キャンバスに写る輝く私
はじめまして。
Twitterやpixivの方では別名で活動させていただいております、保志坂本と申します。
文字を書く事が苦手なのに、小説の執筆をはじめさせて頂きました。
ので、文字数少なめのショートショートストーリーとなっております。つかの間の休憩がてらに読みやすいかと思われますので、少しでも気になった方いらっしゃれば目を通して貰えると嬉しいです。
今後とも是非、よろしくお願いいたします。
パソコンを叩くのを諦めて手をぶらんと横にぶら下げる。といっても、何時までもこのままではいられないので一つ息を吐いてからまたパソコンに向かう。
天宮陽三十歳、大手文具メーカーの事務である。この職場に来て三年目。何処にいっても長続きせずにこの職場でも結局…いつ辞めようか、キリのいい所で…そう思いながらズルズルと日付だけが過ぎ上司からは「来年からは新人教育だな」と期待の眼差しで見られている。
「(鬱陶しい…。何も知らないくせに)」
伸び悩んでいる成績、その事について小言を言われる日々、かといってこれといった考えはないし才能もない。
自宅に帰っても時々連絡のくる両親からの「良い人はいないの?」かと言うテンプレのような電話。ビール片手に平和に流れていくニュースをみて晩酌をする。
他人からの押し付け、押し付けの繰り返しの日々。
「(かといってやりたい事もない…。趣味も、友人との偶にの買い物くらいで。……私の人生って本当につまらない人生だわ…)」
私ってなにを生きがいに生きているのだろう。
そんなことを思い眠ったのが数秒前に感じるくらい早く目を覚ましてしまうが、時計を確認すると午前十一時十七分と表示され、疲れが取れない体を起こして洗濯物を適当に洗濯機に入れ簡易的に昼食を作って食べる。
「(気分転換に散歩しよ…)」
なんでそう思ったのかわからない。もしかしたら心の底で今の自分を変えたかったのかもしれない。
メイクもしないまま楽な格好で適当にそこら辺をブラブラする。スマホだけを持って何も考えずに歩いていると小さな公園がある河川敷に到着する。
こんな所に河川敷あるんだと階段を降り川に沿って歩いていく。
ベンチに座り酒を片手に談笑をするおじいちゃん達、自転車を二人乗りする学生カップル、お婆さんと子供が公園で遊んでいたり、その奥で三角座りしてる女の子。平日なのに意外に外に出ている人が多いなと感じた。
「(まぁ最近暖かくなってきたし外に出る人も増えてきたのね…)」
ここにいる人達みんな私と違って笑顔でキラキラしていて…
「(生きるの楽しいんだろうな)」
そんな事を考えていると公園の奥で三角座りをしていた女の子の方まで歩いてきていた。よく見るとスケッチブックで絵を描いているらしくて周りには色鉛筆が置いてあった。この視線の先には、お婆さんと子供が遊んでいて草花がカサカサと揺れているのが見えきっと絵になるだろうなと思った。
「失礼します」
私も少し休憩しようと腰を下ろす前に一言声をかけるけど集中をしているのか返事はなく、私は頭を少しさげ腰を下ろす。
お昼すぎなのに暑くもなく、風がまた心地よく肌に触れる、全身で感じる春の気候だ。
こんなゆったりとした休日はいつぶりだろうか…。仕事も自分の事も忘れてただ自然だけを感じるこんな時間もいいものだなと視線を前にやると女の子のスケッチブックの中身が見えた。
「(人は…描いてないのかな?)」
風景専門なのかな?確かにお婆さんともかく子供の方は動き回るからスケッチする方もたいへんだろう。でも、ここから見ても綺麗なスケッチをしているのだから子供とお婆さんはすんなり描けると思うのに難しいのかな?
