<神体降臨>
「...えーと、<神体降臨>って何ですか?」
ガタっと、またもやロベルティオ先生が椅子から倒れる音がした。
「...すいません、私の説明が足りませんでしたね」
それでも持ち直したロベルティオ先生は、僕に説明を懇切丁寧に行う。
「...<禁忌魔術 神体降臨>。
通常の魔術師であればそれを発動させるだけで命取りとなりますが、まあ君位の魔力量の魔術師であれば何ら問題なく使えるでしょう。
...いや、私が言いたいのはそこではなくてですね。この魔術を使うと神体と転生した前の肉体が分かるのです」
彼の後ろに光る太陽が、僕を情けない顔へと変貌させていた。
―――
「...んな訳無いでしょう。僕がそんな能力なんか持ってるわけないですよ」
「私もそう思うのですがね」
隻眼につけられた片眼鏡のずり落ちてきているのを直し(何回も倒れたからだろうか)、彼は言う。
「...かつて、私がこの場に新人教師として赴任してきた時の事です。
魔術を使わせることによって魔術の適性があるのか確認していた私は、その生徒を見て驚愕しました。
彼は、君と同じく<時間遡行>を使ったのです。
彼の名はフィリップ・ヴェルドリア。このアリオスの、現領主です」
この言葉に、今回ばかりはロベルティオ先生ではなく僕が倒れそうになった。
なんてことをしてくれていたのだろうか、お父様は。
「...と、とにかく!<神体降臨>を使えばよろしいのでしょう!分かりました、使います、使いますから!」
とにかく、悲しそうな表情の裏にギラギラとした欲望を相も変わらず隠しているロベルティオ先生が怖くて僕は<神体降臨>を使うことに。
「「......!?」」
『...ん?』
...。
―――
「んああ...。よく寝た。ここはどこだ?分からないなら、それはそれでまあいいが」
その男は、ここ等辺では全く見られない見た目をしていた。
銀髪に、少し低めの身長。喋り方は中年の男のそれなのに、声は非常に高い。
茶髪が多いこの世界で、その見た目との乖離感―――確か、ギャップと言っただろうか―――が激しいその男は、珍しいものだった。
そして、僕はと言うと―――。
「...君の神体はそこの青年と同じような見た目ですか」
「...仕方ないじゃないですか。僕だってこんな神体を持ってるなんて思いませんでしたよ(そもそも僕は普通の人間だと思っていましたけどね!)」
―――悔しい事に、目の前の男と同じような見た目をしていた。
ちょっと違う所もあったけど、ほとんどの見た目の差異は無かった。
腰辺りまであるぼさぼさの銀髪に、割と高めの身長。声は高くなっていて、自分だと思いたくない見た目だった。
「...もしかして、だが。俺は邪魔だったか?」
...とそんな悩みを抱いた僕に、気まずそうに言葉を掛ける者が。さっきの男だったけど、僕にとっては彼を恨む様な事は無い。寧ろ、ロベルティオ先生を恨むだけだ。
なので、「いや、居てもらっても構いませんよ」と答える。
...どうしたものか。
―――
ヒバナ・イアと名乗ったその男は、一応僕の家にいる。
相当剣術の腕が立つようで、シンすらもあしらうからすごいものだ。
(因みに、その剣術の腕を見込まれたためにアリオスで剣術の指南を行っている。途轍もなく転げまわされているらしい。お父様もなかなか勝てないようで、でも特殊なことをすると勝てるようだった)
...で・も。
僕には、今お父様に聞かなければならないことがあった。
「...お父様?」
「...な、なんだい、レイ」
「...流石に、分かりますよねえ?」
「...。」
僕は、町の中心に位置する僕たちの家でお父様と相対していた。
いつもならば僕が気圧されるかもしれないのだけども、今日ばかりは別物だった。
「...もしかして、だけどもさ。僕が隠していたのが気に入らなかったのかな?」
軽く怯えながら聞くお父様。でも、僕は首を振り否と返す。
「...なぜ、こんな重要なことを隠していたのかも重要ですが、どちらかというと何故お父様が禁忌魔術など御云うものを知っていたかという方が重要です」
「そうかな?僕は―――」
「御黙りなさい」
その後、お父様が実は神族の生まれだという事を伝えられた。
それと、僕のお母様は裏切ったかしてまだお腹に子供がいるときにいなくなったらしい。
其の子がどこかにまだ生きているのかもしれない事、其の子も僕と同じく半神半人の肉体だという事―――それらは、僕にとって重すぎる話だった。
でも―――取り敢えず、僕はその後2時間弱、お父様をこっぴどく絞ることにしたのだった。