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八話 冒険者、それはおしなべて戦う者

 俺は少し遅めの朝食を済ませてから、見慣れたホームの前に来た。

 この時間なら誰かしら起きている可能性があるので、入口を叩いて声を掛ける。


「おい! 誰か起きてるか! 荷物を片付けにきたんだ!」


 昨日は流れでパーティを脱退してしまったが、パーティメンバーから認証されないとホームには入れない事をすっかり忘れていた。

 これは長年同じパーティにしかいなかった事による弊害か……と後悔した。

 他人から見たらきっと、相当に間抜けな光景だろう。

 誰からも返事がないので、俺は何度か声を掛ける。少し恥ずかしさを感じ始めた辺りで、ようやく中から人が出てきた。


「はいはい……ってあっれー? シンさん、何か用っすかぁ?」


 メンバー内では一番の新人だったクルトが、かなり気怠そうに聞いてきた。

 昨日言われた通り「部屋を片付けにきた」と言うと、クルトが気持ちの悪い笑い方をした。

 俺はその顔を無視して中へと入っていく。

 そして通り慣れた廊下を進み、『シン』と名札が掛けられている使い慣れた部屋の扉を開けた。

 だが、俺が見た部屋の中は全くと言っていいほど様変わり……いや、俺の『物』が全てなくなっていた――。


「なんだ、これは……」


 俺は部屋の入り口でただ、立ち尽くしていた。

 すると、後ろからクルトの声がしたので振り返る。


「この通り、シンさんの部屋はもう片付いてるんで。帰って大丈夫っすよ」

「片付いてるって……俺の装備や本、それ以外に家具も何一つ見当たらないってどういう……」

「見て分からないんすかぁ? アッハハ! アンタの物なんてぜーんぶ換金したんで、もう何も残っちゃいないっすよ!」


 アイテムなどの換金が出来るところと言えば……商業ギルドか。

 そこで全て売ってきたという事か。


「貴重なドロップ品や古い本もあったはずだが、それはどうしたんだ」

「だから見たまんまっすよ! 昨日アンタが帰ってこなかったからさぁ? サピエルさんに売っていいか聞いたら許可出たんでー、俺の装備とか新しくしちゃいました。いやぁ助かりましたよ! ホームインベントリにめっちゃ貯め込んでてくれてさぁ!」


 そう言ったクルトは、自分の部屋から持ってきたのか、確かに傷一つ付いてない綺麗なロングソードを見せ付けてきた。

 いちいち癪に障る言動をしてくる。きっとそうして俺の事を煽っているのだろう。


 部屋の物がなくなったという事は、俺がこれまで収集、加工などしておいた物。つまり冒険者としての『証』が全てなくなってしまったという事だ。

 サピエルの腰巾着だったクルトが、ペラペラと喋ってくれた。

 そのお陰で、このパーティからいなくなる寂しさのような感情からは完全に吹っ切れそうだった。


「そうか。もう分かった」


 俺はもうここには用がない、すぐにでも立ち去ろうとクルトを避けて歩き出す。

 すると、クルトが立ち塞がって邪魔をしてきた。どうやら俺が悔しがっている顔が見たかったようだ。


「いやいや、それだけ? もうちょっと反応欲しいんすけど?」

「お前と話す事はもう何もないからな。じゃあな」


 クルトに構わず出口へ向かおうとすると、いきなり肩を掴まれた。

 俺は壁に叩きつけられるように押し付けられて、一瞬声が漏れた。


「勝手に行くんじゃねぇよ、おい!」

「何だ? 俺はこれから用事があるんだ、邪魔をしないでくれ」

「ナニ? パーティから抜けて調子ノってる訳? ただのサポーターだったアンタが、よくそんな口叩けるよなぁ?」

「確かに俺は強力なモンスター戦では役に立たなかったかもしれない。だが、お前程度なら簡単にあしらえる程度には長年冒険者やってるんだ。だからもう止めておけ」


 そう警告してやると、みるみるうちにクルトの顔が赤く染まっていく。

 実際にハッタリなどではなく、クルト程度なら俺でも捌ける。いや、勝てるとまで言ってもいい。

 それはクルトがまだまだ実戦経験は少ない事と、慢心しきっているその心のせいだ。

 俺は事実を伝えただけだが煽り返されたと取られたようで、クルトが更に激昂する。


「はああぁぁ!? いやホント、なーに調子こいてんの? おっさんさぁ、さっきも言ったけど。アンタみたいなのはただの『寄生虫サポーター』で、モンスターを狩る俺が『冒険者』なんだよ! 分かってなさすぎるでしょ!」


 早口で長々と吠えているクルトは、掴んでいた俺の肩を離してくれた。

 こういうところなんだよな、と思いながら少しずつ距離を取っておく。

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