<転移術式 ガレヲーノ>
「「...ここは?」」
それは、僕たちにすれば当然の疑問だった。
変な森に入ったと思えば、僕たちは唐突にここにいるのだ。驚き以外の感情が抱けるのなら、ぜひともそうしたい。
まあ、そんな事を思うぐらいにこの場所は分からなかった。
取り敢えずとして、僕たちは近くにごまんといる人たちにどこかを聞くことにする。
「...あれ?君たちはどこから来たのかな?こんな服ここ等では見ないけど―――?」
―――と、その言葉を聞いて驚く。
この言葉は、僕たちの使っている言語―――俗に、ベルベッド語と呼ばれる―――に非常に近いけど、少し訛ったような言葉だった。
「...ああ、なるほど。すいませんね。ちょっと兄さんが頭打ってるようで。コイツに言い聞かせますんで、すいません」
相当口悪くシンが僕をののしる。
酷い言い草だったけど、シンが聞いた理由を詮索させないためだと思えば...何とかなるわけない。
取り敢えずお辞儀だけして、シンに引っ張られていくこと5分弱。
なぜこんな狭い路地なのにすらすらと動けるかは分からないけど、その道の先には昔からある様式の家があった。こんなところに何故―――?それは僕にはわからなかった。
それよりも、今はシンに詰問する方が先だ。
「シン」
「...仕方ないだろ?僕がここを知っててもおかしくないと思うんだけど」
結局、シンは僕が聞きたいことが分かるようだ。
...それもそうだろう。なんせ、こんなところに建物が有る事を知っているのだから。
「...君は何なんだい?自分のことぐらい知っていないとおかしくないのかな?」
と、今までと少しだけ違う空気のシンがそういう。
今まで一回も見せてこなかった、冷たい光がその双眸から放たれていた。
「...だって、君も<転生>した身なんだろう?」
―――
昔々に禁忌魔術として認定された魔術に、<転生>がある。
その能力は、死する人を記憶のみ保持する者と、そのままの姿・能力・記憶を保持している者の二種類の同一人物を作る事である。
それは、500年ぐらい昔に禁忌魔術に認定されたものだったけど―――シンはもしかすると...さらに昔から生きていた人なんじゃないだろうか...?
「...ま、いっか。極稀に別世界から来る人もいるらしいしね。記憶がないならいいよ」
大げさなリアクションと共に先までの冷たい眼の光を消すシン。
ただ、あの目の光は...多少貶されている様な気がして、少しだけ―――悲しかった。
―――
「ああ、この家はある人の家なんだよ。もう、今はいないけどもこの国がある理由その者と言ってもいいかな」
いつもの様に平然と言いのけるシン。だけども、それでいて言っている内容は国家機密レベルだった。
と、シンが今まで言ってきた謎の言葉たちが集約され、僕にシンの正体と言うものが形を取り始める。
「ねえ、シン」
「どうしたの?」
恐る恐る尋ねる前に、シンは返事をしてくる。
それに引っ込みかけたけど、僕の口はそのままに言葉を紡いでいく。
「シンって...もしかしてだけど、アリオス・ヴァルディアヌスと結構知り合ってたりするのかな?」
「...いや、一耗も関わった事は無いね。全くもって彼の顔とかそういうものは分からないし、彼の行動理念も理解できないよ」
シンは少し考えるそぶりをした後、そう言いのけた。
ただ、その言葉はなんだか嘘に聞こえた。よーくアリオス・ヴァルディアヌスを知っていて、かつ知り合った事は無い。となると―――いや、聞くのは野暮と言うものだろうか。
そう思って、返事代わりに家に乗り込む。
特に何か変わったわけでもなく、ただただ普通の古風な家と思った限りだった。
ただ、シンが扉に触れた途端謎の声がした。
『...結局、俺は<転生>したのか。ま、いいさ。
この声を聴くのもひさしぶりだと思うが、自分の声を聴くなんて思いもしなかったんじゃないか?
剣を握って戦う時代じゃないといいんだが...まあそうもいかないとは自分でも思うさ。
とにかく、まあ...くつろいでってくれ。冷蔵庫があるから、その中のものは色々と使ってくれてもいいぞ?』
「...なんてものを仕掛けてたんだか、昔の僕は」
その謎の声の正体はなんとなーくわかってきていたが―――僕たちは、暫くここを拠点として暮らすことにしたのだった。
...ただ、如何せん金欠問題が浮上してしまい...。
「...とにかく、冒険者ギルドってのがあるからそこで依頼をクリアしないと、だね」
此処に関しては僕より何十年分も詳しいと思われるシンのその助言によって、僕たちの行く先は決まったのだった。