第一野良魔物と遭遇
そんな身体状況を思い返していると何やら前方を横切るモノがあった。
こ、これは者か?
いや、物か? 魔物か?
いや、近づくにつれ、はっきり認識できるようになるが、例のアレか?
アレがついに、あらわれわれた のか?
「おおおっ! こ、これはもしかして!?」
「うむ! これはまぎれもなく!」
「スライムさんですかあぁぁぁー?」
俺たちのテンションはマックスになった。
そいつは舗装なぞされていない道の真ん中で動きを止めた。
俺はそいつをよく見ようと近づいた。
「ああ、アガワ君だっけ? 不用意に近づくと……」
スライム(仮)は俺の腹に飛び込んできた。
想像以上の衝撃が俺の腹筋を襲った。
「うおおおおおおおっ! ダメージだ! 異世界で初めてダメージ食らったぞ!」
「マ~ジDEATHかぁ!」
「俺はこのダメージを記念すべきマイナス1HPと呼ぶことにする!!」
「おお、基準点の構築ってやつDEATHねぇ!」
「この感動を君に!」
俺はラグビーボールをパスするようにスライム(仮)を渉に放り投げた。
渉はスライム(仮)を腹の前で受け止め、しげしげと眺めた。
そんな渉の胸元にスライム(仮)は体当たりをかました。
「おっほうっ! 結構えぐい衝撃だぜぇ」
それでも渉はスライム(仮)を取り落とすことはなかった。
スライムは渉の手に固定されてもがいているように見える。
「ああ、大体の構造がわかった。この口に見える棒状のものが軟骨みたいになってて、これを弾くことによってジャンプするんだ」
その軟骨を中心で固定され、宙に持ち上げられるとスライムは攻撃手段を封じられるようだ。
「風船みたいに見えるが全身筋肉みたいなもんか」
「この目みたいなものは何だろう?」
色はやや濃い円形の二重丸が一対あって、横棒状の軟骨がなければ、スライムと言うよりゲームのプヨに見えなくもない。
「そりゃ、毒腺だよ。潰さなけりゃ大丈夫」
メラさんが解説してくれる。
「毒腺だってよ。意外に多芸だなスライムさん」
「ああ、あれだな。ヒキガエルと同じで、捕食者対策なんだろ」
「ピキ! ピキ! ピキ!」
「あ、鳴いた?」
「そりゃ、仲間を呼んでるね」
「なんと!」
「なんと、スライムさんは仲間を呼んだ?」
「そして、集まった仲間は合体したりしますか?」
「いや、そんなのは見たことないけど」
「キングスライムはいないってよ」
俺は道端に2メートル幅ほどの窪地があるのを見て閃いた。
集まり始めたスライムをその窪地に放り込んでいく。
あっという間に窪地を埋め尽くすスライム。
「おお、密集すると弾ける支点がなくなって、飛び掛かってこれねえってか?」
「でもって、こうだあああっ!」
俺はスライムプールに仰向けにダイブした。
「うっひょお~! すっげー気持ちええ! めっちゃ高出力のマッサージチェア、もといベッドだぜ!」
スライムの軟体な体が集合した中で棒状軟骨が弾ける感触はなかなかマイルドに刺激的であった。
「ちょっといい加減にしなさい。スライムは何で魔物なのかっていうと、憑りついてMPドレインしちゃうからなのよ!」
「エムピードレイン?」
「衣服や、鎧越しならなんてことないけど、地肌で触れると一気に吸い取られちゃうわよ」
俺は手に触れているスライムを見ると、息を吹きいれる風船のように丸々と膨れ上がっていくのだった。