抗議するなら反論論破だ
瞬で視界が開け全く別とわかる場所の光景が広がる。
どこかの森林の中のようだ。
針葉樹であろう木々が見渡す限り立ち並んでいる。
足元には元の移転場所と同じような魔法陣の絨毯が敷いてあり、俺の背を押して地面に移動させた後、女はクルクルと絨毯を丸めて予め置いてあったのであろう荷物置き場に立てかけた。
「見たか? 丸めたぜ!」
「おおぅ、どこでもドアは実在したんだ!」
俺たちは感嘆の声を上げた。
「……これで追手の心配はしなくていいんですか?」
俺は荷物置き場の横に座り込む女に聞いてみた
「ああ、向こうの絨毯がうまく燃えてたら、まず逆探は無理だね。魔法陣を解読されても最短で半日はかかるだろう」
なるほど、絨毯に火をつけたのは魔法陣としての機能を破壊するためだったのか、と俺は納得した。
俺は女に向かって手を胸にあて頭を下げ一礼した。
「申し遅れました。私、吾川修一と申します。そこの『性女』一派に無理やり召喚されたものです」
「なんか字面が字面が違うような気がするので、もう一度言いますけど『聖女』です!」
「同じく非処女の性女のせいで巻き込まれた三島渉と申します。今後ともよろしくお願いします」
「聖女だから処女です! 非は余計です!」
「さっき自分で処女じゃないって言ったじゃねえか!」
「ち、違います。処女さんとか固有名詞っぽく言われたから」
「いいじゃねえか、どうせ遅かれ早かれ勇者専用便所だったんだろ? とっとと性女にでも慰安婦にでもジョブチェンジしちまえよ」
厚かましくも抗議する性女ならぬ聖女に俺は敢えて下種な言葉をかける。
「なんでそこまで貶められないといけないの私? そこまで酷いことした? 酷いと言えば、いきなりオッパイを剣で刺すってどういう事?」
切れ気味な聖女にイラ立ちながら俺は言い返すことにした。
「ああっ? 無駄に垂れた乳で心臓隠してるからだ。大体、召喚直後のあの状況が最悪最低じゃなかったら何だってんっだ?」
「おおよ! 謝罪の一言もねえとはどいうことだ? しかも現在進行形で発生してる俺らの損害実害認識してんのか?」
渉も追随する。
「損害実害って、そうならないよう保証はするつもりだったし、報酬だって用意してたし――」
「馬鹿か! これから元の世界で俺らを探索する家族・恋人・知人がどれだけ迷惑すると思ってんだ?」
「しかも全くの見当違いを探させることになる! 現状が長引いたら向こうの人間の努力は全部無駄になる!」
「ううっ……」
さすがに言い返せなくなった聖女を俺は改めて観察した。
背は159センチの俺よりわずかに高い。
高いが俺がいら立っているのは決してそのせいではない、決して。
金髪碧眼の顔立ちはまあ聖女を自称するだけあって美しい部類だろう。
「ああ、そうなんだ、納得ずくの召喚じゃなかったんだ、ふうん」
あきれたように座ったままで俺たちを見上げながら言った女は、ぽっちゃり体系の年齢判定が難しい、しかしどこか愛嬌のある顔をしていた。
ぽっちゃりなのにボンテージ風のボディスーツが残念だった。
「ああ、あたしゃぁ、メラカナティン、メラって呼んでくれていいよ。魔王の依頼であんたらを誘拐……こんなに素直に来てくれるとは思ってなかったから、招待ってことにするけど、まあ、魔界に連れてくつもり、うん」
「これから、すぐに魔界へ移動ですか?」
と、渉が聞く。
「いやあ、強制的に拉致るつもりだったから最低限の準備しかしてないの。けど、君らの状況には大いに同情できるし、協力的だから対応を変更する猶予が欲しい。つまり次の中継点で魔界のポリスに連絡とって、招待の準備をしてもらおうかと思うんだ」
「ポリス? 警察と連絡?」
「そりゃ、都市国家のことだろ? アクロポリスとか」
俺の疑問をすぐに渉が修正する。
「君らの召喚された場所が『ハンサのアクロポリス』という遺跡よ。これから連絡を取る魔界は第五デモンポリスと呼ばれているわ」
そう言いながらメラカナティンは立ち上がって荷物を持ち上げようとするので俺が制止する。
「お荷物はお持ちしましょう。メラお姉様」
「お姉様て…… あ、うん、そんなに重くないし、いいからいいから、それよりついてきて」
メラカナティンは森の中を移動し始めるので、俺らはついていくことにした。