表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

Case:3

 研究室に飾っていた冬牡丹の花がポタリと落ちた。

 季節はジメジメと湿気強い6月、水も与えていない冬牡丹がついに死んでしまった。

「やっと、あの子も治ったのか……」

 否幻実性アンカーフラッグにより死神の効果が失われ、局内からは死が失われていた。

 花は水もなく生き続け、ラットは餌をやらずとも生き続ける。

 こもった部屋では雑菌やウイルスが死ぬこと無く増え続けるため、全ての部屋で大規模な換気を要求されていた。

「先輩〜、イスタラくんの肉体がやっと定着したみたいですよー。」

「この花を見れば分かる……で、なんでそいつがそこにいるんだ?」

「は、はい、研修を終え、本日から保護研究班に配属されました、ラージュ・ルガールです。」

 治療を終えた元人狼、ラージュが制服を着て私に挨拶をする。

 連絡すら来ていない事柄に頭が痛くなるが、取り敢えずは応えることにする。

「……保護研究班班長、ヘファスタ・アメノマだ。」

「先輩もラージュちゃんも硬いっすよー、もっと緩く行きましょー?」

「で、私は彼女がここに所属すること自体初耳なんだが……」

「ん、全員入ってるグループにメッセ送りましたけど。」

「生体用コンソール、BhOSが鉢屋バイオエレクトロニクスによって開発されたのは178年前、その後鉢屋コンツェルンが政界に介入し、新生児に標準搭載するようにしたのは142年前だ。」

「あー、確かに先輩には直接言うべきでしたね。」

 頭を抱え溜息を吐く。

「大体お前も後付けなのだからだな!!」

「えっと、御二人って一体幾つなんですか……?」

「ラージュちゃん、お兄さんに年齢を聞くのはマナー違反だぜ?」

「こいつが200ちょい、私が400からは数えとらん。」

「なんで言っちゃうんすかー!!」

 ラージュが驚きの表情を浮かべながらこちらを見つめる。

「え、なんでそんなに……」

「それはコイツが元吸血鬼の魔人間症、私が元……」

 会話を遮るようにアラートが鳴る。

 相変わらず魔人間症捜索班は仕事が早すぎる。

『モルフォフェウス二丁目噴水広場にて、実霊体の発生を確認。』

 また目立つ所に実霊体が発生したものだ。

「先輩ー、ミニ汎霊香炉ってどこありましたっけ〜?」

「無いならまた霊幻班に貸し出してるんだろ、ちょっと返して貰えるよう連絡しとけ。」

「えー、霊幻班取っ付きづらいんで先輩お願いしますよー。」

「私はコンソール付いてないんだって。」

「あ、あの、私は……?」

 ラージュの事を完全に忘れていた。

「あー、取り敢えず一旦着いて来い、実地研修みたいなもんだ。」



──────────────


 配属初日から実地研修。

 私の様に凶暴化した霊体、つまりは悪霊が跳梁跋扈していると思い、気を張り詰めて現場に到着すると……。

 そこには半透明の洋館があった。

「あー、これはまた物理的にデカい霊体だな……」

 班長が苦虫を噛み潰したような顔で見上げる。

「これは、洋館自体がその魔人間症罹患者なんですか?」

「ちげーっすよ、こっちは霊体で本体は大方中、そうっすよね?」

「確定はでは無いが高確率でな……」

 汎霊香炉が炊かれ、霊体の洋館が白く実体を持つ。

 班長が扉に手を触れ開くと、そこにはメイド服姿の少女の姿があった。

「いいいららららっしゃいいいいままままま」

「……マッド系だな、会話は通じないと見て良いだろう。」

「取り敢えず霊明粉かけて引っ張って持ち帰ります?」

「だな、さっさと連れ帰るか。」

「判断がすごく早いですね……」

 現れてから数秒足らずで、確かに狂っていることは私から見ても分かったが物怖じることなくすぐに対応策を講じ始めた。

「あー、まぁ、慣れてるし……あとはこの判断が出来ない奴から死ぬこともあるからな……。」

「先輩、照れてるんすかー?」

「笑ってないで粉持ってこい、今すぐだ。」

 私が熟練してもここまでテキパキと動けるのだろうか。

 そんなことを思案しているうちにメイド服の幽霊は捕獲され、車で局までの移送が始まった。



──────────────


「それでは、只今から問診を始めます。」

「わたわたわた。わわわわわたくしはくしくしははは、」

 罹患者に接続した狂気翻訳機からは、『わかりました、まずは何を答えればよろしいですか。』と表示される。

 どうやら出力される言語がマッドになっているだけで意識は正常、翻訳機を使えば意思の疎通が可能な程度ではあると安堵する。

「では、まずは貴女のIDとお名前をお答え頂けますか?」

おおおつおつかかれ、(申し訳ございません。)|ささまささまさままし、《データが欠損してます。》」

「承知しました、それではまずは記憶補完薬と塩化青銀エリクシウムを処方致しますね。」

 まずは記憶の補完と恒久的な実体化を行ってから治療となるだろう。

 長期的な治療の必要な罹患者の発生は久しぶりのことだ。

 問診をモニターしていた局員は肩を竦め苦笑いし、これからの残業を嘲笑しあった。

 今日も明日も、魔人間症罹患者が居る限り、国立魔人間症治療更生局はモルフォフェウスの住人の平和の為に働き続けている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