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7話 GⅠ 桜花賞


4月2週 阪神 1600m 芝 右

GⅠ 桜花賞(牝馬限定)


『桜の女王は誰だ!?』

満開の桜に彩られ、華やかな阪神競馬場に集う若き乙女たち。中でも誰もが注目するのが2人の乙女。1番人気は朝日杯FSで牡馬たちを見事蹴散らした、2歳女王スノーベリー。年末には最優秀2歳牝馬にも選ばれた同馬です。

ベテラン臼井調教師が「昨年より成長した姿をお見せしましょう」と胸を張るだけあり、万全の状態に仕上っている。

また、鞍上も前走の武田騎手から、昨年の最多勝利騎手に輝いた河田騎手に乗り替わりしています。

これが今回だけなのか不明ですが、陣営がこの一戦に賭ける気持ちが伝わってきます。


その2歳女王に挑むのは、2番人気のソヨカゼです。こちらも阪神JFで勝っただけではなく、前走のチューリップでもその実力を遺憾なく発揮しています。

ここ阪神で2度勝っている同馬。果たして、3度目も勝てるのか!?


新人有馬調教師は、「ソヨカゼは成長途中ですからねー、案外レース中にも成長するかもしれませんね」と不敵な発言をした。

この言葉の意味するのは、何か?

前走でカシスレーベルとの競り合いで見せたものなのか?

こちらも、目が離せません。


現在、この二頭で人気を二分している桜花賞ですが、本誌が注目しているのはシンザン記念を勝っている外国産馬のシーズンスター(父ガリレオ)です。

中穴が高確率でくるのが、ここ阪神。二強以外にも、注目してみては如何でしょうか。





「と言う訳で、2番人気になっちゃいました」


競馬雑誌を見せながら、智子は戯けて言う。その姿に信忠は苦笑した。


「俺の中では、ソヨカゼがいつでも1番人気だから問題ない」


「あら、良いこと言うわね。で、今回のレース展開なんだけど、完全にガチンコ勝負よ。マルガイが4頭もいるし、どの陣営からもその本気が伝わってくるわ」


「武田君を外したのも?」


巴は気にしている事を尋ねる。


「カシスレーベルを阪神じゃなく、中山のニュージーランドトロフィーに持って行ってるからね。陣営としても騎手に配慮したんじゃない?」


「あぁ、NTと桜花は同日だからか」


「えぇ。それに今年まだ勝ちがない同馬だから、牝馬3冠よりNHKマイルカップに照準を変えたんじゃないかな」


どの馬だって勝ちたいのだ。

どれだけ惜しくても、2着と1着では全く違う。それは明確に、勝者と敗者の違いなのだから。


「やっぱ……勝ちたいよな」


「当たり前でしょ!」


信忠のボヤキに巴はムキになる。

馬だけじゃない、騎手だって勝ちたいのだ。


「悪い。ただ、どんな名馬も負ける時があるだろ?いつかソヨカゼにも、その時がくるかと考えると……」


「あら、何を想像してるのか分からないけど、世の中には16戦無敗で凱旋門賞を連覇してる名馬リボーもいるわよ?」


それは世界的に有名なイタリアの名馬だ。

それとソヨカゼを同列に扱う智子に、信忠は照れ臭くなる。


「あ、うん」


相槌をうちながらも、智子の中でのソヨカゼが、いったいどんな評価なのか信忠は気になった。


「ところで、作戦なんだけど……前回と同じでいいの?」


「まっさかぁー。この私が何も考えずに、わざわざ手の内を晒すわけ無いでしょ。きっと、どの陣営もソヨカゼの前走を見て研究してるわ。だからこそ、その裏をかいて今回は残り400mで切り札を使うわよ」


「それまでは馬なり?」


「えぇ。今回は逃げ馬がいないし、他の陣営はソヨカゼを逃げ馬だと思っているだろうからね。誤魔化せてる内は、続けるわ」


我が母ながら、そういう強かなところに呆れるより尊敬している巴。

智子とそっくりな笑みを浮かべながら、大きく頷いていた。






『4コーナーを曲がり、先頭はソヨカゼか。いや、後ろからスノーベリーだ。ソヨカゼを交わし前に出る』


巴は焦る。まさか、直線になる前にソヨカゼが交わされるとは思っていなかった。

既に半馬身も前に出られている。

しかも、少しづつ離れていく。



まだ、なの……

早く、早く……



巴には、400mの標識がとても遠くに感じられた。

焦る気持ちを必死に抑えつける。

スノーベリーとの差が1馬身になろうかというところで、ようやく残り400mを過ぎた。


「負けるもんかぁーーー!行け!ソヨカゼ!」


その魂の言葉は、ソヨカゼの闘争本能に火を着ける。

地を這う姿勢に変え、前のスノーベリーへと襲いかかった。



『スノーベリーで決まるのか。だが、内のソヨカゼも堪えているぞ。ん、ソヨカゼだ、ソヨカゼがその差を縮めて来たぞ!これはどうなる。残り200mをきり、ここからは登り坂だ。ここでソヨカゼがスノーベリーを差し返したぁ!』



坂に入り、スノーベリーの前に出るソヨカゼ。その差を半馬身までつけるも、それ以上に広げられずにいた。


「負けんじゃねぇー!」


河田騎手の激励に応えるかの如く、スノーベリーはソヨカゼに懸命に食らいつく。



『やはりこの二頭なのか。葦毛と葦毛の一騎打ち。僅かにソヨカゼが前に出るも、スノーベリーもきっちり残っているぞ。……おおっと!?ここで外から、外からシーズンスターだ!シーズンスターが物凄いスピードで突っ込んで来た!』



ゴール直前、巴の視界に黒い馬体がはいる。


「行っけぇーーーー!」


その時、無我夢中で巴は叫んでいた。



『物凄いスピードで来たシーズンスター、だが僅かに届かない。勝ったのはソヨカゼだ。2着は首差でシーズンスター。1番人気のスノーベリーは3着か。

今、阪神競馬場にソヨカゼが吹く!

17枚の花びらを散らせ、見事、桜の女王となりました!』



その手に汗握る展開に、信忠の心情は口から零れ出した。


「っ危っねぇーー。はぁ……はぁ……」


そして、傍にいる智子は喜ぶ。


「あはは。勝った!勝った!」


その無邪気な言葉の裏腹で、智子は内心の冷や汗を隠していた。








【ソヨカゼ】

勝負根性:A→A+


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