中央勢力が止めていた。
...3か月後。
たいていの人は、もう元の世界に戻っていた。
残っているのは、レイグ王と俺、身重なレイヴァぐらいだった。
人族は遂に実力行使に走り始め、残っていた者達は殺された。
大丈夫なのは王室だけだった。
それも、爆発音が響きながら珈琲をたしなむレイグ王とレイヴァ、それに俺しか残ってはいなかったけども。
と、突然コップと共に珈琲を棄てたレイグ王がこんなことを言った。
「...アリオス、余を殺せ」
「「!?」」
二人して、それに驚いてしまう。だが、王は続ける。
「余はもういい。どうせ死んでもこの姿で復活する。だが、二人は違う。それに、子もいるのだ。
そう考えると、アリオスが余を殺し、その首を以てして人の許に行くがいい。
さすれば、勇者として崇め奉られるだろう。なのだから、余を殺せ」
「出来るわけないだろっ!」
それに、俺は言う。
「そんな事をすれば、レイグ王、貴方は悪いものと決まってしまうだろう!?
だから―――」
「二人が―――いや、3人が生きるのであればいい。
...アリオス、分かるな?悩む時間はないのだ」
「―――ッ...!」
血がにじむほどに唇をかむ。
ダメだよアリオス、というレイヴァの声はもう意味を持たない。
ひとしきり悩み、やっぱりできない、と言おうとしたところで砲弾の炸裂が遂にこの部屋まで範囲に入れた。
「...もはや悩んでいる時間もない、か」
「...すまない、レイヴァ、レイグ王」
俺は、その声と共にレイグ王の首を刎ねた。
それは、兵士たちが王室に突入してくるタイミングとほぼ同時だった。
「...人間?」
その間抜けな声は―――俺を苦しめるいばらのような物でもあった。