でも…
「私はあの絵凄い好きだな」
思わずそう口から出てしまうと鉛筆が止まる彼女に思わず手で口を覆う。ほんの数秒だけだけど止まっていた鉛筆がまた動き始める。少し申し訳なくなって「すみません」と一言だけ謝って立ってその場を去った。
パソコンを打ちながら昨日の事を思い出す。あの子みたいに若かったらやりたい事も一つや二つ見つかったんだろうな…と過去をふりかえってみても…無かったな。
「天宮!少しいいか」
部長からのお呼び出し。理由なんてわかっている。
「最近の業績の件だが、答えは出たか?」
「はい…その件ですが」
ネットで調べたテンプレートのような言葉を部長に告げると苦い顔をして某アニメのキャラのように佇む。
「はぁ…。まぁキミがそう思うならそうしなさい。私自身は結果を出してくれたらいいんだよ」
「先輩方はキミにそう指導してきたのかな?何をキミに教えてきた?そしてキミはそれを次入ってくる後輩に伝えられるのかい?」
煩いな。何も知らない癖に。新人の頃どれだけ先輩をみて技を盗んできたか。どれだけ商品を調べて売り込みに行ったか。誰かの期待に答えるつもりなんてなかった、それなのに仕事をすればするほど勝手に期待したのはそっちじゃないか。ここの職場も私には合わなかった、勝手にお前らの理想を押し付けたくせに…。
「もしもし…天宮です……」
私は次の日会社を休んだ。
こうなればあと数日で私は退職届をだす、いつもの流れだ。起きた時間は十二時ちょっと過ぎでご飯を食べる気にもならなかった。その時ふと頭を過ぎったのはあの河川敷。
「あの絵…また見られるかな……」
そう思いながら河川時へと足を運ぶ。今日は暑い為か人通りは少なく見回しても人がいない。
「あの…」
はい?と後ろを振り向くとあの日子供と遊んでいたお婆さんに声をかけられる。
「こんにちは。今日は…お孫さんとご一緒じゃないんですね?」
「えぇ、今から幼稚園の方にお迎えに行くところなんですよ。その後からまた此方に寄らせていただく予定です」
「そうなんですね」
「それで…少し聞きたいことがあるんですが?」
「?はい、どうぞ?」
「よく、公園に座って絵を描いている女の子…お知り合いですか?」
え?と素っ頓狂な声が出てしまい、おばあちゃんまで目を丸くしてしまう。
「いえ…あの時はじめて…」
「あら、そうだったんですね。てっきり仲がよろしい方かと思いまして」
そこそこ離れた距離で話してもいなかったのにどうしてそう思ったか不思議にしているとお婆さんは楽しそうに笑って私を見つめる。
「私はよく孫とここの公園で遊んでいるのですけど、あの子ほぼ毎日のように絵を描きに来てるんですけどね?」
「けど人が近寄ってくると黙って立ち去っちゃうんですよ」
「あー。それで私が一緒にいたからそう思われたと…きっとたまたまですよ!ほら、私の影が薄かったとか」
そう言うとまた笑ってお婆さんは私に話を続ける。
「私も気のせいだと思ったんですけどね、あの時孫が初めて話しかけたんですよ-お姉ちゃん何描いてるの?-って」
「そしたら、黙ってスケッチブックを一枚破いたら-あ、あげる-って描いていた風景画をいただいて…孫がすごく喜んでね」
「はぁ…?」
「きっと何かいい事があったんだと思って貴方に聞いてみたの」
突然ごめんなさいね。と少し考えるお婆さんは時計を見て驚いた顔をする。
「大変!もうこんな時間!幼稚園の先生に怒られちゃうわ!」
「あの、申し訳ないんだけど…」
そう言って私に差し出すのは四匹の鯛焼き。
「コレをあの子に渡して欲しいの。この前の絵のお礼も込めて」
「わっ?私がですか?ちょっと待ってください!居るかどうかもわからないのに…」
「この時間はだいたい公園の方を見て絵を描いているわ。是非、お願いできないかしら?」
お年寄りの柔らかい口調のお願い言葉はどうしても断れない。これも仕事で癖ついたものなのかと思いながら結局断れず受け取ってしまう。
よろしくね。と一言残したお婆さんは階段をあがり河川敷を後にした。
河川敷を歩いているとお婆さんの言った通りいつもの所で絵を描いている女の子を見つける。
話しかけていいんだろうか…と少し考え覚悟を決めて女の子に話しかける。
「あの、とっ隣…よろしいでしょうか?」
「………どうぞ」
はっ話せた!第一歩を踏み出せ心の中でガッツポーズをとり隣に腰を下ろす。
……が、その後なんて話しかければいいのかわからなかった。
年下であろう彼女に話しかける事は容易だろうけど緊張してしまい話題が出てこない。そんな時、視線を落とすと目に入る鯛焼きに目的を思い出し絵を描いている彼女にそれを差し出す。
