最終話 ソヨカゼ
最終話
深森家に1通の手紙が届く。
礼子はその差出人が信忠なのを確認すると、おもむろに封を開けた。
そして、中から手紙を取り出すと読み始める。
ところが、最初の2行を読むだけで、頬をヒクつかせながら読むのをやめた。
若干苦笑いの礼子は、同封された写真を見ながら、夫である匠に声を掛ける。
「貴方、信忠から手紙が届いたわよ」
ソファに座りながら、匠は手紙を受け取るとゆっくりと読み始めた。
礼子もその隣に座り、写真を眺めている。
親父、お袋、元気にしてますか?
あ、お袋は元気か。最近会ってるし。
心配なのは親父だ。
医者の不養生って言葉もあるから、身体には気をつけて欲しい。
俺の方は、相変わらずだ。
智子叔母さんのおかげで、色々な人と出会い、色々な場所へ行った。
親父は興味ないと思うけど、2年前の有馬記念で勝ったのはラストブリットだったんだ。
その時さ、馬主でヤシロRC代表を務めてる吉野さんが、目頭を赤くしながら涙を堪えていたのが、凄く印象に残ってる。
勝つ事は難しい。
でも、それ以上にきっと諦めない事はもっと難しいんだよな。
周囲からもうダメだと思われ続ける中で、吉野さんとラストブリットは諦めなかったんだ。
それが結果に結びついたんだと思う。
そうそう、ソヨカゼは今も元気にしてる。
あの日のレースの後は、色々と大変だったけど、今じゃ立派なお母さんだ。
もっとも初恋の相手が、ストームバンガードだったのには驚いたけどね。
きっと恋する乙女の底力が、色々と奇跡を起こしたんだと思う。
BCクラシック史上初の同着だったし、致命的な怪我も奇跡的に回避出来た。
それを知った巴は、泣きながら喜んでいたな。
あと、ソヨカゼが初めて産んだ仔は、男の子だったよ。
春の嵐のような、強風が吹き荒ぶなかでの出産。
それにまったく動じないで、直ぐに力強く立ち上がるとお乳を飲み始めてた。
きっと凄く逞しくなるんじゃないかな。
毛並みは、ソヨカゼに似たみたい。
今はまだ墨汁を薄めたみたいな毛色だけど。そのうち、今のソヨカゼみたいに真っ白になるんじゃないかな。
だから、こう名付けた。
『ユキカゼ』ってね。
俺的にはいい名前だと思っている。
いつの日か、ユキカゼが走る時は見に来て欲しい。
仕事が忙しくて大変なのは知ってるから、無理しない範囲で。
最後に、今度紹介したい女性がいるんだ。
是非とも、会って欲しい。
その女性は、シャドーロールみたいなそばかすが可愛い人だよ。
礼子が眺めている写真。
それには、ナヨタケとソヨカゼ、そして産まれたばかりの仔馬のユキカゼ。
その三頭の前に信忠とアリスが写っていた。
2人して、照れながら笑っている。
写真の上部は少しだけ肌色で欠けていた。
それが礼子には、父親の仁の指だと直ぐに気づく。
礼子はこの素敵な写真を撮る仁を想像して、なんだか幸せそうに笑っていた。
おわり
【ソヨカゼ】
スピード:S
勝負根性:A+
パワー:S+
瞬発力:B
柔軟性:B
健康:A
精神:A+
賢さ:S+
距離適性:1600m〜2400m
スキル:スタート・二の脚・大舞台・根幹距離
芝適性:◎
ダート適性:◎
脚質:自在先行
主な勝ち鞍:無敗牝馬三冠・BCクラシック・ドバイWC・ジャパンC
厩舎:有馬厩舎
調教師:有馬智子
厩務員:根津公平
主戦:有馬巴
馬主:深森信忠
生涯戦績:14戦無敗
2歳新馬:1着
アルテミスS:1着
阪神JF:1着
チューリップ賞:1着
桜花賞:1着
優駿牝馬:1着
ジャパンダートダービー:1着
秋華賞:1着
ジャパンC:1着
東京大賞典:1着
ドバイWC:1着
ヴィクトリアマイル:1着
KGⅥ&QES:1着
BCクラシック:同着
称号:『祝福されし奇跡の風』