五十八話 昔話
「それでちょっと聞きたいんだけどね。シンくんとサピエルくんは昔からの友達だったわよね?」
小さい頃ならそうだったかもしれない。
だがパーティを抜けた時にはもう奴隷のような扱いを受けていた気が……。
俺はそう思ったが、口には出さず神の言葉に同意しておいた。
「……まぁ。そうと言えばそうなるな」
「それなら昔の事を少し聞かせてほしいのよね」
「昔の? 最近の事じゃなくてか?」
「ええ。サピエルくんが消えた事と関係がある……かもしれないのよ」
神はなんともはっきりしない物言いだったが、俺は気にしない事にした。
とにかく話しを進めるためには、昔話をしなければいけないらしい。
「分かった。ただ面白い話は特にないと思うぞ」
「そんなの構わないわよ。流石に仕事の事で茶化したりしないわ」
一応釘を刺したが、元々真面目に聞くつもりだったらしい。
最初に会話をした時から軽薄だった神の事を、俺はほんの少しだけ見直した。
「どこから話したもんか。そうだな……」
俺は捨て子だった、らしい。
それは拾ってくれたサピエルの親父さん――ヴェイグさんから聞いた話しだった。
ヴェイグさんのパーティは、レオニスの他にも色んな人が所属していた。
勿論そこにはサピエルもいた。
俺たちはまだ歩く事も出来ないくらい幼かったが、女性も所属していたので特に問題は起きなかった。
そして俺たちが物心つく頃。
ヴェイグさんたちからギルドの事、パーティの事、心構えなんかをよく聞かされていた。
まだ幼い俺は理解するには難しかったが……今思えば、きっと絵本代わりに話してくれていたのだと思う。
いくつか歳を重ね、最初はナイフから、順々に教わって最後には剣の扱い方を教えてもらえる事になった。
その頃には色々と聞かされていた事も少しは理解出来るようになった。
するとこの辺りで自分が捨て子だった事を、ヴェイグさんから教えてもらったんだったか。
パーティのみんなは、それでもサピエルと同じ扱いをしてくれていた。
更に月日が経って、まだ子供ながら俺たちは簡単なクエストに同行出来るようになった頃。
サピエルはすぐにユニークスキルを手に入れて、一人でもモンスターを相手に出来るようになっていた。
だが俺は反対に、なかなかスキルが覚えられずにいた。
その代わりにクエストで使えそうな知識を増やして、少しでもパーティの役に立てるように努力するようになっていった。
レオニスはそんな俺を見て本当に色んな本を持ってきてくれた。
中には読めない言語で書かれていて全く使えない本もあった。
それでも俺は図や絵だけでも、と思って必ず目を通すようにはしていたけどな。