「あっ!これ、鯛焼き!」
「……?…はい鯛焼きですね」
「あの、よくここでお孫さんと遊んでいるお婆さんいるでしょ?その人から!」
「…お孫さんと?……遊んで、いる…」
鉛筆を止めて考え込む彼女にえぇ?と少し困惑してしまう。
「ほらほら!この前女の子に絵をあげたでしょ?」
「……あぁ、お姉さんにあった日ですね。確かにこれくらいの小さな女の子に…あげた…ような?」
「なんで曖昧なのよ!」
「だって…人に……興味ありませんから…」
そう言うと私に一言「ありがとうございます」と言うと鯛焼きを受け取り、中身を確認する。
「四匹も…。流石に一人では食べきれなさそうなので……よかったらどうぞ」
「えっ?あ、ありがとう」
差し出された鯛焼きを受け取る。視界に入る鯛焼きに今日一日何も食べていなかったことを思い出し思い出した空腹から大きくひと口頬張る。……カスタードだ。
横を見ると彼女も遠くを見ながら美味しいのかわからない無表情なまま鯛焼きを食べ進めていく。
「あの…聞いてもいいかな?」
「…はい?どうぞ」
「なんで、人に興味ないの?」
「絵を好きに描かせてくれないから」
二匹目の鯛焼きを頬張りながらそう答える彼女に「絵を?」と質問で返してしまう。
「そんな素敵な絵を描くのに?何か言われちゃったりするの?」
「……そう言うのお姉さんだけだよ」
嬉しかったのか少し微笑みながら私に最後の一匹の鯛焼きを渡してくる。それを受け取るとまた遠くを見ながら話し始める。
「絵が描きたくて大学に行ったけど、どんなに賞を取っても、描くもの、画材、場所、時間まで決められて…ウザイんだよね」
「特に人を描くのが嫌いで、外見だけの人を描いても何も心に残らないから描いていてつまらない。私は心に残るものを描きたいだけ」
「それもあってか…人に興味がなくて……その顔とか名前が全然覚えられないんですよね」
彼女のその言葉を聞いて少し自分と照らし合わせてしまった。彼女みたいな才能溢れた子でも人に押し付けられたりするんだと。
そう思って見ていると最後の一口を食べまた鉛筆を握る彼女。そしてスケッチブックに向かい描き始める。
「……あの、話くらいなら聞きますよ」
「え?」
「その、なにか…悩み事とか、あるんですよね?」
鉛筆を動かしながらそう言う彼女に思わず驚いてしまう。人に興味が無かったんじゃ無いのか?それとも聞かなかった事にするから話せとでも言っているのか…私は思わずフッと笑ってしまいもう一度座り直して彼女に話しはじめた。
「私さ今、〇〇っていう文具メーカーで働いているんだけど…」
と、つらつら話始める。相槌も無ければ共感もない、ただ一方的に私が独り言のように話していただけだけど気持ちが楽になった気がした。
「んー!ちょっとは楽になったかな、ありがとう話聞いてくれて」
「……凄いですね」
彼女からそんな言葉が出てくると思っていなかったので思わず「え?」と返してしまう。
何が凄いんだろう。私は人として当たり前な事をしていてその当たり前に出来ることを甘えのようにシンドいと愚痴を垂れただけだ。
「私にはそれは出来ません。人を観察して自分のモノにしようとか…どうすれば商品が売れるのか観察して売り込みに行くとか……凄いと思います」
「あっはは。社会人になったらそれが当たり前だよ?キミもこうなれるから心配しなくても大丈夫だよ!」
「じゃぁ私は社会人になれません」
そう言ってスケッチブックを置くと私に目線を合わせて真剣な表情で見つめてくるから思わず心臓がドキリとしてしまう。
「さっきも言いましたけど、私は人に興味がありません。嘘つきだし、自分が正しいと思って正論と思って言葉をぶつけてくる。自分と違えば外に追い出されたり」
「子供の時からそんなことの繰り返しで…今私が人を見るとモヤがかかったように見えて描けないどころか覚えることすらも出来ません」
「だから…そうやって人を見て動くことが出来るお姉さんって、私から見たら凄い人でキラキラ輝いているように……見え、ます…」
「あっ…ありがとう……」
少し頬を染めながら思った事を素直に言う彼女に声がどもってしまう。
はじめてそんな事を言われた。そうか、私にとっての当たり前が彼女には出来ない。私にとって才能が溢れた彼女にも出来ないことはある。
そっか、私も誰かには輝いて見えていたんだと少し嬉しくなった。
「それに…お姉さんのお陰でこの色鉛筆とも出会えた。私は…お姉さんに凄く感謝しないといけない」
「えっ?あ、その色鉛筆ウチの商品!」
