アリオス尋常学院 or <転移森>
「...このような素晴らしい日に、沢山の新しき若い人たちがこのアリオス尋常学院に入学してきたことを嬉しく思います。私、ゲオルーガ・レヴィアヌスがこの場においてこれからの学業をお預かりさせていただきます」
確か、そんな事を言っていたはずだ。多分。
ということで、僕達は今アリオス尋常学院にいた。
此処は割と僕たちの家に近く、また沿岸部と山岳部の都市に挟まれるようにあるこのアリオスの中では標高が低めな部類の場所に位置する。
僕たちは相も変わらずヴァルディアヌス姓でいて、お父様もやはりアルフォンスを名乗っていた。
...ありふれた家名な筈なのだけど、一回も同じ家名を持つ人にあった事は無かった。
昔からある家名だから、もしかしたら今では貴族の人に多い家名なのだろうか...?
そんな無駄なことを考えながら、僕たちは長ったらしく続く校長の演説を聞いていた。
―――
「...ってことで、俺はこれから旅に出る」
「「...なぜにそうなるんだ」」
家に帰ってくると、唐突にイアはそう言った。
「なぜにそうなるんですか?どこかに行く理由はないと思うのですが...?」
口調は丁寧に、しかし少しだけ語気を荒くして聞くと、意外な理由が聞けた。
「...まあ、俺にも家族がいるんだよ」
この言葉には、僕もシンも目を見開くしかなかった。
「...まあ、俺にも家族がいるってだけじゃわかりにくいかもしれないんだが、俺の友達までの範囲の奴は中々におかしい奴らが多いんだよ。例えば、世界が違う場所に入って来たり、人間の肉体を培養して魂とかいう不可解なものを移動させたり、後は極小の機械を作ったり、だな」
イアの少し照れたような顔は、僕たちにとって全く意外としか思えないものだった。
「...なんだよ」
その顔のまま言ってくるイアは、なんとなく身内の恥を忍ぶように見えた。
―――
三日後、イアはいなくなった。
お父様は知っていた様だったけど、行先までは分からなかったようだ。
「...まあ、多分ラィデォルに行ったんじゃないかな?あそこは大きな大学があったはずだし」
ただ、予想しているように言った場所は僕にとってあこがれの場所でもあった。
ラィデォル魔術学院。
魔術を究めんとして、ラィデォル・ドリーマーと言う人が作ったものだった。
今は魔術以外にも護身術程度だけど剣術も少し齧ったり、夏の宴と呼ばれる休暇が有ったりと素晴らしい物が有ったりする場所だ。
僕のあこがれであり―――そして、シンがいつか行ってみたいと言っていた場所でもあった。
「まあ、新しい動きもあったらしいからね。制服の自由化だったり、学食の充実化だったり、色々とね」
お父様のその声は、僕にはもう届いていなかった。
そして、それを見たお父様が「...やれやれ」と言っていたのも僕には聞こえなかった。
―――
僕たちの周りは、最近ザワザワとし始めた。何故だろうか、という事は僕に聞かなくても分かるだろう。
12歳位となると、もう成人まではすぐだ。つまり―――。
「...恋愛感情、ねえ」
「全く、そんなものに踊らされるなんて大人になってからでいいんだよ」
僕たちの言葉は、きっと周りには逆鉾だろう。
そんなふうに思えるほどに、周りの反応と言うものは見てて分かりやすいものだった。
全く気にならない、というわけではない。
ただ、僕はそんなものに踊らされて死ぬよりかは、寧ろそんな感情を抱かない方が上策だと思うのだ。
恋を―――ましてや、僕が人を愛するとすれば、僕は守らなくてもいいと思えるぐらいな人と結ばれたいと思うのだった。
―――
『...さて、と。帰ろっか』
『ああ、そういえばもう放課後になるね。さっさと帰ろう』
そんな僕らは、異性にのみピリピリとしている彼らにとってはどう見えただろうか。
少なくとも、友人以上には見えてしまったのではないだろうか。
―――
「...アレ?こんなところに森なんてあったっけ」
シンがそういうものだから、僕はついそちらを見てしまう。
すると―――そこには、しっかりと森があった。
「...こんな所には森なんてなかったはずだよ?」
疑ってみても、元々そこにあったように見えた。
「...とにかく、僕は調べてみた方がいいと思う」
「そっか。じゃ、見てみるだけ見る?」
シンと意見が揃った為に、僕たちは森に突入する。
以上に霧のかかった場所だったために、何とか戻ろうとするものの、僕の方向感覚はすでに異常をきたしていた。
「...まずいね。早く出ないと、此処に取り残される可能性もある」
そんな事をシンが言うものだから、僕は何とかシンに引っ張られるようにして森を出る。
すると、霧が引いていき―――そして、見た事もないような都市が僕たちを迎えた。