最後の『アリオス・ヴァルディアヌス』
少しだけ剣を持って騎士を目指してみようと思ったのは10歳の時、剣を握った時だった。
僕はその時に、夢を見ていたわけでもなく、本当に騎士を目指そうとしていた。
今、僕は剣を振って汗をかいている。
ここら辺になるとたまに強い獣―――魔物と呼称されている―――が出るため、それを倒すためにここら辺の農村の人たちは剣をある程度は使えなくては話にならない、と言われている。
僕も例にもれず、10の時に剣を握らされた。
父さんが沢山魔物を倒しに行っていること、そして帰ってくるとけがをしていることが多くて腕が立たない奴とお父さんが言われていることがあって、僕には剣なんてもらえないと思っていた。
でも、お父さんは僕に剣をくれた。
「この剣で、皆を守るんだぞ」と、そう言われて―――僕は、決意を固めた。
―――
12歳になった或る日、僕のいる村に剣術大会の達しが来た。
その結果として、15歳未満―――要は成人していなく、かつ剣が持てる奴での大会が開かれることになった。
一人一人の目はギラギラと光っていて、少し怖かった。
それでも僕は、何とか頑張った。出来るだけ頑張って、それで―――勝ってしまった。
僕にとって、それは本来あり得ない事だった。
僕が勝ってしまうなんて、おかしい。
周りからは、何かずるしたんじゃないか、とも言われたけどそれは僕が聞きたかった。
でも、大人の人に聞いてもその答えは「それがお前の実力なのだよ」と返してくるだけだった。
―――
僕は、なんでそうなったか今ならわかる気がした。
魔物と戦わされて、最悪食い殺されてしまうこの戦いに有望な村の子供たちを送りたくない、と思ったんだ。
それだけ、目の前にいるのは強かった。
でも―――僕はそんな魔物にも勝ってしまった。
残っていたのは、僕を含めて4人だけだった。
何処からか溜息を吐いてくる人の声が聞こえた。
何処からか、
『...えー、では今から最終選考を行っていきます。
第一に、対魔戦闘訓練として殺し合いをしていただきたいと思います』
そう聞こえた。
―――
騙されたと知ったのは、僕が3人を殺してその後に床が砂で下の蓋を隠しただけだったと知ってからだった。
逃げようにも、身体は動かない。きっと、人を殺めてしまったという後ろめたさがこうさせているのだろう、というのは僕でもわかっていた。
そんな折、僕の許に何かを蹴るような音が聞こえた。
『...可哀想に。どうせ死ぬのなら、私のために役に立ってから死んでほしいものだ』
それが、その人との出会いだった。
その人は、僕を助けてくれた。
「最近は、朋友を名乗る者が攻めてきていてね。どうせ死ぬのなら、私のために死んでくれないか?」
言っていることは酷かったけど、僕をだまそうとはしていないと思った。
どうせなら、そちらの方がいいだろう。
そう思って、僕はその人の言うとおりにその人と同じ道を付いていった。
アリオス、と言ったその人は、死んだ。
僕が15になったその日、僕と戦ってその命を散らしたのだった。
「...こうやって弟子に命を奪わせることによって、私の行動は意味を持つ。
...37代アリオス・ヴァルディアヌスとして生きてきた私だが、最後に名を君に授けたい。
この名で持って、君のこれからの安全を約束しよう。...いつか、また会おう」
その人は、死ぬ前に言っていた言葉通りに、肉を焼き骨を砕いて<紫雷八光剣>という彼の剣を砕いた。
そして、それを忘れないように鍛え直し、自分の剣として使うことにした。
―――
その頃、アリオスが言っていた朋友、というのが最近になってここにも聞こえてきた。
何も、魔の力を持った炎やら氷やらを大量に放出しているらしかった。
よくわからなかったけど、僕はそれを倒すことにした。
そこまで行く為には、僕が何かをできなければならなかった。
雨の日だった。
僕はその日、近くに魔物がいると聞いて倒しに行っていた。
それは、黒い化け物だった。
翼のような前足と普通の後ろ脚を持って、顔は少し猫を厳つくした様な、何十メートルもある大きな魔物だった。
ただ、僕には新しく入手した力があった。それは、<紫雷八光華>。
剣の方のガドヴァルトスドを天に掲げると、それは出てくる。
魔物を追って、どこまでも八本の雷が魔物に追い縋る。
そのおかげか、僕はすんなりとそれを倒すことが出来た。
―――
「...あれ?」
僕は違和感を覚えた。
なんだか、どこかから視線を向けられているような―――。
...と、がさがさと林の方から音が聞こえた。
また魔物が来たのか、と思ったけど―――それは杞憂だった。
人の姿をした少女が、僕の方に来たからだった。
でも、僕の受難はこれから始まるのだった―――。