私が新人の時に何個も売り込みに行った色鉛筆。全部が全部私のおかげという訳では無いけど実際にこんな素敵な絵を描く人に使ってもらって感謝までされたら頑張った甲斐が有ると心臓が締め付けられるくらい嬉しかった。
「私も…あんな素敵な絵を描く貴方にそれを使ってもらえて嬉しいよ」
「え?」
「あっ!いや、こっこの間の絵!の、覗き見するわけじゃなかったんだけど!チラッと見えた時に!すっ凄い綺麗なーと思って!」
「まるで見えている景色を自分一人の物にしてるみたいで!」
「あっ…あ、え?」
私が慌てて言葉を出すと、嬉しかったのか顔を真っ赤にして膝に顔をうずくめる彼女。何か言ったように聞こえたが顔を押し付けゴリゴリと動かすからゴモゴモという言葉しか聞こえない。
そうすると彼女に突然スケッチブックを押し付けられ「あげる」と照れ隠しをするかのようにギュッギュッと押し付けられる。
「いいの?ありがとう」
受け取ったスケッチブックの中身を見るとこの河川敷の色んな景色のスケッチがされていて、やっぱり人はいないけどとても綺麗だった。
最後のページをめくると「えっ?」と驚いた声を出してしまう。
「わ…私?」
「……久しぶりに人なんて描いたから…うっ、上手いかどうかは分からないけど…」
腕の中から目線を私にうつしてそう言う彼女。
「いや、すごく綺麗だよ…」
さっき独り言のように愚痴を吐いていた私がこんなに綺麗に見えるわけが無い。ナルシストな訳じゃないけどこの絵の私は本当に素敵だった。
「嘘偽りないお姉さん…。さっきも言ったけど、そのお姉さんの姿がキラキラ輝いて見えて…綺麗だった」
「いっいや、人描けないんじゃ!」
そう言うと「それもそうですね」と遠くを見ながら少し考える彼女。そして閃いたかのように私にこう告げる。
「お姉さんは…私の特別なのかもしれません」
「はぇ?」
「私は変わっていく四季の風景がキラキラかがやいて凄く好きです。それと同じくらいキラキラ輝いている…私の絵を好きって言ってくれた……」
「お姉さんが大好きです」
言うならばただ目に見えた風景に対して言ったセリフに違いない。そのはずなのにここ数年言葉にされてこなかった私に対しての好意的な言葉に慌てて立ち上がってしまう。
「なっ、何言ってるのよもう!あ、ほっほら!お婆さん来たらちゃんとお礼言うのよ?」
「あっ!待って!」
彼女は私の手を掴み動きを止めさせる。
「〇〇芸術大学三年、白谷葵です!この時間ほぼ毎日ここで絵を描いています!お姉さんのこと教えて下さい!」
「あえっ?あっ…雨宮陽三十歳……独身です」
「私!ここでほぼ毎日この時間絵を描いてます!だから!また!また会いに来てください!会ってください!」
必死の勢いに思わずどもりながら「うん」と返してその場を去った。
ドクドクと跳ねる心臓と赤くなる顔にいつぶりの感情だろうと少し照れ笑いしてしまう。
家に着き扉がしまった事で家に溜まった空気の冷たさを感じ、まだ自分の体が暑くなっているのを実感してしまうが…それも悪くはなかった。
「……また、会いに行こう」
あれから数日が経ち桜は散り、木々が青々とし始める頃デスクに座ると横でクタとして倒れる新人ちゃんにお疲れさまと流行りの抹茶オレを差し出す。
「日高さんお疲れさま。よく歩いたね?一ヶ月で一商品売れるなんて凄いよ?」
「ふぇー、ありがとうございます。と言うか…天宮先輩の教え方のおかげですよ」
数ヶ月前までは新人を持つなんて思ってもなかったけど、日高さんの素直さもあっていい新人を持って良かったなと思う。報告書を書こうとパソコンを立ち上げるとポロンという音と共にスマホにメッセージが入る。
-今日は早く終わりそうなんで晩御飯作っておきますね-
「おっ!恋人さんですか?いいなぁー!私も天宮先輩みたいにバリキャリになって!早く恋人ほしいですよー」
「あはは。日高さんならすぐ出来ると思うよ?」
「と言うか待受、風景画ですか?凄い綺麗ですね!推し画家さんとかですか?」
「日高さんもそう思う?うん、そうなの私の推し画家さん」
……兼、私の恋人さんの絵なんだけどね。
キャンバスに写る輝く私
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
はじめて書かせていただいた百合がまさかの年の差で自分でも驚いてます。
自分から見たら輝いている人生の人でもそれに満足しているとは限らない、逆もしかり。
書いていたらそんな話になっていました。
また近々書かせてもらいたいと思っておりますので、その時はよろしくお願いします。
保志坂本