検証の次の実験
長らく掲載を休んでいて申し訳ございませんでした。
「メラさん、MPってどうやって回復させるんすか?」
「ああ、うん、勝手に回復するけど、君の場合は保持MPが桁外れだから、睡眠して翌朝まで待たないと全快しないかも」
「まあ、遅くとも24時間以内には回復しそうな感じか」
俺は足にまとわりつくスライムを1匹取り上げてみた。
MPをたらふく食ったスライムはバスケットボールといった感じだ。
「なあ、おまえ、そのMP俺に返してくれないか?」
歩きながらそいつに訊いてみた?
スライムは俺に少しだけMPを返してきた。
「おおー、ちゃんと返還もできるんじゃねえか」
俺はスライムにMP吸収される前に自分でMPを与えてみる。
「なるほど、スライムの表面に馴染ます感じか。よし、今度はたーくさん戻せるか?」
スライムは俺にMPを送ってくる。
急激にスライムはしぼみ、空気の抜けたビーチボールのようになった。
「渉、そのクラランをホールドしてくれ」
「ふうん? こんな感じでいいか?」
「え、ちょ、狼藉は許しませんよ!」
渉は聖女を後ろからプロレスのフルネルソンの形に固める。
「お、いいね、右手をもっと絞り上げる感じで」
渉が、聖女の右手を肘で持ち上げる形で引き寄せる。
「え、痛い、痛い、痛い!」
痛がっているが、余裕はありそうだ。
渉が本気で締め上げれば、声なんか出せない筈だからな。
俺は聖女の右手に、ふにゃふにゃスライムを乗せる。
見る見るMPを吸い取って膨れ上がるスライム。
「ちょ、なんてことするんですか?!」
俺は聖女を無視してスライムにドレインを続けさせる。
しかし、注目すべきは、そのスリムがキラキラと輝き始めたことだろう。
もっと吸わせても良かったが、適当な弾力を持ったところで、取り上げる。
「も、一回俺に戻してくれるか? 半分でいい」
スライムは自分の体がしんなりする程度まで、俺にMPを戻した。
俺の体に今までとは異質の力が入っていることが分かる。
「渉、腹を見せてくれ」
聖女を解放して、制服のボタンを外して、まくり上げた翔の腹にはさっきのスライム攻撃で赤い痕が出来ていた。
手の平でたたくとできるモミジ模様が丸斑になったヤツだ。
俺はそれに治癒イメージを乗せて魔力を使う。
指先が光る。
しかし、光るだけだ。
「ヒールライト」
渉の腹に光が当たる様にイメージし、声に出してみる。
小さなスポットライトが翔の腹を照らし、赤あざが消えていく。
「ひーるらいとお?」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
俺はスライムにMPを満タンに与えて、聖女の手に押し当てる。
「そいつにMPを戻してやれ」
スライムが何度目かのふんわり状態になる。
「メラさん」
俺は、痩せてふやけたスライムにMPを与えながら訊いてみる。
「MP吸収で、相手の魔法を使えるようになったりするんですか?」
「ああ、うん、聞いたこともないねえ。まあ、実際今見たけど、とんでもない発見かもね」
「つまり、聖女のMPを奪ったスライムからお前がMPを奪ったから、ヒールが使えるようになったってか?」
「奪ってねえよ、戻してもらった、いや、譲渡してもらったが正解かな」
「あんたたち、いい加減にしなさいよ!」
「ああ? てめえ、四面楚歌って勇者に聞いたことねえかぁ?」
「周りに味方なんぞいねえってことよ」
スライム50匹が一斉に毒腺を向ける。
「ひいっ!」
100個の目で睨みつけられたように感じた聖女が悲鳴を上げかける。
「はああ? なんでそんな統制が取れた動きしてんのよ、この子たち」
「テイムって、こんなもんじゃないんですか?」
「あなた今、命令とか出してなかったわよね?」
「こいつが出したんじゃないんですか?」
俺の頭に上っている、きらきらスライムを指さす。
「この子、痩せてるのに、君の肌に密着してるのにドレインを使ってない・・・ まさかA級テイムなの?」
「なんだ、お前、腹減ってるのか? 勝手に食っていいんだぞ」
とは言いながら、俺はスライムに手を這わせてMPを送ってやる。
頭に乗りたいのなら、ある程度柔軟性がいるのだろうから、満タンにはしないでおこうか。
「やっぱりA級テイムになってる! スライムのA級テイムなんて初じゃないのかしら? そもそも、知性なんてないのにどうして忠誠心があるのよ?」
一人興奮しているメラさん。
「どうでもいいけどよ、それ、すっげー間抜けだぞ。瘤頭?」
「いいんだよ。俺のたっぱが補完された気分になって、丁度いいんだからさ」
「うひゃはははは! なんつー自虐ギャグだよ。ウケすぎ!」
馬鹿言いモードになって、俺たちはスライムを引き連れて道を歩いている。
メラさんは、ぶつぶつつぶやきながら道を進んでいる。
時折「そうか、そうなんだ」とか言って納得したり、「でも、しかし」とか言って考え込んだりしている。
「そんなに気になるんですか? こいつのスライム」
渉がそんなメラさんを気に掛ける。
「ああ、うん、そうね。普通ヒーラーや況してや聖女がスライムにMPドレインされたりすることはまずないわ。ヒーラーは基本的に防御に徹するし、パーティーだったら最優先で守るもの。スライムなんかがヒーラーに近づけることさえできない。そしてそれは遠距離攻撃をする魔導士、魔術師も同じこと。つまり今まではスライムが属性魔法を得る機会などありえなかった。更に今回の条件としてスライムがMP枯渇状態だったこと。そんな状態のスライムは人を襲うことすら困難。ありえない条件下だからこそこんな奇跡が起こったのね」
「解説乙っすね、メラさん」
と言う渉に、
「ああ、うん、私、テイマーが本職だから実に有意義な実証実験を見たわ」
とかしゃべりながらスライムを引き連れて歩いていると、正面から湖が見え始めた。
谷間を延々と満たしているような形状の湖だった。
メラカナティンは畔に立ち、右手人差し指を額に押し当てながら叫んだ。
「来―い! タタラン!」
離れた位置にある水面に小島のような物が現れ、こちらに近づいてきた。