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勝手に召喚なんかしてんじゃねえよ!

20〇×年3月1日、俺、吾川修一(あがわしゅういちと親友の三島渉みしましょうは異世界に召喚された。


卒業式後の『お礼参り』を撃退し終わった時だった。

河川敷の架橋の下に死屍累々と倒れた他校在学性他を後にしながら土手の上の舗装路に上がる俺たち。


「ほとんど1年か」

「中坊も何人か、いたなあ」

「いいねえ、若人は覇気があって」

「うーん、他校の未来は明るい。羨ましいこった」

「それに引き換え、うちの後輩は覇気がねえなあ」

とか、感想を交換しながら道を歩くと、男女ペアがあからさまに嫌な顔をしながら道路の反対側に身を寄せながらすれ違おうとした。

俺は、ケッと唾を吐き捨てたその時だった。



不意に足元に現れた円形の光に取り込まれたと思ったら、どこか古代遺跡のような場所に二人で立っていたのだ。





「おおっ、成功だ!」


「しかも、一度に4人も!」


大きな声が石畳のフロアに響いた。

周囲は大勢の剣や槍で武装した西洋風の金属製鎧を着た兵士だか騎士だかに取り囲まれていた。


「なあ、この状況って……」


大きなガタイを前にかかめながら三島渉が声を潜めて訊いてきた。

声が低いのは冷静さを保っている証拠だろう。


「お礼参りのシチュエーションにしちゃあ、凝り過ぎだな」


渉よりは大分背の低い俺は頭を親友の方に傾けながら、若干安心してボソッと返す。

円形の魔法陣らしき内側には俺たちの他にも若い男女が身を寄せ合っていた。


「ウソッ なになに?!」


「お、落ち着け! だ、だいじょうぶ……」


しかし、その声は裏がっていた。

あちらは明らかにパニくっている。


「ようこそ、バルマーへ! 危害は加えない。君たちの身の安全は保障する」


明るい大声で金属鎧を装備した若い男が話しかけてきた。


「突然のことで驚いているだろう? 事情を説明するので素直に聞いてほしい」


俺はこいつの「素直に」という言葉で腹を決めていた。

渉はどうする? と、言う意をこめて視線を向ける。

渉は、話しかけてきた男に目を向けた。

しばらく様子見、と言うことか。


俺はもう一度周囲を見回す。

魔方陣の上には同程度の大きさの円盤が吊り下げられていた。

地面の物に対になるように魔法陣が描かれている。

さほど重たくはないはずだが、明らかに必要以上の数のロープや鎖で支えている。

いや、支えているのは壁面の支柱か。

壁面には剣に盾を持った装甲兵が5人、剣と盾を帯びているがより軽装の兵が16人、入り口とみられるカーテンのようなものを垂らした場所に槍を持った兵が3人、正面に例の話しかけている男が一人、そして唯一の女、黒いゆったりした衣に杖を握っている術師か?が、男の横、やや離れて立っていた。

ドーム状のフロアに24人。

恐らく外には少なくとも二人、多くてここと同数と俺は推定した。

なぜなら、このフロアで俺たちを包囲するなら、もっと多い人数でなければならないはず。

それができないのは総数が足りないからだ。

もしくは、内部以上に外を警戒しなければならないのか?


しかし、魔族と魔王を倒すためとか、内容の無い話を能天気に説明している男を見ていると、その可能性は少ないと俺は踏んだ。


「申し遅れたが、僕は大山直人」


やはり、俺たちと同じく召喚された者か。


「ここでは、勇者と呼ばれている」


そいつがそこまでしゃべった時、俺は渉に顔を近づけた。


「俺は奴の剣を、お前は女を」


「しゃあっ!」


渉が大げさに声を出して黒衣の女に突進した。

呆けたように話を詰まらせた男、大山直人の方に俺はダッシュした。

大山はハッとしたように俺に注意を向け、剣を抜こうとした。


「遅い!」


そう、奴はすでに俺の間合いの中だった。

俺は大山と名乗った男、剣を握った右手に俺の前腕を打ち付ける。

空手の中段うち受けとういうやつだ。

ただの中段受けだが、握力100キログラムを超える俺が技として使うと攻守兼用の殺し技、止め技になる。


俺は空手の有段者だ。

フルコンタクト系の派生流派で父親が師範だ。

もちろん、親から七光りで譲り受けた黒帯ではなく、技許し、つまり奥義体得で認可された段位である。

その奥義は流派からのものではなく、俺のオリジナルな思想で体現したものだ。

空手で良く「空手道は受けに始まり受けに終わる」という思想がある。

逆にフルコンタクト系では「先手必勝」とか「攻撃こそ最大の防御」と言って、瞬発的な速さを競ったりする。

俺はその「攻撃こそ最大の防御」を「防御こそ最大の攻撃」に入れ替えて自分の受け技を完成させた。

つまり、極限まで握力をつけ、バットはもちろん鉄パイプの強打にさえ受けきれるように鍛え上げ、通常の立ち技攻撃の手足を、受け技でへし折るか脱臼させるか、打撃技以上のダメージを与えるまでに完成させたのだ。

手対手の攻防ならほとんどの相手の前腕や肘を骨折脱臼させるし、足技に対しても普通のローキック以上のダメージを与えるのだ。


大山と名乗る勇者とやらの手甲が潰れて右前腕に食い込んでいく手ごたえを感じつつ、俺はこいつが帯剣していた剣柄を掴んで引き抜いた。

その剣を振りかぶり柄頭で大山の兜を被っていない側頭部を強打した。

大山の眼球がひっくり返って仰向けに倒れる。

その様を見て一応気が晴れるのを感じる。

昏倒している大山よりも渉の方を見ると、すでに女を後ろから奪った杖で首を固定して締め上げていた。


「な、何をする?」


兵の一人、重装備の男が叫ぶのを横目に俺は渉と合流する。

渉も心得たもので女を盾にしながら、壁際に移動し背後に回られないように位置づける。

俺は女の胸に剣を押し付けながら口を開いた。


「要求を述べる! 今すぐ俺たちを元の場所に戻せ!」



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