六話 親心、子知らず?
サーヤに急かされて店の外へと向かう俺たちだが、とある事をまだ話し合っていない事に気付いた。
「なぁリリア。そういえば俺は明日、何処に何時頃向かえばいいんだ? 朝からじゃなければ何時でも大丈夫なんだが」
「え、明日ですか?」
リリアは不思議そうな顔で頭を横に傾けた。
俺は今日『パーティホーム』に戻るのが面倒だったのと、少し気まずいというのもあり、もうこのまま紅玉亭で宿を借りるつもりでいた。部屋数が多い訳ではないらしいが、何故かいつも空いているのでたまに利用させてもらっている。
一階へ降りると親父さんが厨房を片付けていたので「今日も頼みます」とだけ伝えると、いつも通りぶっきらぼうに「あいよ」とだけ返ってきた。
おそらくリリアも、冒険者ギルドから借りている自分たちのホームがある筈だ。
だから今日は解散の流れだと思った俺は、リリアに明日の事を聞いた……のだが。
彼女の反応を見るに、急ぎの相談ではなかったのだろうか。今すぐにでも助けてほしいような雰囲気を感じていたのは、俺の勘違いだった可能性がある。
それとも明日は、クエストにでも行く予定だったのだろうか……いや、それならむしろ俺も居る方がすぐにアドバイスも出来て好都合のはずだ。
少し考えてみたがよく分からなかったので、直接リリアに聞いてみる事にした。
「出来るだけ早くそっちのパーティを見に行くのかと思ってたから、明日行くつもりだったんだが。急だったか?」
「あ、いえ。そういう訳じゃないんです。今日はこのまま私たちのホームまで着いてきてくれるのかなぁ、なんて思ってました」
リリアが喋った言葉は、俺の予想外の言葉だった。
流石にリリアの紹介があるとはいえ……夜にこんな冴えない男を連れて帰ったら、俺がリリアを引っ掛けた悪い男に見られそうだ。
なので、ホームに入るのは改めて明日という話に持っていく。
「いや、もう夜だからな。送るくらいはしてやっても良いが、そのまま中まで上がるのは止めておく」
「えー! うぅ、そうですかぁ……早速皆さんに紹介出来ると思ったのに……」
残念そうなリリアだったが、俺が「明日は出来るだけ早く向かうから」と宥めるとすぐに機嫌を持ち直してくれた。
どうにも彼女に対しては、甘くなってしまっている自分がいる事に気付く。
冒険者としてまだまだ初心者なのに、俺に話し掛けてくるような行動力があって、エルフなのにまだまだ子供っぽくて、つい目が離せないといった感じだ。
俺は一応、リリアを送っていこうとしたのだが「街の中だし、これくらいは大丈夫です!」なんて断られてしまった。彼女の事だから多少心配ではあったが、この街は治安も良い方だし冒険者ではあるのだからきっと大丈夫なのだろう。
彼女のホームの場所も聞いておいたので、俺は店の外でそのまま見送る事にした。
リリアは「では、また明日!」と元気よく手を振りながら、街の賑わいの中に消えていった。
そして俺が店の中に戻ると、仕事が終わって暇そうにしていたサーヤがいた。彼女に話し掛けていつも借りる部屋へと向かった。
その時にリリアの事や「紅玉亭で寝るなんて久々ですね!」なんて茶化されたりもした。
きっとサーヤの耳にはもう、俺がパーティを抜けた話が入荷してきているのだろう。
酒が入った冒険者ほど口の軽いやつはいないからな。まぁ、聞かれたところで困るような話でもないから構わないのだが、こうして揶揄われるのは少し癪に障る。
俺はサーヤの相手は早々に切り上げて、部屋へと入った。
すると、すぐに眠気に襲われたので俺は逆らわない事にした。
それもそのはず。今日は朝早くからクエストの準備をして、ブリッツワイバーンを討伐して、サピエルたちから追放されて、リリアからスカウト紛いに話し掛けられた。
こう考えると、今日はなんだか色々な事が起きた一日だったな……。
俺はこれまでの生活と、これからの生活が変わる気配を感じながら意識を手放した。