取り合えず、敵勢力を頼ってみる
遺跡だか城塞だかの壁が途切れて開けた場所が正面にある。
俺はすぐには外に出ないで、周囲の状況を確認する。
「悪いが弓兵は全員殺す。周囲をよく見てくれ」
「弓か? 確かに厄介だな」
外よりも後ろからの追手が確認できた。
側面の支柱らしきものを狙って杖から『発動』する。
支柱が吹き飛び、狙った通り通路を塞ぎながら壁が崩れていく。
「弓はいないようだ」
渉が周囲を注意深く見まわしながら言う。
やはり、石材で組み上げた遺跡のような所だった。
高台や、見晴らしの良さそうな場所には誰もいない。
「外にも兵がいるはずだが?」
「あそこだ! 馬の周りに10人程度!」
木柵につながれた20頭以上の馬の周囲に兵が待機していた。
まだ、遺跡の中での騒ぎには気づいていないようだ。
「なあ、渉ぅ、馬なんて乗れる?」
「無理じゃね?」
「馬か、ああいうのって人間を痛めつけるより罪悪感がパねえよなぁ」
と言いつつ俺は杖の先を馬群の中の人間に向ける。
馬も巻き込んでしまうだろうが仕方がない。
『発動』
発射音は殆どない。
着弾するときに派手な音がして周囲に衝撃が広がるようだ。
馬とともに兵10人ほどが派手に宙に舞う。
俺は馬を繋いでいる木柵が縦方向に並ぶ位置について、杖から『発動』する。
柵が吹き飛び、馬が解き放たれる。
驚いた馬が走りだす。
こちら側、遺跡側に来ないように杖から威嚇の『弾』をもう一射する。
こちらに来ようとした馬は驚いて身を返し、遺跡から離れるように道を走っていく。
なるほど、よい道案内だ。
「行こう! 馬の後を追えば、ここから離れられる!」
「おう、俺が先に行く。シュウ、後ろをけん制してくれ」
俺は吹き飛ばした馬の位置で倒れてうごめいている兵に注意を払いながら道沿いに走っていく。
馬が走った後の土ぼこりが薄れてきた道を塞ぐように一人何者かが立っていた。
「はあい!こんにちは~ 君たちぃ。ここまでよ、止まりなさい」
渉が腕を掴んでいる聖女が「しまった」といった顔をしたのを俺は見逃さなかった。
「大人しくついてくるなら良し――」
「ハイ! 分かりました! お世話になります!」
俺は相手が皆まで言い終わる前に即答した。
「え、ちょ、おま…… 召還されたばかりで右も左も分かりませんがよろしくお願いします」
一瞬、戸惑いはしたが、すぐさま俺に合わせてくるのは流石は我が友。
「は? あ、い、いいの? ついてきてくれて……」
「もちろんです! この場所、このタイミングでの待機、すばらしい洞察をお持ちとお見受けします!」
「召還早々武装集団に取り囲まれ難儀しておりました。感謝に耐えません!」
「え? は? あ、あなたたち何? その態度の違いは!」
人質の聖女が突っ込みを入れてきた。
「こやつは、我らを召還した者共の一味です。お邪魔とあらばこの場で切り捨てましょうか?」
「はいいいっっ?」
「楯として使えるかと連れ回しましたが既に用済み、無能、無用な輩です」
「冗談じゃない! 私は有能です! 聖女! 聖女ですよ! ほら、もうさっきの傷だって治したしぃ!」
と言って聖女は胸の破れから地肌を露出させて見せた。
渉が斜め下を向き、チッとあからさまに舌打ちした。
「今、チッてした! なんで舌打ち?」
「ああ、うん、まあね、ここに移転陣あるから、次のポイントで考えよ。そうしよ」
「おお、なんと慈悲深いご判断!」
「流石でございます! ぜひ我らをお導き願います!」
「は、はいはい、じゃ、二人ずつね。大きい人と処女さんね」
「処女じゃなくて聖女――」
渉と聖女が絨毯のような敷物の魔方陣?の上に乗ると、小太りの女が外から陣の端の一部に手をかざすと二人は消え去った。
「じゃ、次あなた」
俺が乗ると、女は屈みこみながら魔法陣の外の絨毯の端に右手をかざして、発火させ、
左手を陣の一部に手をかざした瞬間、俺はブラックアウトのような感覚に包まれた。