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Case:7

 ウリエルの門に向かうということは、それだけ敵組織の造魔に会う確率が上がるということである。

 私も当然それに備えて強い心持ちを持っていた。

「ここまでやるとは私にも予想外だったな。」

 班長が否幻実性アンカーフラッグを握り締めたままそう呟く。

「完全に俺らの星が見えなくなっちゃいましたけど……どこまで連れていかれるんすかね?」

「いや、これ(アンカー)が効くってことは地球からは出ていないはずだ。」

「いきなり、今までと規模が違いすぎません……」

 汽笛が無い空気を震わせ轟音を鳴らす。

 他の乗客は影響下に陥った時点で破裂し、血液の氷塊を撒き散らした。

 私たちもアンカーに掴まり意識をしっかり保っていないと、地面から足が浮いてしまいそうになる。


 車での移動には距離が掛かり過ぎるため鉄道を選んだことが間違いだったのだろう。

 最初に出迎えてくれた造魔はこの機関車自身だった。

『星雲間鉄道666(ヒューマン)にご乗車頂き誠にありがとうこざいます。』

『まもなく、終点駅のある大マゼラン雲に突入致します。』

『車内非常に揺れますので、お手持ちの命を落とさないようにご注意ください。』

 悪趣味な車内アナウンスが鳴ると大きな揺れが起こり、危うくアンカーを手放しかける。

「先輩、これどうするんすかー?」

「否幻実性を纏っているとはいえ1時間で16万光年移動しているから下手なことが出来ん。」

「と言っても、このままだとどこかの星に着いちゃうっすよー?」

「そんな、このままじゃ……っ!!」

『ラージュ。』

 誰かに名前を呼ばれる。

「ど、どちらか呼びましたか!?」

「そんなことしてる暇は無い。」

「ラージュちゃん、怖くても気を確かに持つっすよ。」

『ラージュ、そっちじゃないわ。』

 再び呼ばれる、優しい女性の……

「班長っ、先輩っ、また夢の人に呼ばれてます!!」

「このままでは埒が明かん、前の件もある、行ってこい。」

「ラージュちゃんは俺が支えとくっす!!」

「わ、わかりました!!」

 ジース先輩に支えられ、遠くの声に意識を集中する。


『ラージュ……』

『こっちよ……』



 小さく聞こえる鳥のさえずり、小川のせせらぐ音。

「ラージュ、いらっしゃい♪」

 そして目を開けば自称姉。

「自称じゃなくて本当に姉よー。」

「心を読まないでください。」

「あら、本当に思ってたなんてつれないわね〜。」

 自称姉が釣り糸を川から引き上げると、色も形も、形容出来ない何かが釣れる。

「こっちは釣れたわね。」

「それで、何の用事で呼んだんですか?」

「ふふっ、慌てても慌てなくても結果は変わらないわ?」

 物体Xが釣り糸から離されると大気中に溶けて消える。

 本当になんなんだろうアレは。

「まぁ、急ぐ気持ちは分かるわー? 星雲間列車なんてどうしようもないから私に頼るしか無いものね〜。」

「別に、そういう訳では……」

「ふふ、私は答えを知ってるから、これしかないと言えるのよ。」

 自称姉の言葉と共に鳴いていた鳥のさえずりが止む。

 流れていた川は徐々に水位を失い、点々と水溜まりだけが川底に残る。

「まぁ、可愛い妹の為のチュートリアルお姉さんしてあげるわー。」

「ちゅうとりある?」

「えぇ、ゲームみたいで素敵でしょう?」

 それどころでは無いのだけど、ツッコミを入れていては進まないので口を噤む。

「いい、夢幻の存在っての自身の認識の押し付けに過ぎないから、その押し付けを拒否すれば良いのよ。」

「夢幻、幻実存在のことですか?」

「呼び方はなんでもいいわ、とにかく認識を押し付けて来る相手にはその認識を拒絶すれば良いわけね。」

「どうやって拒絶すれば……」

 瞬きをする間に自称姉が消滅する。

『簡単よ、歌と同じで認識しなければ問題ないわ。』

 頭に、直接声が響く。

『ふふっ、相手の世界なんて見えないし感じない、頭の中はこんがらがってるコードに包まり。』

『認識の押し付けをアナタの認識で塗り替える、ただそれだけ。』

『前回と違って、今度はお友達を噛まないようにね?』


 その言葉を最後に私の意識が……

「!?」

 泡沫のように消えず、目の前の視界がただの電車に変わる。

 窓の外には月光の下に田舎の田園風景が広がり、ポツリポツリと家屋が建っているのがわかる。

「あれ、先輩、班長……?」

「∑οινπύξ ιασίε ιτό ιατενίαφ μμχ.」

「Äluger nî itșe?」

「えっと……」

 双方から理解のできない言葉が飛び交い、頭が混乱する。

「今なら、多分大丈夫なので私が無効化してきます!!」

 旗の範囲外にゆっくりと足を踏み出す、よし、大丈夫!!

 そのままアンカーフラッグから手を離して先頭車両へと向かう。

 先程爆滅したはずのお客さん達は、車内を走る私に積極的関わろうとしないどころか、虚ろな目で虚空を見つめている。

 1両、2両と走り抜け先頭車両に着くと、顔が黒く塗りつぶされた黄色い目をした車掌さんがそこにいた。

「きけ抜りよ下天が我でかい、ぢんな!!」

「魔人間症治療更生局です!! 制御可能なら今すぐ幻実性の解消を要求します!!」

「へら喰もにれこどねらか分やるへ言何、め狼人!!」

 意味不明な言葉を紡ぐと、車掌が手を挙げる……

 が、しかし何も起こらない。

 どうやら言葉が通じないか、こちらに従うつもりが無いようなので否幻実性アンカーフラッグを取り出す。

「少し痛いですが、我慢してください!!」

 車掌の足にアンカーフラッグを突き刺し、車体へと固定する。

 悲痛な叫びと悶絶、それと同時に私は目眩に襲われ、壁に凭れる。

「はぁ、はぁ……何が……?」

 視界が歪む、身体が破裂する錯覚と異常な寒気が身体を巡っては消え、頭の中がぐちゃぐちゃになる。

「ぅ、あ、ぁ……っ!!」


 そのまま私は意識を手放した。

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