七話 宿無しの男
俺は眩しさを感じて目が覚めた。気持ちの良い朝……という訳ではない。
いつもはどれだけ遅く寝たとしても、サポーターとして朝一番に起きていた。まぁアイツらは大体昼頃までは起きてこないので、多少寝坊しようが咎める者はいなかったんだが。
それでもパーティメンバーの朝食兼、昼食は全て俺が用意していたし、洗濯やパーティ全員分の装備の点検などやる事はいくらでもあった。
だが、今日は気が抜けて熟睡し過ぎていたのだろう。少し頭が重いくらいだ。
俺は目を細めながら窓の外を確認、今の時間を予想する。
太陽の位置を見るに……朝飯を食べるには流石に寝過ごした時間、といったところだろうか。
俺はベッドから出ると、部屋に備え付けてある風呂場へと向かう。
昔の紅玉亭にはこんな良い設備は付いてなかった筈だが、最近はかなり繁盛しているという事なんだろうか。確かに昼も夜も騒がしい時が増えているような気がするしな。
軽く汗を流して風呂から出ると、取りやすい場所に置かれている真っ白な布を手に取る。
布からは柔らかな感触が手に伝わってくる、きっとサーヤが毎日洗濯しているのであろう。
その布で身体を拭き終えると、少しくたびれた服を着直す。同時にサポーターを長く経験してきた俺の有って無いような、だがとても大事な武器と防具の状態を確認しながら装着していく。
基本的に、俺の装備は篭手と軽装備の胸当てや腰当て程度になる。後は至近距離で使う——または護身用とも言えるナイフが一本だけだ。
サポーターはタンクやファイターとは違って、前線に出ないしなんだったらクエストにすら着いていかない事も多い。だが俺は荷物持ちの名目でクエストに参加していた。
だからこそ必要最低限でも武器防具は必要だった。
装備を着けるのも慣れた物で、そんなに時間も掛からず全ての支度を終えると俺は部屋を出た。
食堂へ向かうと、昼食の仕込みの手伝いをしていたサーヤを見付けた。
「サーヤ。昨日は部屋があって助かった。今日も頼むと思う」
「シンさん、おはようございます! 分かりました。ホームレスになっちゃった可哀想なシンさんの為に、精一杯綺麗にしておきますね!」
やはりサーヤたちは昨日の内に、知っていたみたいだな。
だから部屋の中がいつもより綺麗だったのか。本当に噂というのは伝わるのが早い。
サーヤの言う通り所属パーティから抜けたので、俺も『ホームレス』の仲間入りなのは確かだ。
俺はある程度の貯金もあるのですぐに飯も食えない、なんて事にはならないからまだ安心出来る。
とは言ってもいつまでもこのままでは時間の問題だろうけどな。
それにリリアとの約束もある。今後は上手く時間を見付けてソロでクエストを受けていかないとな。
今日はまず、サピエルのところから荷物を回収、その後リリアのパーティメンバーたちとの顔合わせがある。昼過ぎに会う予定なので、今からなら大丈夫だと思うが遅れないようにしないとな。
危なっかしい手付きで野菜を切っていたサーヤの後ろで、鍋の仕込みをしているのが見えていた親父さんにも昨日の食事と宿の礼を伝える。
親父さんは、背を向けたまま「おう」とだけ返事をくれた。
それを聞いた俺は、紅玉亭を後にした。